赤坂真二直伝!主体的・協働的な学びを引き出す教師のリーダーシップ
これから求められる主体的・協働的な学びにおいて教師の役割・とるべきリーダーシップとは
赤坂真二直伝!教師のリーダーシップ(4)
「社会に開かれた教育課程」の実現に向けて
上越教育大学教授赤坂 真二
2016/9/20 掲載
  • 赤坂真二直伝!教師のリーダーシップ
  • 学級経営

社会の変化は、「待ったなし」

 指導要領の改訂は、これまでも繰り返されてきました。その度に、学校教育の充実が訴えられます。聞こえはいいですが、どちらかというとそれらは「内向きの改革」だったのではないでしょうか。今回の改訂が今までと少し異なった印象を受けるのは、「社会に開かれた教育課程」の実現を目指しているからです。教育は、未来の国づくりの営みであり、指導要領はその指針であるはずなのに、教育関係者の関心は、方法論の向上ばかりに目が向いていて、それを実社会でどう生かすのかという目的を見据える視点が弱かったのだと思います。
 確かにわが国の子どもたちの学力は、一時的な低下が見られたにもかかわらず、短期間で回復し、現在に至っています。だったらこれまでの方向でいいのではないかと思われますが、アクティブ・ラーニングという幾分刺激的な言葉を使って授業改善を促さねばならない現状なのです。そこには、わが国の子どもたちの学力は、偏差値は確かに高いが、生きる力になっていないという国の危機感に基づく判断があるわけです。つまり、わが国の子どもたちは、「学力」は高いが、実社会で生きる「実力」に難ありということでしょう。予測不可能な変化の時代を生き抜くには甚だ不安があるのではないでしょうか。
 アクティブ・ラーニングという言葉が世の中に躍り出てから、「これこそがアクティブ・ラーニングである」と様々な提案がなされ、同時に「アクティブ・ラーニングは方法論である、いや、考え方であると」とこれまた賑やかな議論もありました。しかし、この8月26日に示された「次期学習指導要領等に向けたこれまでの審議のまとめ(案)のポイント」では、「主体的・対話的で深い学び」と表現され、授業改善の視点であることが示されました。今後はそうなっていくことでしょう。 
 「社会に開かれた教育課程」の中で、身につけるべき資質・能力が、ご存知のように下の三つの柱と呼ばれるものです。

  1. 生きて働く「知識・技能」の習得
  2. 未知の状況にも対応できる「思考力・判断力・表現力等」の育成
  3. 学びを人生や社会に生かそうとする「学びに向かう力・人間性」の涵養

 これを並列構造だと捉えると、ねらいの実現はほぼ無理でしょう。@の「知識技能」、Aの「思考力・判断力・表現力等」は、Bの「学びに向かう力・人間性」に向かうものと考えることが妥当でしょう。繰り返しになるかもしれませんが、わが国の子どもたちの知識、技能、そして、活用力、つまり上記の@Aの学力は国際的に見て、トップクラスなのです。しかし、「足りない」のです。その正体が、Bの「学びに向かう力・人間性」の涵養なのです。
 この「学びに向かう力・人間性」の涵養が、激変する社会に対応し、社会をつくり、一人一人の幸せな人生に資するものなのかはこれからの取り組みによって検証がなされるでしょう。それが妥当かどうかの議論はこれからです。しかし、社会の変化は日々、ジワリジワリと起こっていて「待ったなし」の状況です。

「過去問」言えるかな!?

 では、学校現場が今ここに向かって取り組んでいるかというと、とてもそうとは思えないのです。学校支援で全国を回っていると私の目に飛び込んでくるのは、多忙な業務に押しつぶされそうになりながら、それでも必死に学力向上に取り組むひとりひとりの先生方の姿です。それでも、先生方がそれに意味を見出し、やりがいを感じているならば、多忙でもまだいいでしょう。しかし、多くの自治体で取り組まれている学力向上策は、授業の展開を一律に定めて、どの教室、どの学校でも同じような授業をしたりすることです。一部とはいえ、春から教科書を1頁も開かないで過去問題に取り組むような教室も見られます。これで「学びに向かう力・人間性」が養われるとは思えません。むしろ、真逆の方策と言えないでしょうか。
 これらの方策で、改訂の基本方針で述べられている「グローバル化の進展や人工知能(AI)の飛躍的な進化など、社会の加速度的な変化を受け止め、将来の予測が難しい社会の中でも、伝統や文化に立脚した広い視野を持ち、志高く未来を創り出していくために必要な資質・能力を子供たち一人一人に確実に育む」ことなどできるのでしょうか。挿絵1どの教科でも、どの時間でも同じような展開がなされる授業で、変化に対応する力など育つのでしょうか。また、過去に出題された学力調査の問題を繰り返し解かされることで、広い視野や志などが育つのでしょうか。「過去問言えるかな?」「過去問ゲットだぜ!」と言っている場合ではないのです。
 そうではないことは、他ならぬ聡明なる先生方が知っています。だからこそ先生方は苦しいのでしょう。カリキュラム・マネジメントも、アクティブ・ラーニングの視点も、「学びに向かう力・人間性」の育成に向かって展開されるべきです。そうしないと、改訂の趣旨も、いや、改訂そのものが無意味になります。
 「主体的・対話的で深い学び」という表現は注意が必要だと思います。わが国の教育は、知識注入を得意としてきたところがあります。また、現在の先生方のほぼ全員といっていいほどの圧倒的多数の先生方が、知識注入型の授業で学び、教師になったわけです。アクティブ・ラーニングが一部の生活科や総合的な学習のように、「這い回る学習」にならないために、「深い学び」の部分は大事にしないといけませんが、だからといって、やたらと難しいことに個別に取り組ませるような授業では、本末転倒です。「主体的・対話的な」学びという、プロセスを忘れてはなりません。
 改訂の指針では、アクティブ・ラーニングの視点による授業改善の3つのポイントを挙げています。

  1. 学ぶことに興味や関心を持ち、自己のキャリア形成の方向性と関連付けながら、見通しを持って粘り強く取り組み、自己の学習活動を振り返って次につなげる「主体的な学び」が実現できているか。
  2. 子供同士の協働、教職員や地域の人との対話、先哲の考え方を手掛かりに考えること等を通じ、自己の考えを広げ深める「対話的な学び」が実現できているか。
  3. 各教科等で習得した概念や考え方を活用した「見方・考え方」を働かせ、問いを見いだして解決したり、自己の考えを形成し表したり、思いを基に構想、創造したりすることに向かう「深い学び」が実現できているか。

 これを見ると、「主体的な学び」があっての、「対話的な学び」「深い学び」というニュアンスが読み取れます。学びに向かう力の育成は、「主体的な学び」抜きには実現は不可能です。それでは「主体的な学び」を実現するためには、教師は何をしたら良いのでしょうか。それについてはまた、次回。

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)
関連書籍
2016.11.24 update

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 学級はルールから崩れます。また、子どもたちのやる気に満ちた集団は、教師のパフォーマンスでも声の大きさでもなく、ルールの定着度によります。良い学級には、良いルールがあります。そのルールの具体と指導法がギッシリです。

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