赤坂真二直伝!主体的・協働的な学びを引き出す教師のリーダーシップ
これから求められる主体的・協働的な学びにおいて教師の役割・とるべきリーダーシップとは
赤坂真二直伝!教師のリーダーシップ(2)
主体的・協働的な学びの理念
上越教育大学教授赤坂 真二
2016/7/20 掲載
  • 赤坂真二直伝!教師のリーダーシップ
  • 学級経営

主体的・協働的学びはどこから

 主体的・協働的な学びとは言うまでもなく、次期指導要領に改訂に向けた動きに向けた動きの中で聞こえてきたアクティブ・ラーニングという言葉の説明の中に見られる文言です。昨年から急激にわき起こったアクティブ・ラーニング・フィーバー(「フィーバー」って古いですか?)ともいうべきブームのなかで、現場には二つの立場が混在しました。「学びのあり方の転換だ」と変化を促そうとするもの、もう一つは、「今までやってきたことと変わらない」と現状を是認するもの。また、小中高大とも各校種によって受け止めは違っているようです。そこで、ここら辺でアクティブ・ラーニングを今一度整理しておきたいと思います。
 「新たな未来を築くための大学教育の質的転換に向けて〜生涯学び続け、主体的に考える力を育成する大学へ〜(答申)」(平成24年8月28日中央教育審議会)では、「教員による一方向的な講義形式の教育とは異なり、学修者の能動的な学修への参加を取り入れた教授・学習法の総称」と説明されます。また、「初等教育における教育課程の基準等在り方について(諮問)」(平成26年11月20日)では、「課題の発見とその解決に向けて主体的・協働的に学ぶ学習」と説明されています。これらが政策的定義といえるでしょう。
挿絵1 具体例としては、前出の答申に「学修者が能動的に学修することによって、認知的、倫理的、社会的能力、教養、知識、経験を含めた汎用的能力の育成を図る。発見学習、問題解決学習、体験学習、調査学習等が含まれるが、教室内でのグループ・ディスカッション、ディベート、グループ・ワーク等も有効なアクティブ・ラーニングの方法である」と具体例が上げられています。
 また、次のような定義もあります。研究者の溝上慎一氏は、「一方的な知識伝達型講義を聴くという(受動的)学習を乗り越える意味での、あらゆる能動的な学習のこと。能動的な学習には、書く・話す・発表するなどの活動への関与と、そこで生じる認知プロセスの外化を伴う」*1としています。これがアクティブ・ラーニングの学術定義の一つだと言ってもいいでしょう。
 しかし、研究者達をもってしてもアクティブ・ラーニングの定義は難しいようです。だからこそ、これを聞いたときに現場の教師たちは少なからず不安を感じたのだろうと思います。一方で、政策における定義に見られるように従来から現場でよく実施されてきた学習方法とそれほどイメージが変わらないというのも事実かも知れません。
 わが国では、大きなインパクトを持って迎えられたこの言葉ですが、アメリカではアクティブ・ラーニングは、「当たり前」の学習スタイルのようです。1980年代から、アメリカは大学の大衆化により授業形態を変えざるを得なかったようです。つまり、エリート教育だった高等教育が大衆化することによって、知識伝達型の授業が成り立たなくなったと言うことです。高度経済成長期の1960年代には、わが国の大学進学率は10〜15%でした。しかし、70年代半ばには30%を超え、以後、大学が増え「入りやすくなり」現在に至っています。
 大学進学率が50%近くになった日本の高等教育も大衆化したと言っていいのかもしれません。ただ、わが国がアクティブ・ラーニングを導入しようとした背景は、単なる高等教育の大衆化ではないのも事実です。

あなたの教え子は、変化を乗り切り変化を起こせるか

 みなさんは、アクティブ・ラーニングの政策定義からどのようなメッセージを受け取ったでしょうか。具体例を読むまでもなく「今までやっていたような一斉講義型の授業はおやめなさい」と言われているような感じがしますし、具体例を読めば「やはりそうか」となるでしょう。だから、これまでの活動型交流型の学習を実施していた教師からすれば、「何を今更」だろうし、これまで講義型をやっていた教師からすれば「変えなくちゃ」という思いを持ったことだろうと思います。
 しかし、アクティブ・ラーニング導入のメッセージは、学習方法の転換というレベルで捉えるとそのメッセージを読み誤るのではないでしょうか。
 文科省の教育課程企画特別部会「教育課程企画特別部会における論点整理について(報告)」(平成27年8月26日)には、指導要領改訂という大枠の中で、学び方の転換を求めています。その大きな根拠の一例として挙げられているのが所謂「2030年問題」です。少子高齢化の進行で、65歳以上年齢が人口の3割を超え、生産年齢人口が6割を切り、そこから派生する諸々の問題のことです。
 社会情勢や経済問題に詳しくなくても、高齢者を支える若手世代の働き手が減少すれば、GDPも低下し、GDPが減少すれば、国力も低下し、財政面は今より悪化することが直ぐに分かります。急増する高齢者世代を支える社会保障サービスなども窮地に立たされることでしょう。つまり、若者世代・高齢者が共倒れしかねないリスクもあるのです。その他にも、今ある仕事が機械に置き換えられ、今ない仕事がこれから生まれてくることでしょう。一方で、人口減少による地方都市の疲弊です。過疎化が進み、町が機能しなくなる可能性も指摘されています。
 「そんな先のこと…」と思われるかもしれませんが、今の小学校4年生が社会人1年生になるときに2030年を迎えます。15年なんかあっという間です。いや、ある日突然2030年になるのでなく、日々刻々とそのときを迎えようとしているのです。
 アクティブ・ラーニングの導入を、単なる学習方法の転換と捉えていいのでしょうか。この激変する社会をあなたの教え子は、乗り越えていけるのか、そういう力を学校教育が付けているのかという問題提起と捉えるべきなのです。また、子どもたちは、変化を乗り越えるだけでなく、山積する未解決の課題に向き合っていかねばなりません。つまり、変化を起こしていかねばならないのです。こうした状況が差し迫っているときに、来る日も来る日も友達の後ろ頭を眺め、仲間と協力することもなく、黒板に書かれた内容をひたすら書き写し、一日に一つも新しいアイディアを思い浮かべることもなく、身の回りの問題を解決することもなく受け身で過ごしていて、「大丈夫ですか?」というのが改革のメッセージではないでしょうか。アクティブ・ラーニングとは、これからの人生をつくる力を育てるキャリア教育なのです。
 アクティブ・ラーニングの求める主体的、協働的学びを具体化するためには、こうした背景を理解しておく必要があるのでしょう。

*1 溝上慎一「第1章 アクティブラーニング論から見たディープ・アクティブラーニング」、松下佳代『ディープ・アクティブラーニング』、勁草書房、2015、pp.31-51

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)
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2016.11.24 update

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