著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
この人なんて言ってるの?! 気持ちを理解するためのスキルアップワーク
公益財団法人神戸YMCAサポートプログラム落合 由香 ほか
2018/8/30 掲載
今回は落合由香先生・石川聡美先生に、新刊『この人なんて言ってるの?! 気持ちを理解するためのスキルアップワーク』について伺いました。

落合 由香おちあい ゆか

神戸YMCAサポートプログラム講師(西宮ブランチ)。特別支援教育士スーパーバイザー。

石川 聡美いしかわ さとみ

神戸YMCAサポートプログラム講師(神戸市西部療育センター自立支援サポートプログラム主任)。特別支援教育士スーパーバイザー。

―本書は『こんなときどうする?! 友だちと仲よくすごすためのスキルアップワーク』の姉妹版とのことですが、それぞれどんな特徴があるのか、どうぞ教えてください。

 1巻目の『こんなときどうする?! 友だちと仲よくすごすためのスキルアップワーク』 は、「ゲームで負けた」「“まちがってるよ”と言われた」「“かして”と言われた」など、日常的にトラブルが起こりがちな場面を取り上げ、自分ならどんな気持ちになるか、どういう対応をすればよいか、自分が相手の立場だったらどう思うか、などを考えたり、台本のセリフを考えてロールプレイをしたりするワークブックです。
 今回の『この人なんて言ってるの?! 気持ちを理解するためのスキルアップワーク』 は、「じゃんけんで負けた」「泣いている子がいる」「飼っていた鳥がいなくなった」などの日常的な場面を表す絵を見て、状況を読み取ったり、登場人物の気持ちを読み取ったり、セリフを考えたりするワークブックです。巻末には表情に合った気持ちを表す言葉を選んだり、日常的な場面を表した文を読んで自分ならどんな気持ちになるかを考えたりするミニワークも掲載しています。
どちらも、実際の指導場面でのエピソードを盛り込んだ指導のヒントを書いています。

―いずれのワークも状況を元に「どうする?!」を考えていくものなのですね。特にこのたびの「気持ち理解」ワークはどのような子にどんな風に使っていただくのが効果的ですか?

 友達と上手にコミュニケーションを取ることや、その場の空気を読むことが苦手な子どもを対象にしていますが、状況や気持ちを言葉で表現することの苦手な子どもに使っていただくのもよいと思います。自分でできる子どもなら、まず自分でワークを1枚やって(宿題で出してもよいと思います)、指導者(保護者)とやりとりをしながら確認します。どう書けばよいかとまどっている子どもには、「この人は何をしているのかな?」と聞きながら、一つ一つ確認していきます。指導の仕方や解説を巻末に載せていますので参考にしていただければと思います。また、表情や気持ちの理解のためのミニワークも何種類か載せていますので、子どもに合わせてお使いください。

―これらの実践は神戸YMCAサポートプログラムで取り組んできたソーシャルスキルトレーニングがベースになっているとのことですが、神戸YMCAとはどのような所なのですか?

 神戸YMCAサポートプログラムは、学習や対人関係につまずきのある小学生から高校生(主に通常の学級に在籍する子どもたち)を対象として1994年にスタートしました。指導者は特別支援教育士などで、発達障害について専門的な知識を持っています。学習やソーシャルスキルを伸ばすグループ指導では、同じようなニーズを持つ子どもたちで小グループを構成し、認知特性や社会性、集中力に合ったプログラムを組み、きめ細かく指導しています。中学生対象のコミュニケーションスキルを伸ばすグループ指導のクラスもあります。また、元来YMCAが得意としている野外活動のノウハウも活かした小学校高学年や中高生のマンスリーのグループ活動や、長期休みのキャンプなど様々な活動を行っています。

―本書に収録されているワーク中で、神戸YMCAで実践された際、印象的な場面などはありますか?

 絵の一部だけを見て判断してしまう子どもがいるのが印象的でした。たとえば、「テストで何も書けない」場面で、顔だけを見て「歯が痛い気持ち」と答えたり、「飼っていた鳥がいなくなった」場面で、開いている窓だけを見て「お天気どうかな?」というセリフを書いたりする人がいました。また、並んでいて割り込まれたり、友達が引っ越したりするなどの場面をすべて「いやな気持ち」と書いている子もいて、気持ちを表す言葉を知らないんだなと感じたりもしました。

―実際に苦手さのある子に指導をされる先生方にメッセージをお願いします。

 子どもたちと継続的に課題に取り組む中で、「この子は周りの状況をこういう風に捉えているんだな」「こういう気持ちでいるんだな」ということがわかってきます。一般的でない独特の理由づけをしていたり、一見驚くような答えでもその子なりの理由があったりします。一つ一つ受け止めながら、その子に合った指導(説明)をしていくことが大切だと思っています。ソーシャルスキルトレーニングはすぐに効果が表れるものではありませんが、そういうやり取りの積み重ねで成長が見られます。じっくり気長に取り組んでいきましょう。

(構成:佐藤)

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