- まえがき
- 1 「ことば」と「ことばがけ」
- 1 「ことば」とは何か
- 1 「ことば」は思考の幅を決める
- 2 「ことば」は感情を支配する
- 3 「ことば」は状況によって評価が変わる
- 4 「ことば」は関係性によって評価が変わる
- 5 「ことば」は経験によって価値づけされる
- 6 「ことば」は流動的であり,多様に変化する
- 7 「ことば」は観である
- 8 「ことば」は観が拡大されたものである
- 2 「ことばがけ」とは何か
- 1 「ことば」をどこに届けるか
- 2 「ことばがけ」の先に何があるか
- 2 「未来志向のことばがけ」とは
- 1 なぜ,未来志向なのか
- 1 未来志向の「ことばがけ」とは
- 2 過去志向の「ことばがけ」とは
- 3 現在志向の「ことばがけ」とは
- 4 未来志向の「ことばがけ」が目指すもの
- 2 自分の人生を自分で歩くとはどういうことか
- 1 自分の人生を自分で歩く子どもの具体像
- 2 「自分で」とは?
- @自分で考える(人に預けない)
- A自分で決める(人に流されない)
- B自分でする(人に依存しない)
- C自分で責任をもつ(人のせいにしない)
- 3 どうすれば主体性が高まるか
- 1 自己受容,自己肯定を高める
- 2 自他それぞれに意識を向ける
- 4 主体性を高めるための教育方針
- 1 自己受容,自己肯定を妨げる,してはいけない3つのこと
- @先回りする
- A力で子どもをコントロールする
- B否定する
- 2 だから大切にしたい3つの方針
- @待つ,見守る
- A任せる
- B一緒に考える
- 3 エピソードで考える「未来志向のことばがけ」
- EP1・何でも許可を仰ぐ
- ――「ジャージを脱いでもいいですか」と訊かれたら?
- ・自立性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP2・一人で行動しない
- ――友だちと一緒に行動したがるときは?
- ・自立性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP3・配慮されるのを待つ
- ――人数が合わず,ひとりぼっちが出たときは?
- ・自主性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP4・できなくて泣く
- ――授業中に泣いている子を見つけたら?
- ・自立性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP5・忘れ物ばかりする
- ――毎日のように忘れ物をする子には?
- ・自立性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP6・大人に判断を任せる
- ――雨降りのときに外で遊んでもいいかと訊かれたら?
- ・自律性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP7・同じことを訊き返す
- ――一度説明したことを質問されたら?
- ・自主性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP8・一人だけ遅い
- ――みんな終わったのに,いつまでも一人だけ終わらないときは?
- ・自発性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP9・察してもらおうとする
- ――「先生,トイレ……」と言われたら?
- ・自立性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP10・威を借りて優位に立とうとする
- ――「意地悪されたから怒ってほしい」と言われたら?
- ・自立性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP11・周りの迷惑を考えない
- ――汚したところを片付けようとしないときは?
- ・自律性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP12・きまりを守らない
- ――遊びが止められず授業に遅れてくる子には?
- ・自律性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP13・愚図って暴れる
- ――勉強が嫌だと泣いて暴れる子には?
- ・自律性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP14・自信がもてない
- ――自信がなくてみんなの前で発表できないときは?
- ・自発性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP15・友情の変化を憂う
- ――「友だちを取られて寂しい」という訴えを聞いたら?
- ・自立性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP16・係や当番をしない
- ――みんながしている当番をしない子には?
- ・自律性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP17・授業に参加しない
- ――苦手な学習をしようとしない子には?
- ・自主性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP18・嘘をついてごまかす
- ――壊したのに壊してないと言うときは?
- ・自律性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP19・みんなと遊ばない
- ――休み時間にいつも一人でいる子を見たら?
- ・自発性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- EP20・「ごめんなさい」を言わない
- ――嫌がらせをしたのに謝らないときは?
- ・自律性を促す未来志向のことばがけ
- ・ことばがけエピソード
- 参考文献
- あとがき
まえがき
2020年3月。新型コロナウィルス感染対策として,全国の小中高校,特別支援学校に臨時休校の要請が出されました。自治体によって対応や期間は異なりましたが,学校再開までの期間を多くの子どもたちはおうちで過ごすこととなりました。この間,テレビやネット上で保護者の悩みとして取り上げられていたことの一つに,自宅学習に関するものがありました。「ゲームばかりしていて勉強しない」「学校から配られたプリントをしたら,他に何もしようとしない」などの他,「勉強するよう口うるさく言ううちに,親子関係が悪くなった」といったものもありました。
これには,課題の量や内容が適切かという問題だけでなく,家は学校のように日課が明確でないことや集中できる環境がないこと,保護者の在宅の有無など,子どもが自分から学習に向かいにくい多くの要素があります。また,我が子が学習しないことを心配したり不安に思ったりし,何とかしなくてはという親心も至極当然のことと思います。しかし,私が違和感をもったのは,当事者であるはずの子どもが困っていないということです。
街頭インタビューやネット記事の中に散見されたのは「子どもが勉強してくれない」という言い振り,書き振りです。「〜してくれない」ということは,子どもは親の思うように「してくれる」存在であるという前提です。子どもは親がコントロールできるものだと思っていたのに,なかなか思い通りにならん,どうしようということです。
そもそも子どもなんて,いえ,他人なんて誰一人自分の思い通りに操作することなどできません。たとえ我が子であっても別の人間です。それなのに,親の思い描くように勉強させようと思って先回りするから,子どもは自分で考えなくなるのです。「親が言うからする」「うるさく言われるからしない」と,勉強をするかしないかの判断基準が,自分ではなく親になるのです。
教師にも同じことが当てはまります。子どもが主体的に家庭学習に向かえるよう,授業や宿題,課題を充実させている先生もたくさんいらっしゃいます。しかし,子どもを「出されたものをすればよい」「宿題以外はしなくてもよい」という思考にしてしまうような「指導」が,学校現場にはたくさんあります。板書をノートに写さない子を頭ごなしに叱り強制的に書かせるのも,ケンカでどちらが悪いか教師が決め謝罪させるのも,当事者である子どもが考える機会を奪う「指導」です。教師がよかれと思い形を整えることが,結果的に子どもから当事者性を奪い,無責任さを育ててしまいます。
それは,子どもは教師が教えてやらねばならぬ,子どもだからできないだろう,教師だから子どもより正しいに決まっているという奢りがどこかにあるからではないでしょうか。子どもは大人がコントロールできる存在であるという傲慢さが,そうした指導を誘発しているようにも思います。
宿題に限らず,勉強も友だちとのことも……,すべて子ども自身の問題です。子ども自身が向き合い,考え,解決すべき問題です。失敗させてはならぬ,うまくいくようにと先回りして手や口を出したり,大人の言う通りにすれば大丈夫と教えたりするのではなく,自分で考え,解決していけるようにしていくのが,私たち教師の役割ではないでしょうか。
執筆時はコロナ禍真っただ中の2021年,世の中の価値は一層多様化し,複雑化しています。何が正しく,どう行動するべきかの正解はなく,ますます個々の判断が問われる時世へと進んでいます。だからこそ,自分の人生を他人任せにせず,自分で一歩一歩歩んで行ける力が必要なのだと考えます。
本書は,「こう言えば学級や子どもを思い通りに動かせる」ということばがけの本ではありません。教師のことばがけにより,子どもが未来に向かって自分で歩みを進められるようにすることを目指した本です。「ことば」「ことばがけ」とは何かを問い直し,私なりに整理を試みました。それを,エピソード(実体験をもとに加工しています)を通し具体的な姿として提示しました。エピソードは個別の物語としてではなく,みなさまがご自分の観を見つめ,目の前の子どもたちのための「ことばがけ」を模索する一助として機能することをねらっています。本書をマニュアル本としてではなく,在り方を問い続ける材として位置づけていただけるならば望外の幸せです。
/宇野 弘恵
【支援員としてベテランの方へ】
1年の子どもたちへの関わり方について、この本をもとに話す機会をつくれました。一緒に組む方は、支援員としての経験値が多いです。そこで、相手の感情に配慮した伝え方を模索していました。
子どもたちの成長、主体性の発揮、自立に何が大事なのか、この本の宇野弘恵先生の考え方を間にして、共通理解を図るために活用できました。
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