勇気づけリーダーの学級経営〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
これからを生きる資質・能力を学級でつけるには?勇気づけリーダーの学級経営
勇気づけリーダーの学級経営(4)
アドラー心理学でクラスが変わるのは本当か?
上越教育大学教授赤坂 真二
2017/9/20 掲載
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1 クラスを健康な状態にするマネジメント

 アドラー心理学を適用すると教育が変わる、とか、子どもやクラスが変わるとよく言われます。それは本当なのでしょうか。
 アドラー心理学に基づく教育の代表的な方法論にクラス会議があります。クラス会議を実施してきた先生が、ある時、行事などのやるべきことが立て込んできて、日々の業務をこなすことでいっぱいいっぱいになり、クラス会議をやらないでいたことがあったそうです。そんなある日、「なんかクラスの調子がおかしいな」と感じたそうです。それはちょうど、

クラス全体が風邪を引いたような感じ

だったそうです。それでクラス会議を再び始めました。すると、また、クラスはもとの「感じ」にもどったそうです。みなさんは、この感覚なんとなくわかりますか?「クラスが風邪を引く」という感じです。風邪を引くと自分の体が自分のものでなくなるような感覚になる方もいるでしょう。そんなふうに、「クラスが風邪を引いた」というのは「いつもと違う」様子を表現したのだと思います。それは、自分の担任するクラスでありながら、なじみのないクラスのような感じがしたのかもしれません。
 私はこのお話をお聞きして「うまいことを言うな」と思いました。この話は、クラス会議にかかわる話だとは思いますが、クラス会議は、アドラー心理学に基づく教育のエッセンスをギュッと絞って集めたようなものなので、アドラー心理学に基づく学級経営の特徴をよく表している話だとも思いました。
 アドラー心理学の学級経営における機能を端的に示すと

クラスを健康にするマネジメント

だと言えると思います。
 アドラー心理学に基づく教育を理解するときに、最初に取り上げられるのが、子どもたちの「問題行動」への対応ではないでしょうか。これが余りにも的確でわかりやすい、しかも効果があるので、ついついそこに目を奪われがちです。しかし、そこだけに目を奪われると、子どもたちの教育において、アドラー心理学問題が投げかけている本質的な問いかけを見誤ることになるでしょう。子ども個人の問題行動については、また、回を改めて言及することにしたいと思います。アドラー心理学では、子どもたちの問題行動に対応するときに、その

適切な行動に注目しよう

と言います。このことを理解するときには、ある特定の子どもの事例を挙げて、分析をした方が理解しやすいわけです。アドラー心理学は、日本においては、学校教育への適用よりも保護者を対象とした子育てへの活用の方が、広がりが早かったと思います。よって、個の子どもへの対応、それも「問題行動」への対応がよく知られるようになっているのではないでしょうか。それを捉えて、「アドラー心理学は、まず、問題行動ありきだ」と批判するのは的外れではないでしょうか。

2 「適切な行動に注目すること」の意味

 「子どもの適切な行動に注目しよう」という方針は、そのまま学級経営の方針として活用できます。しかも、現代の学級経営において、多くの教室で忘れられがちな、とても大切なことを指摘してくれていると思っています。

図1

 クラスには、上図のように必要な支援の段階によって、次のような子どもたちが混在していると考えられます。
 一次支援とは、「全体指導での支援」です。先生方が、「挨拶は元気にしましょうね」とか「今日は、みんな姿勢がいいですね」と普通にやっていることです。
 二次支援とは、「全体指導における個別支援」です。机間指導などはこれにあたると思います。
 三次支援とは、「個別支援」です。これには、より専門的な知識や技術が求められます。三次支援や二次支援は、近年、特別支援の理論と技術が現場によく知られるようになり、現場の先生方もとてもよく学ばれていると思います。しかし、その一方で、子どもたちの数で言えば、

圧倒的多数である一次支援については、多くの教師が我流でやっている

のが現状ではないでしょうか。もちろん、とても適切な我流をやっておられる方もいます。だから、我流が悪いとは申しません。しかし、特別支援のように共通項目がないので、やっている先生はやっているというレベルなのです。つまり、先生によって受けられる指導が異なっていて、本来なら伸ばされる能力も伸ばされていないという可能性があるのです。問題を起こさないから、また、気にならないから、支援をしなくていいのでしょうか。
 一次支援レベルの子どもたちのケアをせず、二次支援、三次支援だけをしているということは、特別な支援が必要な子どもだけに注目をしていることになります。これは、不適切な行動や気になる行動をした方が、教師のケアを受けられると感じたり考えたりして、そうした行動を始める子どもたちが出てくる可能性があります。機能が低下した学級のケアをしていると、むしろ、機能が低下する学級は、二次支援レベルの子どもたちが、三次支援レベルの行動をしたり、一次支援レベルの子どもたちが、二次または三次支援レベルの子どもたちのような行動をしたりすることによって、混乱している場合が見られます。
 「適切な行動に注目する」ということは、集団指導においてこそ重要な考え方なのです。問題行動をしている子どもたちばかりに注目し、そこにばかり関わっていること(子どもたちにそうやって受け取られてしまっているということ)は、学級経営の観点から見るととても危険なマネジメントだと言えます。
アドラー心理学は、

今、この瞬間、適切な行動をしている人たちは誰かを見極め、そして、その子どもたちに相応の注目をしようとする考え方として活用できる

のです。クラスの健康を保つには、それなりの理論と技術があるわけです。アドラー心理学を学ぶことによって、クラスが変わるかどうかは、求めるレベルによって違うでしょうが、少なくとも「健康な状態」にはなると思います。

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『アドラー心理学で変わる学級経営 勇気づけのクラスづくり』『資質・能力を育てる問題解決型学級経営』『最高の学級づくり パーフェクトガイド』『スペシャリスト直伝! 主体性とやる気を引き出す学級づくりの極意』『クラスがまとまる! 協働力を高める活動づくり』『教室がアクティブになる学級システム』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり』『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)

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