子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ
学校生活でも授業でも、教師と「話すこと」は切っても切れない関係。話術、言葉の選び方、コミュニケーション力、コーチング等、教師に必要な言葉のワザを伝授します。
子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ(11)
社会科テスト勉強が盛り上がり成績も上がる「最初と締めの一言」
パラグアイ ニホンガッコウ大学学長補佐西野 宏明
2020/4/10 掲載

事例社会科でテスト前に教え込みの授業になってしまう

 教師になりたての頃は、教科書の内容をなぞるだけで精一杯でした。
 数年たつと、教科書の内容をもとにしながら、どうやって楽しい授業、熱中する授業をつくるか工夫していました。
 この時期までは、市販テストをするにあたって困ることはほとんどありませんでした。教科書にそって授業をしていたからです。

 しかしさらに数年たつと、テストをするにあたって困ったことが起きてきました。
 特に、4、5年生の授業では、教科書の内容をなぞるものばかりではなく、地域に根差した教材を扱いながら、グループで探求したり、体験したり、発表したりする授業の形式に変わっていったからです。
 それにともなって、市販テストに出てくる地域と、実際に授業した地域が異なるようになってしまったのです。

 子どもたちの意欲関心興味を引き出し、子どもたちのリアルな現実の中に社会科の授業を位置づけようとすればするほど、実際の授業内容とテストの内容との間に乖離が生じてきたのです。

 結局、テストの前には教科書で扱っている知識の内容を教え込むことになってしまいました。

挿絵1

実践

 そのような経験から、次のことを考えるようになりました。

 楽しく、ワクワク、活動的でありながら、テスト対策としてもしっかりと知識が身に付くような授業ができないか。

 そこで子どもたちに投げかけた言葉がこちらです。

 「自分がテスト会社の人になったつもりでテスト問題をつくってみよう!」

 この投げかけをもとにした実践で、学級の平均点は以前と変わらないばかりか、ほんの少しだけ上がりました。
 それでは、楽しくテスト用の学習ができる授業手法を、言葉かけといっしょにご紹介しましょう。

まずは趣意説明をする

 テストのための勉強をすることをまず説明します。
 中学、高校に進学した後も、自分で教科書や参考書をもとに予想問題を立てて、それに答えるという力はとても大切になります。
 最初の言葉かけはこちらです。
 「今回は、自分がテストをつくる会社の人になったつもりで、実際にテストをつくり、それを自分たちで答えていくという授業をします」

価値のある問題と価値のない問題を見極める

 最低限の注意点を説明するため、次の問題を板書します。

  1.  教科書50ページの1行目の最初の1文字目はなんというひらがなですか?
  2.  八王子市の農家の人が工夫していることを3点書きましょう。
  3.  2015年、浅草には2500万人以上の観光客が来た。○か×で答えなさい。

 そして問います。
 「この3つの問いの中に、価値のあるものと価値のないものがあります。学習内容を理解できているかどうかを確認するためのテストとして、ふさわしくない問題があります。それはどれですか?」

 答えはもちろん1つ目の問題です。このような問いかけをして、テスト用、つまり学習内容に関することを問題にするということを念のため確認しておきます。

付箋紙を配布して「名前」「問題文」「解答欄」を書く

 付箋紙を300枚ほど用意します(枚数が多いので自分で用意しました)。
 班の形にするとやりやすいと思います。班ごとに30枚程度置きます。

 写真のように、問題、解答欄、名前の3セットを横書きで書きます。
 時間内に何枚書いても構いません。
 ただし、教科書か資料集に書いていることをもとにして問題を作成しなくてはいけません。逸脱してはテスト勉強にならなくなるからです。

挿絵2

 最初は1単位時間かけて問題を書きます。
 2回目以降は時間を短縮できます。宿題でもできます。
 途中、
「実は、実際のテストを今持っているのですが、見たい人?」
と、じらしたりしながら、プロのつくったテスト問題と自分のつくった問題を比べさせます。
 ここで質の高い問題の特徴を教えてもいいでしょう。

黒板に貼り付ける

 写真のように、黒板に全員で一気に貼り付けます。

挿絵3

誰かの問題をはがして解答を書く

 好きな問題を1つだけ選び席に戻ります。席では静かに解いていきます。
 必ず、教科書か資料集を参照して根拠をもって答えるよう指導します。勘ではだめです。問題を解くために、資料を繰り返し読み返すことで知識が身に付くからです。

挿絵4

本人に丸つけをしてもらう

 付箋紙とは別に、教科書か資料集を持って出題者のところへ行きます。
 その際、「教科書(資料集)のここに、書いてありました。どうですか?」と必ず言わせます。こうすることで、根拠を示すことを徹底できます。
 出題者が丸をつけます。丸をもらったら、自分のノートに貼り足していきます。
 授業の最後に、何枚たまったか確認してもいいかもしれません。最低でも5枚は解かなくてはいけません。
 時間は45分間使います。

挿絵5

テスト実施直後に確認をする

 テストが終わったら、必ず最後にこの質問をします。
 「自分がつくった問題がテストにのっていた人?」
 この最後の質問がキーです。
 というよりも、テストの前日にこの授業を行うと、こちらから聞かなくても、テスト中に「あ! ぼくのつくった問題じゃん」というつぶやきが必ず聞こえてきます。
 テストの後に確認すると、半数以上の子が手を挙げるはずです。同じ問題を見つけるとうれしいものです。自信になります。
 「すごいなぁ、みんなは。明日にはもう教育関係の出版社に就職できるんじゃないかな」と楽しくほめていきます。

ここがポイント!

  • 最初の問い「自分がテスト会社の人になったつもりでテスト問題をつくってみよう!」でやる気を一気に高める!今月の「言葉のワザ」
  • 繰り返し実践することで、質の高い問題とそうでない問題を見分ける目を養う!
  • 最後の問い「自分がつくった問題がテストにのっていた人?」で自信につなぐ!

西野 宏明にしの ひろあき

東京都の公立小学校を10年間勤めたのち、2019年7月よりパラグアイの私立ニホンガッコウで学校顧問(教育コンサルタント、学長補佐)に就任。
初任時代の初めての授業で挫折し、教師修行を始める。
日本各地の教育イベント、セミナー、サークルに参加。自分自身でも若手教師向けのサークルやセミナーを主宰した。毎月5万円以上は読書やセミナー参加費に費やし、自己研鑽に励んだ。その集大成として3冊の単著『子どもがパッと集中する授業のワザ74』『子どもがサッと動く統率のワザ68』『熱中授業をつくる!打率10割の型とシカケ―そのまま追試できる「大造じいさんとガン」』を上梓。
2017年よりJICA青年海外協力隊員としてパラグアイへ派遣され、2年間、現地の教育力向上に努める。2019年3月に公立小学校を退職し、現職。

(構成:木村)
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