著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
2つの学びの一体的な実現のカギは学級経営にあり
上越教育大学教職大学院教授赤坂 真二
2022/3/25 掲載
 今回は赤坂真二先生に、新刊『個別最適な学び×協働的な学びを実現する学級経営』について伺いました。

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、即戦力となる若手教師の育成、主に小中学校現職教師の再教育にかかわりながら、講演や執筆を行う。
主な著書に、『アドラー心理学で考える学級経営 学級崩壊と荒れに向き合う』『アドラー心理学で変わる学級経営 勇気づけのクラスづくり』『学級経営大全』『資質・能力を育てる問題解決型学級経営』『最高の学級づくり パーフェクトガイド』『スペシャリスト直伝! 主体性とやる気を引き出す学級づくりの極意』『スペシャリスト直伝! 成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『スペシャリスト直伝! 学級を最高のチームにする極意』『スペシャリスト直伝! 学級づくり成功の極意』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。その他編著書多数。

―赤坂先生が本書の冒頭で、これまでの教育改革の流れについて、「本当に現場はそれができていないのか」という視点が大切、と述べられています。本書の核とも言える部分ですが、この点について教えて下さい。

 ゆとり教育の導入もその路線変更も、道徳の教科化も外国語の導入も、近年の教育改革はそのほとんどが現場への批判が基盤になっていて、改革の度に現場の先生方が自信を失っていく構造が続いているのではないでしょうか。しかし、「主体的・対話的で深い学び」に象徴されるように、現場で先行的にグッド・プラクティスがなされているからこそ注目されたわけであり、けっして現場は「できていない」わけではないのです。個別最適な学びと協働的な学びの一体的な実現をしている教室や先生方は既に一定数いるわけでその実態を明らかにしようというのが本書のねらいです。

―赤坂先生には毎年春に、単著をご提案いただいておりますが、今回は赤坂先生と8名の先生による対話というとても珍しい形の書籍になっています。その理由と本書の読み方について、教えて下さい。

 単著という形で発信するとそれは著者の意図にかかわらず読者に「正解」として伝わってしまうことがあります。しかし、現場は多様です。1つの「正解」で対応できるほど単純ではないのです。教室の多様性の幅が少ないときは、その「正解」機能する場合もあります。本書は小学校の教師が中心ではありますが、8人の先生方からお話をうかがうことによって選択肢を用意させていただきました。8人が同じことを言っている部分もあれば、異なることを言っている部分もあります。それらを取捨選択したり統合したりしながら、ご自身の実践の参考にしていただきたいと思います。人の「服」を着こなすことはできません。選択肢から自分にフィットする「服」を選んだり、組み合わせてオーダーメイドの「服」、つまり実践を構想したりしていただければと思います。

―「令和の日本型学校教育」が2021年春に出されてから、「個別最適な学び」のとらえについて、GIGAスクール構想ともあいまって、個別最適な学び=ICT活用のみのようなとらえ方もあるようですが、この点について赤坂先生のお考えをお聞かせ下さい。

 個別の学びを考えるときに、入力の道具としても出力の道具としてもこれまでの道具よりも遙かに多様性があり、ICTの活用は不可欠です。しかし、ICTの活用が,その子にとって最適な学びなのかという問題は別問題です。ICTは個別最適な学びの必要条件かもしれませんが、十分条件ではないと考えています。

―本書は「個別最適な学びと協働的な学び」をテーマとしながらも、それを支える(その土台となる)学級経営について、先生方が話し合われている内容となっています。学校現場では様々な環境の変化が生まれていますが、これからの学級づくりにおいて、大切なことは何でしょうか。

 8人の先生方が、「個別最適な学びと協働的な学び」の基盤として学級経営を重視していました。それは,一人一人の自由度と選択を保障するためだったのではないかと思います。これからの学級経営は、これまでの安定性だけでは不十分であり、活動的な能動性が求められます。しかし、8人の先生方のクラスがどんなに自由で活動的でも集団としてばらけてしまわないのはさらなる条件が整っているからです。詳しくは本書をご覧ください。

―個別最適な学び×協働的な学びをテーマとした場合、キーワードの一つとして挙がってくるものに「学習の自己調整」「自己調整学習」があります。この点については、どのようなアプローチが大切でしょうか。

 自己調整学習が成り立つためには、子どもたちが自己調整方略をもつことが求められます。自ら学ぶ力と言ってもいいかもしれません。その自己調整方略は、教師がいくら口で説明しても身につかないことがこれまでの研究で示されています。自己調整方略は、仲間とのかかわりの中で身につきます。だからこそ、学級経営が大事なのです。

―最後に読者の先生方へ、メッセージをお願い致します。

 教育改革の波を乗り越えるためには、次々と降ってくる「新しい文言」に振り回されるのではなく、まずは、自分の「持ち物」を探してみてください。「あるもの探し」です。個別最適な学びと協働的な学びのリアリティは、どこかの先進の教育システムのなかにあるのではなく、「あなたの教室」にあるはずです。まずはそれを見つけて育ててみませんか。そのためのヒントが満載の書籍になっています。

(構成:及川)
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