- 著者インタビュー
- 学級経営
現場教師ならば、その多くが学級経営の重要さを認識しています。しかし、現在の教員免許取得のプログラムで学級経営という専門科目はありません。つまり、学級経営に関しては「無免許」状態で現場に出ざるを得ないのが現状です。では、教師になってから学級経営を学ぶことができるかというと、教員研修における学級経営にかかわる研修の比重は低く、しっかりと学ぶことができているとは言えません。そうした一つの背景には、学習指導要領上にはっきりと位置づけられてこなかったことがあります。そのため学級経営は、先生方の経験則に基づく文化論になっていて、結局、一人一人がばらばらなことをやっているという実態です。しかし、新学習指導要領においては、「学級経営の充実」ということで、小学校から高等学校までその位置づけを明らかにしました。
では、新学習指導要領に基づく学級経営の姿とはどのような姿なのでしょうか。そうした問いに答えようとしているのが本書です。
新学習指導要領が子どもたちに身につけようとしていることは、「資質・能力」と呼ばれるこれからを生きるために必要な汎用的能力です。本書では、学習指導要領改訂の議論を踏まえて、「資質・能力」の三つの柱に優先順位をつけて、その中核を定めました。これからの学級経営とは、教科指導の基盤という限定的な役割ではなく、教科指導や子どもたちが質の高い学びができるための環境整備を含む包括的な役割を担うことでしょう。つまり、教科指導をするために学級があるのではなく、一人一人の子どもたちの学びを最適化するために学級があるという考え方です。
教師としての力量をつけたくて一生懸命学んでいる先生方は大勢いらっしゃいます。しかし、その努力が思ったように実っていない方もいます。また、若い頃はうまくいっていたのに、経験年数とともにしんどさが大きくなってくるような方もいます。こうした事態に陥るのには、ある重要な視点が欠けているからだと考えています。教育という営みの本質を外しているからではないでしょうか。第1章では、教育という営みの本質を見極めることから始めます。そうすることによってこれまでの努力が再編成されると同時に、これからの努力の方向性も見えてくることでしょう。
子どもたちは、実にシンプルな原理で考え行動しています。それは、
・先生が決めたら、ぼくたちは決めないよ
・先生がやったら、ぼくたちはやらないよ
というものです。これまでの学校教育は、子どもたちが失敗することを恐れて、転ばぬ先の杖ばかりついていたように見えます。それでは問題解決能力は育ちません。問題解決能力はこれからを生きる力そのものです。教師がよかれと思ってつき続けているその杖が、子どもたちの生きる力を奪っているのです。かつては、「子どもが主役の教育」が大切にされました。それは今も変わりませんが、実態は「教師主導」どころか「教師主役」になっている教室も多いようです。子どもたちの主体性が育つ教室の実現は、「子どもたちが決めて、子どもたちが行動する」学級経営に教師がどれくらい本気で取り組むかにかかっています。
近年の教育界は、授業づくりと学級づくり、どちらが大事かという「不毛な議論」を繰り返してきました。本書では、そうした生産性のない議論とは決別し、子どもたちにとって本当に必要な教育とは何かを学級経営という切り口を通して述べさせていただきました。読者の皆様のこれからのお仕事に少しでも役立てば幸いです。