- 著者インタビュー
- 教師力・仕事術
(宇野)若いときの感覚や思いを大事にしてください。失敗や評価ばかりを恐れず、変な自信を持たず、素で感じる感動や興味・関心を大事にしてください。そして、その感情の正体は何だろう?と、ベクトルを自分の内側に向けてください。そうした営みの連続が、「自分らしい教師」「自分にしかできない実践」につながると思います。
(堀)いきなり若い皆さんを萎えさせてしまうかもしれませんが、残念ながら教職を滞りなくこなしていくための「手っ取り早い方法」などない、ということでしょうか(笑)。何事もそうですが、経験と思考を積み重ねていく以外にないということですね。
(宇野)心身共に成長の著しい子どもの人生の一時期に関われることが、この仕事の一番の魅力だと思っています。一人の人間の人生に関わるからこそ、慎重に、まじめに、よりよく、全力でと思います。同時に、楽しく、笑顔で、大胆にとも思います。
(堀)子どもたちの中には、その後、長い付き合いになっていく子たちが少なからず現れるということですね。しかも、彼ら彼女らはさまざまな仕事に就き、さまざまな経験をしますから、僕らにとっても学ぶべきことが多く出てきます。また、そうした卒業生に話を聞いていると、彼らを受け持っていたころの自分を反省させられることもしばしばです。人間にとって一番の幸せは「自らの成長実感」を感じ続けられることですから、教職は間違いなくそのサイクルをもっていますね。
(宇野)「うまくやろう」「失敗しないようにしよう」という守りの姿勢ではなく、興味関心を抱いたことはどんどんやってみることだと思います。やってみてうまくいかなくてまたやってみて……ということを経験していくうちに、実践のコツや自分の方向性が見えてきます。そうすると、少しずつ肩の力は抜けていくものです。
(堀)教職に就いてから、仕事に追われるのではなく、仕事を追いかけるスタンスにいかに早く入れるか、ということがポイントだと感じています。もちろん教職だけでなく、すべての仕事がそうなのでしょうが。
(宇野)本にも書きましたが、私は本当にダメな新人でしたから、家庭訪問の際に教師である保護者に「もっと勉強しなきゃ」と教えられたのがきっかけです。以来、校内のいろんな先生方に授業を見せてもらい、教えてもらいに行きました。また、先輩の先生方に「教わるだけではなく自らの実践を問われなければ成長しない」と言われ、年に数回自主的に校内で授業公開していました。どの教科についても「これでよし」とせず「これでよいか」と自分に問い続ける姿勢でいるのは、初任校での経験が大きいと思います。
(堀)なんでもそうですが、夢中になれるものをもっている人は、夢中になれないものに対してもそれなりの対応法というものを身につけられるものです。逆に、夢中になれるものをもっていない人はすべてにおいて「こなす」という姿勢になります。好きな教材に夢中になる経験をもつと、その勘所と言いますか、その感覚が身につきます。良いサイクルが生まれるわけですね。
(宇野)「答えは自分で見つけ出す」というスタンスでいることです。 間違いたくないという気持ちや誰かに認められたいという思いがあると、自分で考えることをせず「正解」を探してしまいます。先行実践を寄せ集めて形を整えれば見栄えもよく、大きな間違いはないのかもしれません。しかしそれは借り物の授業であって、自分自身の授業ではありません。自分が自分として自分らしく在ることが、授業をする上でも最も自由で最も喜びを感じるのだと思います。
(堀)僕はかなり時間も労力もかけていますから、なかなか皆さんの参考になるようなことはないかもしれません。ただ、一つだけ強調しておきたいのは、「自分の頭で考えること」をスタートにすることですね。安易に他の情報に頼るのでなく、自分の頭で考えたものがある程度固まってから初めて他者の情報にあたる。そのスタンスさえもてば、成長のスピードが上がります。一見遠回りのように見えて、実はこれが一番効率的です。
(宇野)「若さ」は武器にも枷にもなります。若いからと遠慮せず、自分の意見をもって仕事ができる環境に自らを置くことが必要。若さ故の無鉄砲さで突き進まず、周りの先輩たちに教えを乞う謙虚さも必要。「自分で考える」「自分だけで考えない」の両方をもつことを意識してみてはいかがでしょうか。
(堀)自分の得意なことは何なのか、自分の苦手なことは何なのか、それを早めに自覚する。そして得意なことは楽しみながら伸ばす。苦手なことは効率的に取り組む。その先に「教職を愉しむ」というスタンスがやってきます。まずは自己分析からスタートですね。