勇気づけリーダーの学級経営〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
これからを生きる資質・能力を学級でつけるには?勇気づけリーダーの学級経営
勇気づけリーダーの学級経営(17)
問題ばかり見ていませんか
〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
上越教育大学教授赤坂 真二
2018/10/15 掲載

1 効果的な問題解決

 みなさんは、困ったことがあったり、悩んだりすることがあったらどのように対応しているでしょうか。前回紹介した橋本文隆氏は、ソリューション・フォーカストアプローチの立場から、下記のような3つの原則を述べています。ソリューション・フォーカストアプローチ(SFA)とは、心理療法の一種で、解決志向アプローチなどと訳され、問題の原因について考えるのではなく、問題が解決された状態やすでにうまくいっている部分(成功している部分)に焦点を当てて思考します*。比較的短期間で問題が解決されていることが指摘されています。

図1

 なぜ、ここでSFAを持ち出してきたかというと、アドラー心理学の教育における効果を伝えるときに、アドラー心理学の中だけで「それはいい」と言っても説得力に欠けると思うからです。うまくいくことには共通の原則があります。鏡を使うと自分の姿がよりよく見えるように、SFAという鏡を使ってアドラー心理学を映し出すことによって、アドラー心理学の効果がよりわかりやすく伝わると考えています。もし、SFAに関心をもたれた方がいたら、橋本氏の書籍をはじめ関連の書籍が多数出ているので、お読みになることをおすすめします。
 SFAは問題の原因、つまり問題に注目せず、それが解決された状態に注目します。SFAは成功追求型のアプローチです。アドラー心理学も現象を分析することに留まらず、問題を解決することを重視していますから成功追求型のアプローチと言えるかもしれません。
 例えば、子どもが何か失敗をしたとします。習字の時間に墨汁をこぼしたとします。問題に注目する教師は、「どうして、こぼしたの?」と指摘したくなります。子どもの失敗に注目しているからです。大抵この後続けて、「よそ見しているから、そうなるんだよ」とか「机のぎりぎりに硯を置いたら、そうなるでしょう」とお小言をいいたくなります。解決に注目する場合は、「まずは、床をきれいにしましょう」と原状回復を指示し、その後で、「今度はどうすればいいと思う?」と解決策を考えることでしょう。もし、あなたが、墨をこぼした子どもだったらどのように声をかけてほしいでしょうか。

2 気になる子は、みんなパートタイマー

図2

 上の水の入ったグラスのイラストを見ていただきましょう。みなさんなら、「水が半分しかない」と見ますか、それとも「水が、まだ、半分もある」と見ますか。SFAでは、入っている水に注目します。もちろん、空になった部分も認識しているのです。しかし、そこは敢えて注目しません。
 私たちは、子どもたちへの対応をするときにしばしばこの逆をやります。できていないところに注目して、その部分を突くのです。そうやってできてない部分を突かれて誰が、それを改善しようと思うことでしょうか。所謂、問題行動をする子や気になる行動をする子は、みんなパートタイマーです。「フルタイムの問題行動をする子」や「フルタイムの気になる行動をする子」など存在しないのです。みなさんの気になる子たちは、朝、学校に来てから、帰るまでずっと不適切な行動をしていますか。それはあり得ませんよね。ずっと、立ち歩いていますか、ずっと、奇声をあげていますか、ずっと友達をいじめていますか。いじめの首謀者だって、一日のどこかで、いや、ほとんどの時間、自分はまずいことをしていると思っていることでしょう。不登校を続ける子も一日に何回かは、学校に行こうかなと思っているはずです。もし、フルタイムの問題行動をする子が居るとしたら、私たちの認知が創り出している想像上の存在と言えます。

図3

 私たちの目の前にいるのは、時々、それも一日のごく僅かな時間、問題行動をしたり、気になる行動をしたりする子どもたちです。私たちは、彼らのそうした行動を拡大解釈することによって、問題児や気になる子を創り上げているのです。こうした思考法に立つと、先ほど示した問題解決の三原則が導き出されます。
 もし、あなたが気になる子の対応で問題を抱えているとしたら、いきなり、新しいことを始めたり、袋小路にはまって諦めるよりも、まずは、何がうまくいっていないのか、何がうまくいっているのか見極めましょう。そこをしないと、うまくいっていることを続けようにも、また、何か違うことをしようにも始まりません。
 そう、目の前の子をありのままに見るのです。コップ全体を見るように、その子のうまくいっていない部分だけでなく、その子のうまくいっている部分もしっかり見ます。しかし、教室はいつもめまぐるしく動いていますね。みなさんが、じっと見ていることを許さない状況かもしれませんね。みなさんがどんなに心を整えても、「よし、今日はあの子のよさを見つけるぞ」と不退転の決意をしても、教室の現実はその決意を一瞬で崩れさせるような圧倒的パワーで迫ってくるかもしれませんね。
 そんなときに、私はアドラー心理学の力を借りてきました。
 次回からは、不適切な行動をする子、つまり適切な行動をする勇気がくじかれている子を、どのように勇気づけ、適切な行動を促していくか、具体例を通して考えていきましょう。

*橋本文隆『問題解決力を高めるソリューション・フォーカス入門 解決志向のコミュニケーション心理学』PHP、2008

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『アドラー心理学で変わる学級経営 勇気づけのクラスづくり』『資質・能力を育てる問題解決型学級経営』『最高の学級づくり パーフェクトガイド』『スペシャリスト直伝! 主体性とやる気を引き出す学級づくりの極意』『クラスがまとまる! 協働力を高める活動づくり』『教室がアクティブになる学級システム』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり』『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)

コメントを投稿する

※コメント内ではHTMLのタグ等は使用できません。