- シリーズ発刊に寄せて
- シリーズの読み方
- まえがき
- 第1章 【3月】学級づくりのゴールイメージ 『好き』『もっとやりたい』と言い出す1年生に
- 1 ちょっと「特別」な学年
- 2 1年生のゴールイメージと育てたい子ども像をもつ
- 3 1年生を集団にする指導の基本のスタンス
- 1 最初は個,やがて全体へ
- 2 1年生担任の役割と心構え
- 3 「勇気づけ」ができること
- 4 「勇気づけ」に必要な3つの視点
- 第2章 【4月〜5月】温かさと丁寧さで,まずは学校生活を好きにする
- 1 1年生担任に決まったら猛ダッシュで準備
- 1 入学式までにやることリスト
- 2 入学式の教室はかわいらしく,温かく,ぬかりなく
- 3 笑顔で凛と立とう!入学式
- 2 笑顔全開!保護者の前での学級開き
- 1 入学おめでとうクイズ
- 2 担任の名前紹介
- 3 握手でコミュニケーション
- 4 心を伝える絵本の活用
- 5 「お預かりしました」宣言で保護者へご挨拶
- 3 いよいよスタート!小学校生活を軌道に乗せる合言葉
- 1 指導事項を洗い出し,1週間の予定を立てる
- 2 笑顔で迎え,笑顔で帰す2日目
- 3 教室の外へ 考えさせ,ほめながらの3日目
- 1年生エピソード@「教室が分からなくなっちゃった!」
- 1年生エピソードA「このにおいは,○○くんだ!」
- 4 学習指導&給食指導開始でてんてこ舞いの2週目
- 1年生エピソードB「麺が飛び出した!」
- 4 組み合わせと切り替えでひと工夫
- 1 学習のスタート〜国語・算数編〜
- 2 生活面の安定〜話を聞く・切り替える〜
- 5 どう決める?1年生の学級目標
- 6 最初の難関!初めての学習参観日と学級懇談会はここに注意
- 1 初めての参観日の心得
- 2 初めての学級懇談会の配慮
- 7 5月の一大イベントで学校の一員に
- 1 児童会行事でデビュー戦の勝利を
- 2 一大行事 大運動会で成長を
- 学級づくりチェックリスト
- 第3章 【6月〜7月】子どもを勇気づけ,挑戦意欲をかきたてる
- 1 勇気づけの「おはようメッセージ」
- 2 子どもを知り,つながる「なんでもトーク」
- 3 季節や生長を実感させる受け止めと返しを
- 4 学習習慣の素地を耕す「やる気」と「聴く」
- 5 みんなが仲間〜「クラス会議」初めの一歩〜
- 学級づくりチェックリスト
- 第4章 【夏休み】認めてねぎらい,2学期への意欲をもたせる
- 1 2学期のスタートが楽しみになるように
- 1 がんばりをねぎらい,十分な事前指導を
- 2 休み中ならではのやりとり「ハガキ大作戦」
- 2 しばしの休息と作戦タイムでリフレッシュ
- 第5章 【9月〜10月】スムーズなリスタートから,かかわりを意識させる
- 1 まずは学校生活のリズムの取り戻しを
- 1 かかわりをもたせる「夏休み思い出トーク」
- 2 満足感を得られる「一人一課題発表会」
- 3 できていることを価値づけながら再指導
- 4 子どもをよく見てかかわりを
- 2 リスタートは目指す姿の共有から
- 3 学習に興味をもたせるきっかけの「呪文」
- 4 秋を感じて,思いきり活動を
- 1 たたきぞめ
- 2 種取りと種数え
- 3 つるでリース作り
- 4 秋探しからものづくり
- 5 ありがとうを込めた「ハートカード」
- 6 みんなで力を合わせて発表し,成功体験を
- 学級づくりチェックリスト
- 第6章 【11月〜12月】みんな意識と細やかケアで大きな成長を促す
- 1 マラソン大会をみんなで乗り切る「お守り大作戦」
- 2 サインをつかみ,手を打つための質問紙の活用
- 3 保護者を勇気づける個別懇談
- 4 子どもが成長!まわりを巻き込む生活科
- 1 収穫の秋 サツマイモパーティーで感謝を
- 2 保育園との交流で他者意識を
- 5 言葉を意識する「ふわふわ言葉とチクチク言葉」
- 6 自分たちで決めたルールは守る〜「クラス会議」を通して〜
- 学級づくりチェックリスト
- 第7章 【冬休み】これまでを振り返り,最後のスタートを仕掛ける
- 1 少しずつ色を抜き,次への希望をもたせる3学期
- 2 愛情を見える化し,迎える新学期初日
- 1 学級写真と暗号で黒板にワクワク感を
- 2 当たりくじをつけ,年賀状にオプションを
- 3 新学期を盛り上げるイラストを
- 第8章 【1月〜2月】成長を自覚させ,満足感で締めくくる
- 1 当番活動から係活動への緩やかな広がり
- 2 道徳「心がキラキラいいことちょきん」で心育て
- 3 自分たちで話し合い,解決を模索〜「クラス会議」を通して〜
- 1年生エピソードC「ハムスターの名簿は何番?」
- 4 成長を自覚し,感謝を伝える振り返りを
- 1 「できるようになったこと発表会」で自己肯定感アップ
- 2 6年生へ感謝を伝える「ありがとう集会」
- 5 学級じまいにフェードアウトの視点を
- 1 1年間の歩みを共に振り返る
- 2 進級への切符
- 3 自分たちでできた満足感を
- 学級づくりチェックリスト
- 第9章 【1年間を乗り切るコツ】予防の視点と仲間の力で生き延びる
- 1 1年間そこにい続けること
- 2 スタートダッシュが肝心
- 3 日々の対応は予防の視点で
- 1 子どもの変化に敏感に
- 2 質問紙で子どもの認知を把握
- 3 子どもとのつながりをいつも意識
- 4 職員間で子どもの情報を共有
- 5 靴箱・椅子チェックと環境整備で安定を
- 4 日常に時々刺激を入れ,気持ちに活を
- 5 助けてといえる仲間と指針となるメンターを
- 1 助けを求められる同僚性を
- 2 学べる・こぼせる仲間を
- 3 メンターをもつ
- 6 自己メンテナンスを
- 1 自分の苦手な時期を知り,ペースを調整
- 2 疲れ切る前に緩め,疲れたら休息を
- 3 仕事以外のことに触れ,リラックスを
- 第10章 学級づくり20ポイントチェック
- 〜集団を育てるための定期点検リスト〜
- 1 学級づくりにも定期点検を
- 2 学級づくりチェックリスト
- 3 いつも自分のあり方を見つめながら学級を見る
- あとがき
シリーズ発刊に寄せて
アクティブ・ラーニング。「主体的で協働的な学び」と説明されるように,そこでは課題解決に向けて積極的に他者とかかわる学習が展開されます。高い意欲と活動性に支えられた学習は,温かさと安心感が保証された集団において実現されることは,多くの説明を要しないでしょう。学びの質への問いかけは,即ち「質の高い学びを成立させる集団とは?」という集団のあり方への問いかけなのです。
日本の学校教育において,学級は「楽園」でした。そこは,子どもたちの笑顔で溢れ,瑞々しいやる気に満ちた場所として捉えられてきました。しかし,その様相が変わってきたのが1990年代です。中学校では「普通の子」が感情を暴発させて,刃物で人を傷付けるような事件が報道されました。
そして,小学校においては学級崩壊と呼ばれる機能不全に陥る学級の存在が知られるようになりました。2000年になると,この現象は全国各地で聞かれるようになり,小学校の「楽園神話」は確実に壊れていきました。
かく言う私も,小学校教師だった1990年代半ばに機能不全に陥った学級を担任しました。初対面の時に,誰一人私を見ることなく,私語を続ける子どもたちの姿に愕然としたことを覚えています。それまで授業づくりに関する方法を必死に学んできた私は,慌てて学級づくりの情報を集め始めました。しかし,情報がなかったのです。当時は,授業づくりに関する情報は豊富にありました。1単元の全指示・全発問を示した書籍から1年間使えるワーク集までありました。ところが学級づくりに関する情報が見当たらなかったのです。
生徒指導の事例を扱った書籍はありました。しかし,それらはみんな個別の事例を扱ったものでした。学級の殆どの子どもたちが着席しない,話を聞かない,そして,毎日のように生徒指導上の問題が起こるような学級への対応法を示した情報は手に入りませんでした。
それから数年が経ち,運命的な出会いもあり,私は仲間とともに,学級づくりに関する情報を発信する機会をいただくようになりました。学級崩壊がメジャーになるに従って,学級づくりに関する書籍が次々と発刊され,それまであまり関心を向けてこなかった研究者も学級づくりを研究の対象とするようになりました。かくして書店の教育書コーナーには,学級づくりに関する書籍が数多く並ぶようになりました。
しかし一方で,教育界は,PISAショックに端を発した学力低下論争から,特に義務教育において,学力調査の結果に関心がはらわれるようになりました。それが現在も続いていることはみなさんがご存知の通りです。先生方の関心は,授業づくりに集中するかと思われましたが,どうやらそう単純には事は進行しませんでした。いや,学力向上という結果を出さなければならないからこそ学級づくりにも真剣に関心をはらわざるを得なくなったと言えます。
大学教員となった今,各自治体教育委員会の要請により,年間かなりの数の学級づくりの講座を担当させていただいております。「学力向上の基盤は学級づくり」との認識からでしょう。これまでの授業づくりへの関心は,授業のネタや教授方法に向けられていました。つまり,「どんなネタをどのように教えるか」ということだったのです。しかし,今は,数値としての学力が問われる時代になりました。指導の過程よりも指導の結果が重視されるようになったわけです。
先生方の関心が授業づくりに向けられるようになったからといって,学級崩壊の問題が解消されたわけではありません。むしろそれは多様化し,複雑化しているのが現状です。以前のように単純に無秩序状態になっているとか,教師に反抗しているといったわかりやすいものだけではありません。一見,授業は成り立っているようですが,何となくダラッとシラッとしていて,低意欲の状況が見られたり,表立って大きな問題はありませんが,ネットなどの電子空間で仲間を激しくいじめていたりするような「静かなる荒れ」と呼ばれる事態も見られています。
指導の結果が重視される時代になったからこそ,「学びの場としての学級のあり方」が新たに問われていると言ってもいいでしょう。このような状況の中で,職員室が世代交代を迎えています。指導層となるベテランの大量退職が進んでいます。私たちの時代は,困ったら先輩に気軽に聞くことができました。しかし,今はそれが難しくなっています。
ならば,教員養成の段階で何とかしなくてはと思いますが,残念ながら,現在の教員養成のプログラムにおいて,学級づくりに関する内容は標準装備されていません。普通に教員免許をとるだけでは,学級づくりを学ぶことができないのです。つまり,多くの新採用の先生方が,学級づくりにおいて丸腰の状態で現場に放り出されるような状態が続いています。そうした危機感を背景に誕生したのが本シリーズです。
本シリーズでは,高い機能をもつ学級集団の姿として「チーム」を構想しました。チームとは,「一人では解決できない課題を,良好な関係性を築きながら解決する集団」です。アクティブ・ラーニングの本質をズバリと突いていると思います。そして,各学年の執筆者たちが,「チーム」を自分なりに受け止めて理想とする学級の姿をゴールイメージとして設定しました。さらに,学年別にチームに育てる指導のプロセスを「1年間まるごと」紹介しました。
本シリーズを執筆したのは,質の高い学びを実現する集団を育てている6人(敬称略,括弧内は執筆担当学年)の実践家です。近藤佳織(1年生),宇野弘恵(2年生),岡田広示(3年生),橋健一(4年生),南 惠介(5年生),松下 崇(6年生)です。彼らは,いずれも地元に学びの仲間と研究会をもち,精力的に全国に向けて発信をしているメンバーです。彼らに学級づくりに関する考え方と技術を余すところなく伝えてもらいました。
圧倒的な質の実践を支えているのが,その貪欲な探究心と謙虚な人柄です。年齢は私よりも若い先生方ばかりですが,いつも刺激をもらっている皆さんです。1年間の実践を公開できること,それが即ち,彼らの実力の証明です。どうぞ渾身の作をお手に取ってご堪能ください。
/赤坂 真二
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