勇気づけリーダーの学級経営〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
これからを生きる資質・能力を学級でつけるには?勇気づけリーダーの学級経営
勇気づけリーダーの学級経営(5)
学級を崩壊させる方法
〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
上越教育大学教授赤坂 真二
2017/10/20 掲載
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1 本当は彼女と付き合う自信がないから

 クラスが荒れて困っている先生方から相談を受けます。自ら「相談をする」というほとんどの方は、そこから回復する希望があります。なぜならば、回復しようとする意欲があるからです。しかし、相談といいながら愚痴を言うだけの方もいます。そういう方は、回復がかなり難しい状況に陥っている(ほぼ、無理)と言わざるを得ません。
 クラスが荒れる場合は、うまくいかない循環にはまっています。回復する人は、その循環を変えることによって荒れから抜け出します。しかし、回復できない方は、その循環が変えられない、いや、変えようとしないのです。アドラー心理学風に言うと、変える勇気がくじかれている状態です。ここでは、勇気は、やる気とか意欲くらいに捉えておいてください。そういう方には、助言をしてもあまり効果がありません。次々と、できない理由を挙げるからです。助言する度に、「そうですよねえ……でも」とか、「わかってはいるんですけどねえ……しかし」と、助言を聞くようなふりをして、否定をします。
 無理もありません。こういう方は、

問題が解決することを望んでいない

のです。「え?そんなバカな」と思われますか。しかし、人は、知らず知らず問題を解決しないことを選ぶこともあるのです。「問題を解決する」ためにかかるコストよりも、「問題を解決しない」ことによってかかるコストのほうが、「まだマシ」だとどこかで判断している場合は、改善のための行動をとろうとしません。

 身近な例で説明しましょう。
 「ボクに彼女ができないのは、太っているからだ」としょぼんとしている男性がいました。そこで「じゃあ、ダイエットしてみたら」と助言してみました。すると彼は、「やせたい、やせたい」と言いながら、相変わらず高カロリーな食事を続けていました。これは、ダイエットができないのではなくて、実は、彼女が欲しくないのです。彼にとっては、彼女がほしいという願いよりも、彼女をつくることに対する不安や自信のなさのほうが強いのです。そのため、太ったままでいることを選んでいるわけです。

図1

 こうした例は、探せばいくらでもあると思います。赤面してしまって人前でうまく喋ることができないという人がいます。これは、人前でしゃべりたくないから赤面という症状をつくり出していると考えられます。また、不登校傾向の子に「どうして学校に行きたくないの?」と問うと、「勉強が難しい」「仲良しの友だちがいない」「いじめられる」という風に、聞く度にいろいろな理由を言うことがあります。この子は、嫌なことがあるから学校に行きたくないのではなく、学校に行きたくないから、そのための理由をつくり出していると考えられます。人は、問題解決のための意欲がくじかれると、問題解決をしないための理由をつくるということがあるのです。
 クラスを立て直せないと嘆いている方は、本当は、クラスを立て直すための努力をしたくない、つまり、クラスを立て直したくないという状態に陥っているのかもしれません。クラスが荒れてしまって、その状態が一定期間続くと、教師は、それを立て直す意欲が奪われてしまうのです。そうなってしまってからでは、その教師自身がやれることは、ほとんどなくなってしまいます。
 そこで、ここでは、そうなる前に学級の荒れに気づくために、学級崩壊の過程を記述してみたいと思います。誰でもできる「学級崩壊マニュアル」です。

2 学級崩壊マニュアル

 学級を崩壊させることはとても簡単です。
 まず、「気になる子」を見つけてください。反抗的な子、非協力的な子、授業中によく私語をする子、立ち歩きがちな子、勉強のできない子、甘えん坊の子、どんな子でもいいです。
 最もわかりやすい反抗的な子を例にとりましょう。反抗的な子が、授業中にあなたの指示に従わなかったとします。あなたは最初は、優しく声をかけます。しかし、その子は言うことを聞きません。そこから数度、声をかけてみてください。あなたが声を大きくしても、語気を強めてもその子は言うことを聞かないでしょう。このままでは、周囲の子に示しがつきませんから、ちょっと怒鳴ってみましょうか。ひょっとしたら、しぶしぶ言うことを聞くかもしれません。しかし、その子は、日を変え、場所を変えて同じようなことをすることでしょう。そうしたら、ぜひ、同じようにやってみてください。前回、怒鳴ったらうまくいったではありませんか。怒鳴るのが苦手な方は、声をかけ続けてくださいね。クラスを荒らすためにも、繰り返しが大事です。
 やがて、クラスは少し落ち着かなくなってきます。一番の気になる子ではありませんが、まあまあの「気になる子」が、授業開始時刻を守らなかったり、授業に集中しなかったりします。もちろん、「気になる子」同様、その子も見逃さないでくださいね。しっかり注意してください。注意して聞かなかったら、もっとキツく言ってあげましょう。もし、授業時間に遅れたら少し長めにお説教してあげましょう。また、朝の会で挨拶をきちんとしなかったら、何度も何度もできるまでやり直しをさせましょう。挨拶は、生活の基本ですから。
 たとえ、ルールを守ったり、しっかり学習をしたりしている子どもたちがいたとしても、間違っても、ほめてはいけません。そんなことをしたらこれまでの努力が台無しです。ルールを守ることや学習をすることは、当たり前のことですから、ほめるなんてもってのほかです。
 こうした地道な努力をしていると、それまでルールを守ったりしっかりと授業を受けていたりした「ノーマーク」だった子どもたちが、ルールを破ったり、うつろな目で授業に参加していたりするようになります。こうなったら、しめたものです。クラスの荒れは、順調に進行しています。学級崩壊まで、あと少しです。
 これくらいになると、先生の言うことを聞かないだけでなく、子ども同士の仲の悪さが顕在化してきます。いや、ここまでにもそういうことはあちこちで起こっていたのです。しかし、「子どもたちってこんなものだから」と見逃していたのです。または、不適切な行動をする子どもたちに目を奪われていて気づかなかったのです。ここまできたら後はあなたが放っておいても、クラスはどんどん荒れていきます。
 クラスみんなで笑い合ったことは、もう過去の思い出です。その代わり、時々、馬鹿にしたような笑いがおこります。目立たない子を、影でいじめるかもしれません。小学校の中学年以上になれば、特に女子の間で、こそこそ話は日常化し、睨んだ、睨まれたなんて訴えが頻発することでしょう。この頃になれば、朝になると保護者からの連絡帳が教卓に数冊重ねられていることでしょう。もちろん、「うちの子がいじめられている」「○○ちゃんに意地悪をされています」「学校に行きたくないと言っています」などの訴えです。
 でもね、不思議なことに

授業は成り立っているように見える場合がある

のです。一部、私語をしたり、立ち歩いたり、教室を抜け出すような子がいることにはいます。ただ、授業は淡々ととりあえず流れていくのです。かつてのように、教師に向かって集団で嫌がらせをしたり、あからさまな授業妨害をしたりはしません。しかし、クラスの雰囲気は淀み、だらっとしらっとしているのです。
 これで今風の学級崩壊の出来上がりです。ここでは反抗的な子を取り上げましたが、あなたが、その子に過度な注目をすれば同じようなことが起こるでしょう。様相はそれぞれ異なりますが、クラスが荒れるときはそこにある程度の共通事項を見いだすことができます。
 荒れが進行していく循環は見つけ出せましたか。そこに早く気づけば、何らかの手を打つことができることでしょう。

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『アドラー心理学で変わる学級経営 勇気づけのクラスづくり』『資質・能力を育てる問題解決型学級経営』『最高の学級づくり パーフェクトガイド』『スペシャリスト直伝! 主体性とやる気を引き出す学級づくりの極意』『クラスがまとまる! 協働力を高める活動づくり』『教室がアクティブになる学級システム』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり』『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)

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