- 著者インタビュー
- 生活・生徒・進路指導
本書の大きな特徴は2つあります。
一つは、生活指導の「すきま」と言えるような場面も抽出し、そこで必要とされるスキルを整理したことです。
もう一つは、1つの指導場面における必要なスキルを「ハード編/ソフト編」の2つのアプローチで整理したことです。
「すきま」と言えるようなものも含めて、72ものの多様な場面を取り上げていることで、教室で起きる様々な生活指導の場面に対応できたり、参考にできたりするはずです。
また、「子どもと向き合う」ことを大切にすればするほど、子どもとの向き合い方は多様になります。子どもたちの問題行動に対して、「ハード編/ソフト編」という2つのアプローチを知ることは、間違いなく多様な向き合い方のベースになります。その子にあった向き合い方のヒントが必ず見えてくるはずです。
高学年になると、言葉だけでは、子どもたちを元気づけたり、勇気づけたりすることが難しくなります。子どもたちを元気づけ、勇気づける「事実」や「結果」が必要になります。
そのために、小さなものでもいいのです。できたという事実や、前進しているという結果をとらえて、友達や教師が本人に伝えたり、本人が自覚するようにしたりしていくことが大切です。
本書の中でも、自信のない子に、成功体験をもたせることが大切だと提案し、具体的な取り組み方を紹介しています。
例えば、帰りの会の中で、グループのメンバーが今日がんばっていたことを具体的に伝え合う時間をとるだけでも、変わるはずです。自分にもやれていたことがある。がんばったことがある。そして、それを見ていてくれる友達がいる。こう思えることは、とても大きなことです。
最初は、友達の「事実」や「結果」をなかなか見つけられないかもしれません。しかし、継続していくうちに変わっていきます。そして、見つけようとする努力が、自分の「事実」や「結果」にもつながっていきます。
過剰な問題行動であるならば、それを止めることがまず優先されます。しかし、どちらの姿も、その子の姿だと受け止めることが大切です。子どもがこのような二面性のある状態になっていることには必ず、背景、要因があるからです。
子どもの姿を受け止めた後は、「情報」が鍵となります。
情報をしっかり集めることができれば、その子の行動の背景や要因がわかったり、「保護者と担任」や「担任と担任外」の間で情報を共有しやすくなったりします。そうすることで、手立てがとりやすくなります。
本書でも、「家と学校」「担任の前と友達の前」で様子が違う子や、「友達」によって様子を変える子へのアプローチを紹介しています。そこでは、いかにして「情報」を集め、共有していくかについて提案しています。
「寄り添いたい」という思いは大切です。しかし、思いだけでは寄り添うことはできません。「知る」ことが、その大きな第一歩になります。
このようなトラブルが起きたとき、早めに「対応」することは大切ですが、早めに「解決」することを求めないことです。
高学年女子のトラブルは、子どもたちの思いや願いを十分に引き出して、受け止めて解決しなければ、また同じようなトラブルを起こしてしまったり、そのトラブルを自分たちの成長につなげることができなくなったりします。時間をかけて、彼女たちの話をしっかり聞くことをまずは心掛けます。
ただ、トラブルが起きていることで、かなり不安定になる子もいます。そういった子に対しては、より直接的なかかわりをもちます。保護者と連絡をとり合ったり、時には、養護教諭やスクールカウンセラーとも連携したりしながら、早めにサポートすることが必要です。
個別的なアプローチをする一方で、学級全体へのアプローチも必要です。
例えば、
「トラブルは起きて当たり前。トラブルを通して学ぶことを大切にしてほしい。これからに生かしてほしい。」
「グループの中にいると安心する気持ちはわかる。でも、風通しのよいグループになっていくことは、自分たちの安心感にもつながるはずだよ。」
というような価値を語り、共有できるようにしていきます。
学習の中で、様々なペアやグループ活動を取り入れ、いろいろな友達とかかわることを日常的にすることも、一つの手立てです。学級が集団として成熟していくことで、個々の問題も解決に向かいやすくなるからです。
また、高学年女子の特有の問題として、かかわる大人との距離感の問題があります。距離を少しとり、かかわったほうがよい場合もあるのです。
個別的なかかわりに集中せず、「集団と個」を意識して、バランスよくかかわることを心掛けることが必要です。
生活指導は、「子どもと向き合う」ことが基本です。
教室で問題行動が見られるとき、当然ながらその行動が起きてしまう理由も、私たちがとるべき対応も、子どもによって違います。一人一人の子どもたちと向き合い、それぞれの思いや背景に、寄り添いながら指導していく必要があります。
その解決に向けて、本書が少しでも役に立ち、「子どもと向き合う」ための窓口になることを心から信じ、願っています。