勇気づけリーダーの学級経営〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
これからを生きる資質・能力を学級でつけるには?勇気づけリーダーの学級経営
勇気づけリーダーの学級経営(15)
共同体感覚はあなたの人生を創るGPS
〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
上越教育大学教授赤坂 真二
2018/8/7 掲載

1 避けては通れない話題

 アドラー心理学に基づく教育を語るときに、このことを抜きには語れません。それは

共同体感覚

のことです。アドラー心理学の中核的概念で、アドラー心理学に基づく教育や治療は、まさにこの育成に向かって行われます。耳慣れない言葉ですが、アドラー心理学の向かうところを理解するときには、避けて通れない事項です。しかし、そんな大事な言葉なのに、アドラー自身は明確な定義をしていません。これがアドラー心理学の研究や理解がなかなか進まない理由なのかもしれません。とはいえ、私のようなアドラー心理学を教育に幅広く活用していこうという者にとってこの曖昧さは、創造性をかき立ててくれるとてもありがたいものです。
 アドラーは、共同体感覚についていろいろな書物でいろいろな言い方をしていますが、私が最もわかりやすいと思っているのは、次の言葉です*。

自分のことだけを考えるのではなく、他の人にも関心をもっていること

 短くまとめると「他者への関心」ということになります。「なんだそんなことか」と思いましたか。確かにそうですね。ではなぜアドラー心理学は、単純とも思えるこのことをそんなに重視するのでしょうか。
 あらかじめお断りしておきますが、これから述べることは私の解釈です。アドラー心理学に詳しい方には、かなり独自に思えるかもしれません。ただ、先ほども述べましたように、共同体感覚にははっきりとした定義がありません。アドラー心理学に関心をもつ多くの方々が定義を試みていますが、今回はそうしたことの詳細な比較や検討は少し置いておいて、学校教育に適用するために、この言葉をどう理解すればいいかという私見を述べたいと思います。

2 不幸せのサイクル

 アドラー心理学では、他者への関心が人生における幸せに不可欠だと捉えています。それでは、他者への関心がなぜ、私たちの幸せにつながるのでしょうか。それは、私たち人類の繁栄と関係しています。
 私たちにとって幸せとは一体どのようなことを言うのでしょうか。
 ここで少しお断りしておきたいことがあります。今から、「幸せ」について述べます。これまでこうしたお話をいくつかの場所で何回かさせていただきました。そして、こうした話をするときには、「少し注意が必要である」ことを学んできました。人には、それぞれ幸せについて思いがあります。だから、幸せの法則や原則みたいなことを言われると、ムズムズしてしまう人が一定の割合でいるようです。「あなたに幸せを決めてほしくない」といった感情でしょうか。また、「多様であるはずの幸せを一つの形に押し込めてほしくない」という基本的な捉えがあるからでしょうか。いずれにせよ、こうした話題を好まない方がいることを承知しています。だから、幸せについて他者から触れられるとむずがゆくなってしまう方は、本稿をスルーしていただくことをお勧めします。

図1

 みなさんは、ゴリラの赤ちゃんを見たことはありますか。ゴリラは、成獣は180センチメートル近くになる最大の霊長類として知られています。ゴリラと人では、新生児の状態ではどちらの体重が重いと思いますか。大きく屈強な印象のゴリラですが、その赤ちゃんは2000グラムくらいで、人の平均的な新生児よりも軽く生まれます。なぜかは、大体予想がつくと思います。赤ちゃんであっても、野生生物は生まれ落ちた時に動ける状態になっていないと「死」を意味します。だから、なるべく軽い体重で生まれ、移動可能である必要があります。牛や馬が生まれてすぐに立ち上がろうとして、脚を突っ張っているのを見たことがあることでしょう。
 ゴリラは生まれてすぐは目も見えないし、歩行もできないそうですが、腕力は強く、お母さんにしがみつくことはできるそうです。別な個体にしがみつくことができれば、危険を回避できる可能性は高まりそうです。一方で人はと言えば、ご存知のように、生まれてすぐに歩き出す赤ちゃんはいません。自分では動くことができず、どう見ても非力な状態で生まれます。しかし、それなのに、こんなにも繁栄しています。なぜなのでしょうか。
 そう、それは

集団をつくることによって、つまり、人と人とがつながることによって身を守ることができるから

だと考えられています。赤ちゃんは、生まれるとすぐに大声をあげて泣きます。あれは、赤ちゃんの援助要求です。ああやって、他者の世話をかき集めようとしているのです。自分でできないことを人にしてもらうというとても優れた戦略です。赤ちゃんは、まだまだすごい技を持っています。
 みなさんの中に、知人の子でも何でもない赤ちゃんにじっと見つめられた経験のある人は少なくないことでしょう。あれも赤ちゃんの作戦です。見つめられた私たちは、つい、ほほえんだり、あやすような声をかけたりしてしまいます。赤ちゃんは、人間の顔状のパターン化された模様を見つめるようにプログラムされているそうです。かわいい顔で見つめられたら、お世話したくなっちゃいますね。
 まだあります。赤ちゃんのあの形状です。丸くって、柔らかそうで、頭が大きいフォルム。私たちは、あのような形状のものを愛しい、かわいらしいと思うように、これまたプログラムされているそうです。ぬいぐるみやゆるキャラは、大体そのような形状をしていますからね。こうして赤ちゃんは、大人のお世話を手に入れて、生き延びていくことができるのです。
 人にとって他者とつながることは、生き残るための戦略と言えます。言い方を変えれば

人とつながらずして生きていくことはできない

ということです。したがって、人の幸せは多様にあれど、その根源的なところに「人とのつながり」があるのです。この原理に則って、人の繁栄の法則が成り立っているのではないでしょうか。
 共同体感覚を、「自分への信頼」「他者への信頼」「貢献感」という3つの要素から説明しようとすることがあります。これはアドラー心理学関連の書籍には、割とよく見られる解釈かと思います。これらの関係を図にすると以下のようなサイクル図が想定されます。他者への信頼がないとつながれない。つながれないから他者に感謝される機会が減る。感謝されないから、自分に自信がもてなくなり、さらに人とつながれなくなるわけです。

図2

 幸せについて述べてきたので、この流れを、「不幸せのサイクル」と呼ぶことにします。
このサイクルにはまると、人はどんどん自信がなくなっていきます。感謝されなくなった人は、漂流船と同じです。自分がどこにいるか、なんのために生きているのかわからなくなります。人は、人とかかわり感謝されることによって自分の立ち位置を確かめることができるわけです。自分の立ち位置の確認は、

生きる意味の自覚

と言っていいでしょう。喜びや感謝のメッセージは、GPS信号の如く自分の居る場所を映し出してくれます。誰かを喜ばせる人、感謝される人は、自分の立ち位置を把握することができるので、自信をもってそこに立っていられるわけです。人とのつながりが自分という存在を成り立たせるわけです。

3 幸せのサイクル

 幸せに向かうサイクルは、不幸せのサイクルの逆になります。他者を信頼することによって、他者とつながることができます。他者とつながると、誰かに貢献する機会に恵まれます。貢献することで感謝され、自信をもつことができます。自信をもつことで、さらにつながろうとします。

つながる方が生きる上で有利

だと、私たちの生き物としてのメッセージがそう教えるのです。不幸せに向かうサイクルの中では、孤立を強めていきます。すると、他者への関心はどんどん痩せていきます。場合によっては、社会を恨んだり攻撃の対象として見たりしてしまうような場合も生じてきます。
 しかし、幸せのサイクルの中では、他者への関心は増幅され、より成長することでしょう。最初は、家族といった本当の身内から、やがて親しい仲間たちへ、仲間たちからその周辺へ。クラス、学校を超えて地域へと広がり、やがて社会を視野に入れたつながりを意識するようになることでしょう。恐らく人によっては、国を飛び出すと同時に、時間も超えることでしょう。つまり、先祖の存在や子孫たちに向けて広がりを見せることでしょう。法事やお墓参りなどは、過去とのつながりを感じ取る絶好の場として機能していることでしょう。

図3

 人とつながること、それは、時空を超えて自分の立ち位置、つまり、居場所を確かめる営みなのかもしれません。確たる自分というものは、最初から絶対的なものがあるわけでなく、人と人とのつながりの中で座標が定まっていくのではないでしょうか。自分の座標、それを自分の「居場所」と呼んでもいいでしょうし、「アイデンティティー」と呼んでもいいでしょう。

共同体感覚、つまり、他者への関心は、自らの幸せを見つけようとする意欲を喚起するスイッチ

なのです。

4 GPSとしての共同体感覚

 共同体感覚の存在は、私たちにとってちょうど、GPSの役割を果たしています。GPSでは、衛星からの電波を私たちが持っているスマホなどの端末で受信し、私たちの居場所を知らせてくれます。教室で不適切な行動をする子どもたちは、教室の中で自分の居場所が見つからず、「宙ぶらりん」なのです。自分の居場所を知らせる電波が微弱だったり、その子自身の受信感度が弱かったりしていることでしょう。そうした状態は、とても不快であり不安なことでしょう。
 ご存知のようにGPSは、4つの衛星からの電波を受信することによって測位精度、数十メートルという正確さを実現しています。より多くの電波を受信した方が、自分の正確な居場所を知ることができます。共同体感覚の発達が未熟な状態は、この電波の受信状態が不良であると言えます。こうした状態だと、自分の居場所を知ることができずに、彷徨ってしまうことになります。人とのつながりが確かめられない不安な状態では、独りよがりの行動をしてしまうことになり、不適切な行動をしてしまうこともあるでしょう。
 みなさんは「さびしい」と思ったことはありませんか。私は人生に最もダメージを与えることは、孤独感だと思っています。人を狂わせるとさえ思っています。ただし、実際に一人でいることが孤独だとは思いません。家族と離ればなれになっても凜々しく生きておられる方は大勢いることでしょう。一人でいることが問題なのではなく、「自分は誰にも求められていない」「自分の居場所はここにない」などと、社会から孤立してしまっていると感じることが問題なのです。子どもたちは、教室では一人ではありませんよね。しかし、「仲間がいない」「味方がいない」と感じている子はいるかもしれません。

図4

 共同体感覚が育つと、より多くの電波を受信できるようになります。自分の居場所をよりしっかりと認識できるようになるわけです。より多くの人とつながると、その行動は、独りよがりのものから人々への貢献の方向に促されますから、適切な行動になっていきます。共同体感覚が、「健全性のバロメータ」と言われたりするのは、こうした理由からではないでしょうか。

* A.アドラー著、岸見一郎訳『個人心理学講義』一光社、1996

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『アドラー心理学で変わる学級経営 勇気づけのクラスづくり』『資質・能力を育てる問題解決型学級経営』『最高の学級づくり パーフェクトガイド』『スペシャリスト直伝! 主体性とやる気を引き出す学級づくりの極意』『クラスがまとまる! 協働力を高める活動づくり』『教室がアクティブになる学級システム』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり』『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)

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