勇気づけリーダーの学級経営〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
これからを生きる資質・能力を学級でつけるには?勇気づけリーダーの学級経営
勇気づけリーダーの学級経営(2)
なぜ、学級経営にアドラー心理学なのか(1)
上越教育大学教授赤坂 真二
2017/7/20 掲載
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1 アドラーとアドラー心理学

 本稿を読まれるのは、圧倒的に学校の先生方が多いと思います。今回のお話は、実践や技術とは離れるかもしれません。超多忙な先生方にこのような情報提供は甚だ恐縮なのですが、テーマである「勇気づけリーダーの学級経営」に迫るためには、どうしてもこの内容について触れておかねばなりません。「アドラー心理学って何?」という話です。アドラー心理学が以前に比べて遙かに多くの方に認知されるようになったとはいえ、金メダルを取ったオリンピック選手や国民的アイドルのように、その名を言えば誰もが「ああ〜」と言われるほどになったとも思えません。勇気づけを知る上で、アドラー心理学を知る必要があります。超多忙な先生方も、夏季休業ならばこうした内容にも目を通していただけるものと信じて話を進めたいと思います。まあ、お忙しかったらスルーしてください。
 アドラー心理学のアドラーとは、人の名前です。オーストリアの精神科の医師です。
 わたしたちの国では、同じ時代に生きたフロイトやユングは有名ですが、アルフレッド・アドラー(1870〜1937)の名前を知っている人は、そう多くはなかったのではないでしょうか。私も大学生の時に心理学の授業で、フロイトとユングの名前は聞きました。しかし、アドラーの名前は聞いた覚えがありません。
 最初は、フロイトと同じグループで活動していましたが,やがて袂を分かちます。フロイトはアドラーを弟子だと思っていたようですが、アドラーはフロイトを、同志または研究仲間だと思っていたのかなと思います。ここら辺の話も、アドラー心理学を知ってくると、なんとなく自然に理解できるかもしれません。
 アドラー自身は、自分の考えを「アドラー心理学」と呼んだわけではありません。

個人心理学(Individual Psychology)

と呼びました。人間は統一された存在であり、分割することは不可能だと考えていたのでそう呼びました。私たちはよく意図しない行動を「無意識のうちにやっていた」などと言って、自分とは別なものの力によってそれをしたと説明することがあります。しかし、アドラーは、無意識にも自分の意図があり、意識と無意識を分断するような立場をとりませんでした。しかし、「個人心理学」という呼称は、アドラーの意図が必ずしも伝わらないということで、弟子たちは、彼の考えを創始者である彼の名前をとってアドラー心理学と呼びました。アドラー心理学は、「心理学」という名を背負っているので、人の心理的プロセスや行動の傾向を解釈したものとして捉えられがちです。しかし、アドラーにとって「個人心理学」は、「心理学」にとどまらず、社会生活に基づく人生哲学だったと捉える見方もあります。
 社会主義に関心があったアドラーは政治改革による社会変革を目指しました。しかし、政治の現実を目の当たりにし、育児と教育に人類の救済の可能性を見出しました。アドラーは、「人はみな平等である」という意識を持っていて、力で子どもを押さえつけるのではなく、心からの信頼をもって子どもに接する教育をすることで、自由で平等な世界を目指しました。
 アドラーの仕事として有名なものの一つに、世界で初めての児童相談所をつくったことがあります。当時は、第一次世界大戦の混乱により、オーストリアでは、非行少年の問題が注目されていたようです。

2 アドラー心理学と学校教育

 そこで、アドラーは、公立学校に多くの児童相談所をつくりました。この児童相談所は、子どもや親の治療にあたるだけでなく、教師やカウンセラー、医者などの専門職を訓練する場としても活用されました。
 私が注目したいのは、アドラーが仕事をしてきた環境です。アドラーは医師ですが、自分の考えを特別なケアを要する医療現場だけで創り上げてきたわけではなく、

教育という多くの子どもたちや親たちがかかわる学校現場で構築してきた

のです。こうした理論構築のプロセスが、学校教育への効果を上げている理由ではないでしょうか。
 アドラーは、自分自身のカウンセリングを公開の場で行うことがありました。カウンセリングというと、カウンセラーとクライアントが1対1で相談しているというイメージがあるかもしれません。しかし、アドラーのカウンセリングには、クライアントの後ろに他のクライアントがいて,それを聞いているということがあったようです。もちろん、こうしたやり方にはデメリットがあるだろうし、批判もあったことだろうと思います。しかし、他の人のカウンセリング見たり聞いたりすることで,自分の問題との共通性に気づき,解決の方向性を見出すことができるというメリットもあったことでしょう。
 ひょっとしたら、みなさんもそうした経験をお持ちの方がいらっしゃるのではありませんか。数人でファミレスでおしゃべりしていたら、一人の恋愛相談が始まり、みんなであれやこれや言い始めた。やがて、相談者はすっきりした顔をしてきて、なんとなく問題解決。気付くと、相談に乗っていたはずの周囲も自分の問題の解策のヒントを掴んでいたりするようなことです。また、学年会やサークルの懇親会で、あるメンバーが仕事上の悩みを相談し、ベテランやメンターが助言を始めると、その内容が自分も悩んでいることだったりして思わず聞き入ってしまった、なんてことはありませんか。

図1

 恐らくアドラーの実施していたカウンセリングは、そんな効果があったのではないでしょうか。アドラーは,そうした効果を目の当たりにするうちに、独特のカウンセリングスタイルを手法として確立していったのではないでしょうか。
 もうお気付きの方がいらっしゃるかもしれませんね。まさしく、これが

クラス会議の原型

です。個人の悩みをみんなで相談しているうちに問題は解決し、同時に、一体感や仲間意識が育っていく、そんな実践です。クラス会議については、いずれ詳しく本連載で触れることも出てくるでしょう。
 精力的に活動をしていたアドラーでしたが、ナチズムの台頭とともに、ユダヤ人である彼は迫害を恐れてアメリカに渡りました。そして1973年、講演先で亡くなりました。
その後、ルドルフ・ドライカースらの弟子に引き継がれ、整理や発展が加えられ、現在に至っていると言われます。

 さて、ここまで大雑把にアドラー心理学とアドラーについて説明してきました。私の個人的な解釈が混じり込んでいますので、お詳しい方にとっては乱暴な説明に感じられたかもしれませんが、どうかご容赦願いたいと思います。
 ところで、第一次世界大戦の頃に遠い外国の地で発展してきたこのアドラー心理学が、なぜ、現在の私たちの国の学校教育において受け入れられているのでしょうか。そこには、現在も多くの先生方を悩ませている「学級崩壊」の問題があります。
 次回は、さらに、

なぜ、学級経営にアドラー心理学が有効であり必要なのか

について考察を進めたいと思います。

【参考文献】
・アレックス L・チュウ著、岡野守也訳『アドラー心理学への招待』金子書房、2004
・岸見一郎『アドラー心理学入門 よりよい人間関係のために』ベストセラーズ、1999
・和井田節子「9 アドラー心理学」(『月刊学校教育』編集部編『相談活動に生かせる15の心理技法』所収、ほんの森出版、2004)
・赤坂真二『先生のためのアドラー心理学 勇気づけの学級づくり』ほんの森出版、2010

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『アドラー心理学で変わる学級経営 勇気づけのクラスづくり』『資質・能力を育てる問題解決型学級経営』『最高の学級づくり パーフェクトガイド』『スペシャリスト直伝! 主体性とやる気を引き出す学級づくりの極意』『クラスがまとまる! 協働力を高める活動づくり』『教室がアクティブになる学級システム』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり』『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)

関連書籍
2017.02.17 update

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