教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
ミドルリーダー先生必見! 「今ドキ」新人の育て方
認定NPO法人 Teach For Japan 研修開発・教師支援マネジャー山田 育子
2018/4/15 掲載

 私は、認定NPO法人 Teach For Japan(以下TFJ)で新任教師の研修・支援担当をしています。主に20代から30代の新任教員を育てるために、TFJでは毎年赴任前に3週間の集中研修ならびに月ごと・季節ごとの研修を実施しています。その中で私が感じ考えていること・実施していることについて、3点お話しいたします。

(1)「今ドキ」新人の傾向と対策

 新任教師の悩みは、おもに2つに分けられます。@教職課程・教育実習を経ていても自分のスキルに自信がないこと、A子どもの想定ができにくく授業づくりに子どもの考えや姿を反映できないことです。

 これらの悩みをできるだけ早く解決することが大切です。そのために重視すべきことは2つあります。まず「自分は教師として伸びていける」というマインドセット(=考え方の基本的な枠組み)を作り、それからスキルを「高め合う」ことです。具体的には新任教師に自分の「軸」となるような教育・生徒・地域のビジョンを言語化してもらうこと。次に、ビジョンを共有しスキルを磨くための仲間と強い「絆」を作ること。私たちは、これらを赴任前の研修の中で意識して実施しています。

 「今ドキ」新任教師は、上記のように不安・自信のなさを抱えています。私たちが新任教師の研修をする際は、新任教師が走り続けていくための「軸」と「絆」を、学校内または学校の外で作ることを重視しています。
 学校内での新人教育の際も、同期の新人の先生や、年次の近い先生が関わり合い、共に学ぶ場を早いうちに設けることができるとよいでしょう。今まで学校内のOJTで徒弟的に実施していたものももちろん効果的であると信じています。しかし、立場の似た先生同士でいわゆる協同学習を進めることで、自己理解(「軸」の育成)、他者理解(「絆」の育成)をより効果的に行うことができ、新任教師もよりよい教員生活のスタートができると考えます。

(2)「今ドキ」新人を育てるポイント4選

 次に、特に新任教師を育てるミドルリーダーの先生方向けに、新任教師が赴任した後のポイントについて4点書きます。先述したように、自信のなさやスキルの低さを解消していくのは、「軸」と「絆」です。それらが学校内で根を張るようにサポートしていただくことが効果的です。

ポイント1:マイクロマネジメントせず、軸=ビジョンに沿って支援すること
 上で作成した「軸」=ビジョンは赴任後も役立ちます。何を目的に授業や学級経営をしているのかということが共有されていることで、新任教員の志向や特性を知りアドバイスできます。新任教師はスキルも低く指摘したいことが山のようにある場合がありますが、マイクロマネジメント(細かな業務まで口出しする)せず、コーチングの姿勢で学級経営ならびに授業の目的やどうなりたいのかを解きほぐしていくことです。ミドルリーダーの先生においては学校経営案との関連なども踏まえて話をされると、新任教師が納得しやすいです。回り道のように思えますが、そうすることで効果的なアドバイスができることが多いです。

ポイント2:生徒・学年団・管理職などとの関係構築に配慮すること
 特に新任教師は授業や校務分掌に追われてしまいますが、だからこそコミュニケーションに時間が割けているかを見ていてあげることも大切です。ミドルリーダーたる自分とのコミュニケーションはもちろん、授業中や授業外で生徒とコミュニケーションがとれているか、学年団や管理職など他の教員とのコミュニケーションはどうか、ご自身もお忙しい中なかなか難しいこともあるかもしれませんが、気づいてアドバイスすると、展開が変わることがあります。

ポイント3:校務分掌などの細かな仕事の効率化を勧めること
 1年目から効率化を求めるのは難しい場合という声もありますが、まずは新任教師自身がストップウォッチを活用して事務作業の処理時間を把握したり、帰る時間とタスクを決めて取り組んだりすることを始めるのはいかがでしょうか。もちろんミドルリーダーの先生方が取り組まれている効率化について共有いただくことも素晴らしいです。Teach For Americaで使用しているルーブリック Teaching As Leadership Rubric (英文のサイト)でも、効率化 (Continuously Increase Effectiveness) の項目があるほどです。時間の使い方を意識させることで、教室経営や授業にも良い効果があります。

ポイント4:4月から6月までの間に自信を持たせること
 上記を進めていくと、授業や学級経営・関係構築や業務効率などのどこかで、新任の教員の良さが少しずつ発揮されるところがあります。新任教師にその人の良さや良くできているところをフィードバックし、自信を持たせてください。新任教師がはじめの3か月で自信を持つことは、その後の教室運営に影響を及ぼします。新しいこと・膨大な業務に打ちのめされたり他人と比較したりする思考に陥る中で、自信がさらなる実践を積み上げるエンジンとなります。また同時に起きている事象と改善点をセットで伝えることで、改善も促すことができます。時に厳しい直言をすることになっても、できているから期待を寄せているということを伝えることで、互いに高め合っていけます。

(3)「今ドキ」新人を育てるTFJの取り組み
 TFJは、米国発NPOの「Teach For America」をはじめとする全48か国のTeach Forグローバルネットワークを背景に、教師が教室でリーダーシップを発揮し、すべての子どもたちに素晴らしい教育を届けることを目的に、協働しながら採用・研修・支援のプログラムを運営しています。Teach For Americaでは1990年から、TFJでは2013年から新任教員を各地に赴任させています。

 先に、「軸」と「絆」を育むことの重要性について述べました。私たちTFJが進めるのは、「自己理解に基づく」軸を育むことであり、「カジュアルまたは越境的なつながり」である絆を育むことです。これを達成するために、TFJでは赴任前に3週間の研修を行います。同一年度に教員になる人たちが3週間を共にし、互いにフィードバックし合い、自己理解・他者理解を進めています。
 「軸」を育むためにTFJでは、ビジョンセッションと呼ばれる数時間×数回にわたる時間を研修内で取り、自分がなぜ教師となるのか、という問いから始めてビジョンを言語化します。また赴任地実習や地域の方からのヒアリングを通して、子どもたちや地域の様子をつかみ、「自分のビジョン」を最終的にはA4用紙数枚にまとめあげます。
 また「絆」を強めるためには、努力し成果を分かち合うことです。何度も授業づくりをし、模擬授業を通して実践し、フィードバックをし合うことで、授業力が向上できていると実感できるようにします。同じ授業を協同的に作って見せ合ったり、同じ単元を複数の教師で作り合ったりなどすることで、授業づくりの楽しさも分かち合います。
赴任前に上記の研修を行うことで、「自分は教師として伸びていける」と確信し、それからスキルを「高め合う」意欲が育まれます。こうして、「今ドキ」の先生が陥りがちな悩みを赴任前に解決しています。

 最後に、Teach For ネットワークにおけるリーダーシップとは、「自己理解→ 自己変容→ 他者貢献→ 振り返り」のサイクルを回すものです。またネットワークで現在重視しているコレクティブ・リーダーシップとは「リーダーたちが協力し、周りの人と協働」するものです。先生方は日常的にこのコンセプトに基づいて行動されていることを、私も業務の中で実感しています。ミドルリーダーの先生方にとりましても、新任教員の皆様方にとりましても、4月からの実践が素晴らしいものとなりますように祈念しています。どこかでTeach Forの教員・スタッフとご一緒することがありましたら、ぜひ互いに学び合うことができましたら幸いです。

山田 育子やまだ いくこ

認定NPO法人 Teach For Japan 研修開発・教師支援マネジャー。東京都立大学(現・首都大学東京)人文学部卒業後、3年間大手IT系企業で事業企画推進室・社長室秘書業務を経て、7年間大手塾の教室長・ディレクターとして首都圏で小中高校生の学習・進路相談・支援と学生講師の育成に携わる。その間プロボノとしてTeach For Japan(TFJ)に関わったのち現職。TFJでは民間教育経験と得意の語学を活用し、Teach For Allとの連携を進め、教員のための実践的先進的な研修コンテンツづくりに邁進している。

コメントの受付は終了しました。