子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ
学校生活でも授業でも、教師と「話すこと」は切っても切れない関係。話術、言葉の選び方、コミュニケーション力、コーチング等、教師に必要な言葉のワザを伝授します。
子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ(13)
学習のしつけが楽しく一気に習得できる「魔法の合言葉」
パラグアイ ニホンガッコウ大学学長補佐西野 宏明
2020/6/10 掲載

事例言葉で長々説明してもなかなか身に付かない学習のしつけ

その1 静かに聞く姿勢

 騒がしい状態です。
 話を聞かせるために言いました。
 「はい! 今から先生話しますよ。手はひざの上ね! それで口は閉じます。しゃべりません! ほら、いいですか?」
 しかし、なかなか静かになりません。そんな時は…

魔法の合言葉
 先生「お口は」
 子どもたち「ミッフィー、手はおひざ!」

 お口はミッフィーで、手を人差し指で×にして口にもっていきます。
 手はおひざで、両手は太もも(ひざ)の上に置きます。
 毎日5回は練習します。1週間で定着します。

挿絵1

その2 よい姿勢の指導

 「今からよい姿勢になりますよ。よい姿勢の方がお勉強に集中できて、頭がよくなります。背筋を伸ばしてごらん。足を床にしっかりと付けます。机とお腹の間は少しだけ空けます。背中は椅子にもたれかかりません」
 子どもたちはキョロキョロ。落ち着きません。何がゴールかわかっていない様子です。そんな時は…

魔法の合言葉
 先生「お腹は」
 子どもたち「グー」
 先生「足は」
 子どもたち「ピタ」
 先生「背中は」
 子どもたち「ピン!」

 これも毎日練習します。
 お腹はグーのところは、お腹と背中にグー1つ分空けるという意味です。
 先生が子どもたちの前でやってみせてゴール像を共有することが大事です。慣れてくると、子どもたちは先生と一緒に全部言えるようになります。

その3 机の上の片付け

 机の上に、筆箱、前の時間のノート、下敷きが広がっています。
 先生が黒板の前で話しています。
 しかし、ある子は目の前の筆箱のキャラクターに夢中です。隣の子は、左手に鉛筆、右手に消しゴムを持ち、「バシッ、ビシビシッ、バンバンバンッ、ヒューッ」と戦いワールドに入っています。その前の子は鼻をほじってノートにスリスリなすり付けています。そんな時は…

魔法の合言葉
 先生「机の上は」
 子どもたち「サラサラ〜、サラサラ〜」

 授業終わり、授業開始、毎回次のように確認します。
 机の上は基本的に何も置きません。何も出させません。集中させるためです。
 「サラサラ〜」と言いながら、机の上を両手で川が流れているようにサラサラ〜っと動かすのです。そうやって、机の上には何もないよ、ということを示します。

その4 鉛筆の持ち方

 「今から鉛筆の持ち方を教えます。1の指(親指)と2の指(人差し指)で輪を作ります。その間に鉛筆を置きます。やってごらん。そうしたら、3の指(中指)をそえてできあがりです」
 子どもたちはよくわかっていません。できているような、できていないような、これまたキョロキョロします。
 「先生、これでいいいの〜?」
 「先生、できました〜!」
 持ち方はバラバラです。そんな時は…

魔法の合言葉
 「指でOK」
 「パクパクパクパクパク」
 「くるりんぱ」

 順を追って説明しましょう。
 「指でOKを作ってごらん。こういうふうに」と言って、鉛筆を持つ方の手でOKサインをした指の穴からのぞきます。子どもたちは真似します。
 今度は、鉛筆を持つ手ではない反対の手に鉛筆を持たせます。
 右利きの場合は左手に鉛筆を持ち、右手はOKです。
 次に、「パクパクパクパク」と言いながら、鉛筆の芯を食べるように右手を芯に近づけていき鉛筆を持ちます。このときは親指と人差し指の2本で挟んだ状態です。
 次に「くるりんぱ」と言って鉛筆を返します。
 「最後に中指をそえましょう」と言って3本の指で持たせます。

挿絵2

 2、3日たったら、次のことも教えます。

魔法の合言葉
 「指1本、天使の輪」

 鉛筆の先端を持つとうまく書けないので、指1本分空けさせます。
 だから「指1本」と言います。
 「天使の輪」。これは『1年生にする「学力がつく勉強の仕方」指導』(向山洋一・板倉弘幸 編/TOSS石黒塾 著)という本に書いてあったものです。親指と人差し指で作る輪のことです(上の例だとOKの形)。

その5 正しい書き方、正しい消しゴムの使い方

 「ちゃんと消してごらん」
 「線がちゃんと書けるように、しっかりと書きなさい」
 これができずに困っています。具体的に教えましょう。

魔法の合言葉
 「紙はグッと押さえましょう」

 書くとき、消すときの習慣付けです。
 子どもたちは紙を押さえないと、紙が動いてしまうことに気付いていません。
 紙を強く押さえないと、うまく消せません。消し方が悪いのではなく、反対の手で紙を押さえる力が弱いだけです。そこをしっかりと教えます。

その6 書く時に正しい姿勢を維持

 書いていて猫背になる子。だんだんと右肩が上がり、左肩が下がってくる子(実は私がそうでした)。顔と机の距離が近い子。
 目によくありません。肩こり、頭痛も引き起こしますので指導します。

魔法の合言葉
 先生「目と手は」
 子どもたちは「30cm」

 1年生にもcmを教えます。
 猫背防止のため、机と目は30cm以上離す必要があることを伝えます。そのために両手をパーに開き、目と机の間に置きます。
 パーの小指から親指まで15cmあるので、両手で30cmになります。

挿絵3

解説

魔法の合言葉は楽しい

 言葉で長く説明されるよりも、掛け合いの合言葉で1つの動きをスパッと決めた方がわかりやすくスッキリします。
 子どもたちは先生と合言葉を言い合うのが大好きです。

合言葉はだんだんスピードアップ

 これがコツです。ゆっくりやりません。
 最初にやり方を教えた後は、速くやればやるほど、子どもたちは盛り上がります。
 ゆっくりやるとダレます。
 ただし鉛筆の持ち方と正しい消しゴムの使い方だけは、丁寧にやった方がよいです。持ち方、押さえ方を毎回丁寧に確認するためです。

必ず評価する

 連載第12回「教えたことがバッチリ定着する『評価』と『確認』のシステム」でも言いましたが、これらの指導をしたら、毎回忘れずに評価しましょう。
 評価、確認するから定着していくのです。 

ここがポイント!

  • しつけは「魔法の合言葉」でスパッと気持ちよく!今月の「言葉のワザ」
  • 明るく楽しく、テンポよく行う!
  • 毎回必ず評価して定着させていく!

西野 宏明にしの ひろあき

東京都の公立小学校を10年間勤めたのち、2019年7月よりパラグアイの私立ニホンガッコウで学校顧問(教育コンサルタント、学長補佐)に就任。
初任時代の初めての授業で挫折し、教師修行を始める。
日本各地の教育イベント、セミナー、サークルに参加。自分自身でも若手教師向けのサークルやセミナーを主宰した。毎月5万円以上は読書やセミナー参加費に費やし、自己研鑽に励んだ。その集大成として3冊の単著『子どもがパッと集中する授業のワザ74』『子どもがサッと動く統率のワザ68』『熱中授業をつくる!打率10割の型とシカケ―そのまま追試できる「大造じいさんとガン」』を上梓。
2017年よりJICA青年海外協力隊員としてパラグアイへ派遣され、2年間、現地の教育力向上に努める。2019年3月に公立小学校を退職し、現職。

(構成:木村)
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