- はじめに
- 第1章 主体性とやる気を引き出す学級づくりの基礎・基本
- 第1節 教え子たちにこれからを生きる力をつけていますか
- 1 アクティブ・ラーニングの願い
- 2 あなたの教え子は,変化を乗り切り,変化を起こせるか
- 第2節 アクティブ・ラーニングのイメージをもっていますか
- 1 すべてのものは二度つくられる
- 2 言葉の意味からイメージを探る
- 第3節 あなたの教え子は主体的に学んでいますか
- 1 積極的学習者を育てていますか
- 2 主体性を引き出していますか
- 第4節 主体性を引き出すには
- 自己決定性の保証とは言うが
- 第5節 学級集団づくりにおける最大の課題
- 1 学級経営に対する戸惑い
- 2 最大の問題
- 3 学級経営と学級集団づくり
- 4 よい授業をすればよい学級ができるのか
- 第6節 学級崩壊サバイバル術
- 1 「コントロール不能」に陥るクラス
- 2 伝統的学級崩壊
- 3 学級をコントロールすることに成功する3タイプ
- 第7節 指導性の高い教師の陥る罠
- 1 よいも悪いも教師次第
- 2 「子ども不在」学級
- 3 「静かなる」崩壊
- 4 「奇妙な状態」の出来上がり
- 第8節 主体的な集団
- 1 長きにわたって削ぎ落とされてきたやる気
- 2 アクティブ・ラーニングを実現する集団
- 3 わが国の教師が追い求めてきたもの
- 第9節 自治的集団育成の道筋
- 1 「学級崩壊」の功績
- 2 学級集団づくりの基盤をなす2つの要素
- 3 学級集団育成の3段階
- 4 問題解決集団と課題解決集団
- 5 従順な集団は本当によい集団か
- 6 必要条件に隠された条件
- 7 学級集団を育成する教師のリーダーシップ
- 8 さらば「学級集団づくり」
- 第2章 やる気を引き出す教師のリーダーシップ
- 第1節 “指導力のある教師”とは
- 1 脳から読み解く“指導力のある教師”
- 2 子どもたちのニーズ
- 3 やる気にさせる条件
- 4 教師が安全基地になるためには
- 5 全米ナンバーワン教師が示唆すること
- 第2節 やる気を引き出す教師がやっていること
- 1 学力向上の鍵
- 2 最もやる気に影響する教師の能力
- 3 好意を伝えることができる教師
- 4 日常がダメならすべてダメ
- 第3節 集団指導に成功する教師と失敗する教師
- 1 集団指導に失敗する教師がわかっていないこと
- 2 学級を荒らさない,温かでしたたかな戦略
- 3 関係づくりにおける会話量に秘められた謎
- 4 会話のプロに学ぶ温かな日常をつくる極意
- 第4節 ほめると叱るの黄金比
- 1 叱ってはいけないのか
- 2 成長のためのネガ・ポジバランス
- 3 よい教師になるということ
- 第3章 学級機能アップ チェックポイント20
- 〜集団を育てるための定期点検リスト〜
- 1 学級集団づくりにも定期点検を
- 2 学級機能アップチェックリスト
- 3 いつも自分のあり方を見つめながら学級を見る
- おわりに
はじめに
わが国の子どもたちは,学力偏差値は高いのに学習意欲が低いことが指摘されています。つまり,勉強はできるのにやる気がそれに見合っていないということです。みなさんは,子どもたちのやる気を高めることに自信はありますか。つまり,わが国の子どもたちは,自ら勉強をしたくてやっているのではなくてやらざるを得ないからやっているのです。このような受け身の態度で,人口減少,少子高齢化,グローバル化,AIによる産業構造,雇用の変化,自治体が消滅するといわれる激変の時代を生き抜いていけるかというと,難しい話ではないでしょうか。これからの子どもたちに必要な力は,変化を乗り切るだけでなく自ら変化を起こし,変化そのものになっていくような確かな生きる力なのです。
なぜ,学力偏差値の向上に成功しているわが国の子どもたちに低意欲が指摘されるのでしょうか。それはわが国の教育が,子どもたちの意欲を育てることにあまりにも無関心だったからです。それは先生方の個人的な力量の問題ではなく,教員養成から教員研修に至るまで,子どもたちの意欲を引き出す知恵と技術を系統的に訓練されていないからです。本書を手に取られている多くの方は,学校の先生方だと思いますが,いかがでしょうか,振り返ってみてください。子どもたちのやる気を高めるための訓練をどこかで受けてきましたか。恐らく,自信をもって頷ける方は少数だと思いますし,頷いた方は自ら求めて学んだ方々だと思います。
教師は普通に勉強していると,子どもたちのやる気を奪うことを学んでしまう可能性があります。なぜならば,教員研修や教師の読む教育書の多くは,「こうすればこうなる」という「直接的に人を変えようとする」情報になっているからです。音読を上手にさせたい,文章を正確に読ませたい,計算を速くさせたい,大きな声で歌わせたい,絵を上手く描かせたい……こう表現しておわかりのようにすべて,「人をどう動かすか」という内容なのです。
私たちは,人の言いなりになっていると主体性が奪われます。主体性が奪われると個人の特性や環境によって,やる気が低減するのです。教師の仕事は,基本的に子どもたちに教育活動をさせることで目的が達成される構造にあります。つまり,子どもたちに何らかの影響力を及ぼして目的を達成することが学校教育という営みなのです。気をつけないと知らず知らず子どもたちのやる気を奪ってしまうのです。
これは,教材でも教授法でも子ども理解の問題でもありません。リーダーシップの問題です。なぜならば,リーダーシップとは「目的達成に向けた影響力」のことを指すからです。教育力のある教師は,この影響力の質が高いのです。また,逆に教育力のない教師は影響力の質が低いのです。前者は,子どもたちのやる気を高めながら目標を達成します。子どもたちは,目標を達成すれば,次の目標を求めて動き出します。一方,後者は2つに分かれます。一つ目のタイプは,影響力そのものがないので目標が達成できません。達成感がもたらされないので子どもたちのやる気が削がれていきます。二つ目のタイプは,影響力はありますが,それが強制力や怖さで子どもたちを動かすので,とりあえず目標達成はします。しかし,達成感がもたらされないので,やはり,子どもたちはやる気になりません。力のある教師の教室は,子どもたちの歓声や笑顔で満たされ,そうではない教師の教室では,ダラッとしていたり,シラッとしていたり,妙に整然としていたりするのは,こうした背景が考えられます。
子どもたちの主体性ややる気を引き出すには,子どもたちを直接変えようとしてはダメなのです。「人を変えるにはまず自分から」とよく言うではありませんか。大人社会では,人は簡単に変えられないからまず自分を変えることで,その影響力によって他者を変えるのです。しかし,教室では教師が強者,子どもたちが弱者の構造になりがちです。そうするとついつい教師は,直接子どもたちを変えようとして,結果的に子どもたちの主体性ややる気を奪ってしまうのです。本書は,教育書では実に珍しい,教師のリーダーシップに正面から向き合った書籍となりました。
/赤坂 真二
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