赤坂真二直伝!主体的・協働的な学びを引き出す教師のリーダーシップ
これから求められる主体的・協働的な学びにおいて教師の役割・とるべきリーダーシップとは
赤坂真二直伝!教師のリーダーシップ(1)
学級経営最大の問題
上越教育大学教授赤坂 真二
2016/6/20 掲載
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  • 学級経営

問題中の問題

 前回の連載では、学校教育における自治的集団づくりの意味を述べました。その際、現在の学級集団づくりの問題を指摘しました(「自治でつくる学級づくり」第2回参照)。そこに挙げた問題に限らず、先生方が抱える問題は多様なものがあろうかと思います。だからこそ、日本各地で学級経営に関わる研修会が実施されていることでしょう。問題山積の学級経営ですが、その中でも問題中の問題、学級経営の最大の問題と言えば何でしょう。
 それは、みなさんが学級経営を
 「教わっていない」
ことです。
 教員免許を取得するときに、「学級経営」という科目を履修したでしょうか。恐らく、していないはずです。なぜならば、現在の教員免許法において「学級経営」という科目は位置付けられていません。教育原理の中で「なんとなく」触れられている程度ではないでしょうか。大学によっては,「選択科目」として設置されているかもしれません。しかし、選択であるということは、基本的にその内容は、授業者に任されていて共通に学ぶべきことが決められていないということです。
 大学の教員になったばかりの時に、学級経営を専門の一つとするある研究者と話をしたときにこんな話を聞きました。「私たちは学級経営の枠組みは教えられるけど、中身は教えられないんだよね」と。できないことは「できない」と言い切る潔さと清々しさを感じると同時に、「学級経営を知らなくても教員免許が取れる」ことを再認識しました。新採用の先生方は、「やるべきこと」を学ばないまま、学級経営においては「丸腰」の状態で現場に送り出されるわけです。

 「若い先生の学級が混乱する」とよく言われますが、それも無理のないことのように思います。また、それは教員養成だけの問題ではなく、現職教育においてもどれくらいの学校が学級経営をその学びに組み込んでいることでしょうか。校内研修のテーマはほとんど、指定されたテーマか学力向上にかかわることでしょう。研究指定で学級経営が設定されることはほとんど聞いたことがありません。
 結果的に何年教職を経験しようが、ベテランになろうとも学級経営に関することは経験則に頼らざるを得ません。経験則は、一人ひとりの教師にとっては真実であろうとも、他の教師にとってはそうだとは言えません。自分がやってうまくいった方法が、他の教師を助ける確率はそう高くはないわけです。学級崩壊のような現象が起こってもなかなか他の教師が支援できないのは、システム上の問題もありますが、どう支援していいかわからないという内容上、方法上の問題もあります。

よい授業をすれば

 学級経営は、経験則に支えられているので、みな個別のセオリーです。個別のセオリーは嘘ではありませんが、一般化が難しいのです。だから、「チーム学校」などと言ってもうまくいかないのは、教科指導の基盤となる学級経営の部分でみんな独自の思いをもっていてベクトルが定まらないからです。学級経営は、それぞれの教師にとって文化論になっているわけです。
 経験則と言えば、若手に対してベテランからこのような指導が入ります。
「よい授業をすればよい学級ができる」
 これも、嘘ではありませんが、学級崩壊が顕在化した2000年以降はかなり一般化が難しくなったと指摘できるでしょう。私は、平成元年から平成20年まで小学校の教員をしていました。その中で何度か学級崩壊と呼ばれるような、著しく集団の機能が低下している集団を担任させていただきました。
挿絵1 ある年担任した6年生は、出会いの日に着席していたのは、36人中8人程度でした。「席に着きましょう」と言っても、私が居ないかの如くずっと私語をしてました。そのような状況の中では、「よい授業を…」と言われても、空しく響くだけです。このフレーズは、学級崩壊などが顕在してなかった状況では、汎用性の高い言葉だったと言ってもいいでしょうが、子どもたちが座席に着かない、教師の話を聞いていない状況、つまり、授業という土俵に上がらない状態では適用が難しいものだと言えるのです。

 教員養成で学ぶ授業法などの知識は、子どもたちが教師のコントロール下にあるときに適用できるものばかりです。子どもたちは、「全員が」、そして、「いつも」教師のコントロール下にあるわけではありません。しかし、コントロール不能に陥った時に、叱りつける怒鳴るなどの方法論をとり、子どもたちのやる気を奪ってしまうのです。
 アクティブ・ラーニングで言われる主体的で協働的な学びの実現は、教科の専門性に縛られる話ではありません。また、単なる授業法の話でもありません。「一斉講義式で教師の想定内の学習を展開」していた子どもたちの学びのあり方を、「自ら進んでかかわり合いながら教師の想定を超えるようなダイナミックな学びを実現する」子どもたちの育成です。つまり、子どもたちの学習者としてのあり方の転換なのです。では、子どもたちの学習者としてのあり方の転換を促すものは何なのでしょうか。
 それは、やはり教師の描く学習者のイメージであると指摘できます。自分レベル(自分の学んだレベル)に引き上げる教育を志向するか、自分を超えるレベルを引き出す教育を志向するかです。前者の教師は、教師の想定を超えないような授業をデザインし、それに伴うリーダーシップをとります。そして、後者はそれを超えるような授業のデザインとリーダーシップを選択することでしょう。つまり、アクティブラーニングの導入による学びのあり方の転換は、教師のリーダーシップの転換が問い直されているとも言えるのです。
 しかし、このリーダーシップについてもご存知のように教員養成でも現職教育でも扱われにくいテーマなのです。この連載では、主体性と協働力を引き出す教師のリーダーシップについて考察します。どうぞ宜しくお願いします。

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)
関連書籍
2016.11.24 update

 次年度の集団づくり戦略計画の作成はお進みですか。
 心強い味方として「学級を最高のチームにする極意シリーズ」があります。私が基本的な考え方を示した理論編と、全国の気鋭の実践が実践編を書きました。実践家の皆さんには、その実践を支える考え方と失敗しそうなポイントとそのリカバリー法も示していただきました。従って、「その人だからできる」という域を超えて広く汎用性があることでしょう。
 本シリーズのラインナップは、集団のセオリーに則って構成されています。皆さんのニーズのどこかにヒットすることでしょう。

 学級集団は、どんなに良好な状態であろうともその殆どが4月後半から6月にかけて最初の危機を迎えます。
 子どもたちがいろいろなメッセージを発してくる頃です。それを如何にうけとめてそれを彼らの成長につなげるかが危機を回避し、学級を機能させるポイントです。

 最初の危機を乗り越え、2学期以降の経営が安定するためは、教師と子どもたちの個人的信頼関係を如何に築くかにかかっています。メンバーとの個人的信頼関係の強さが、リーダーの指導力の源泉となります。リーダーとの強い絆が、子ども同士の積極的な協働のエネルギーとなります。技術論だけでは、子どもたちは主体的に行動しないのです。子どもたちのやる気に火を付けるのは、個人的信頼関係の構築にかかっています。

【個人的信頼関係の構築】『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ 小学校編』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ 中学校編』

 学級はルールから崩れます。また、子どもたちのやる気に満ちた集団は、教師のパフォーマンスでも声の大きさでもなく、ルールの定着度によります。良い学級には、良いルールがあります。そのルールの具体と指導法がギッシリです。

【集団のルールづくり】『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得 小学校編』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得 中学校編』

 本シリーズは、学級集団づくりの1年間の実践をまるごと見渡すことができます。しかも、理想像から始まるという極めて戦略的な構成になっています。さらに、学級づくりの定期点検ができるチェックリストがついて、定常的に同じ観点で振り返りができるようになっています。

【365日の学級集団づくりに】『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 1年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 2年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 3年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 4年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 5年』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 6年』

 クラスでは目立った問題が起きないけれども、仲もそれほど悪くないようだけれど
も、授業に活気が感じられない、素直に学習しているけれども、やる気があるように
は見えないというクラスが増えています。そこには、授業者である教師が見落としが
ちな問題
が潜んでいることがあります。子どもたちのやる気を引き出し全員参加の授
業を実現する
にはどうしたらいいのでしょうか。そのためのアイディアが満載となっ
ています。

【やる気を引き出す授業づくり】『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 小学校編』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 中学校編』

 アクティブ・ラーニングは,単なるペアがグループを活用した交流型の学習ではありません。そして,ただ学習内容に深く触れればいいわけではありません。そこには子どもたちの主体的に学び合う姿が必要なのです。子どもたちが,生き生きとかかわりながら学ぶ授業づくりの具体例を豊富に示しました。

【アクティブ・ラーニングの視点による授業改善に】『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり 小学校編』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり 中学校編』

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