教育オピニオン
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担任教師必見! 5月病の子へのNG対応&OK対応
新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授/スクールカウンセラー碓井 真史
2018/5/15 掲載

5月の憂鬱「5月病」

 5月病は、もともと大学の新入生に対して使われる言葉でしたが、今は子供からサラリーマンまで、多くの人に使われるようになりました。人は、基本的にはがんばる存在です。ストレスに対して心も体も頑張ろうとするからこそ、ストレス反応も出ます。
 年度の変わり目は、変化の季節。変化はストレスになります。進級進学クラス替え。子供達も変化を経験し、そして新年度は頑張ろうとします。小学校で不適応を起こして心配されていた子供も、中学校には元気に進学し、普通に登校し始めることもあります。ところが、5月の連休明けからごろから調子が悪くなり、とうとう欠席し始めるといったこともよくあることでしょう。
 変化の時には、人は新たな気持ちで頑張ろうとも思います。ストレスが来た時に、人は頑張ります。新年度にイメージチェンジして頑張ろうとする子もいます。締め切り間近になるとエネルギーが湧く人や、文化祭や体育祭の直前にエネルギッシュになる人もいますし、葬儀の時に妙に元気に動き回る人もいます。火事場の馬鹿力が発揮できる仕組みが、私たちの心や体にはあるのです。
 けれども、その人がスーパーマンになるわけではありません。無理をすれば心身の疲れも溜まります。新年度の初めで気持ちが張っている時には、疲れも感じにくく意欲も出るのですが、1ヶ月もすれば疲れて当然です。ゴールデンウイークの休みで、緊張の糸が切れることもあります。さらに連休で生活が乱れれば、連休明けの学校生活が心身ともに辛くなります。また、新生活が思っていたものとはずれていることもあります。希望を持っていたのに現実は違っていたという「リアリティーショック」を感じることもあります。こうして、意欲の減退や抑うつ気分、イライラや体調不良や不登校など、5月病になってしまう人がいるわけです。
 体調不良の訴え、居眠り、笑顔が減る、口数が減る、学習意欲の低下、趣味に対する意欲低下、行動的でなくなる、不機嫌、登校しぶり、食欲不振、友達と遊ばない、投げやりな態度。このような様子が見られたら、それは5月病を表す子供からのSOSかもしれません。

5月病の子どもへのNG対応

 弱っている人がいれば、励ましたくなります。しかし、励まし叱咤激励は時には逆効果です。疲れている時には、休息が必要です。ただし、形の上では休んでいても、大人たちから文句を言われ続けているなら、心は休まりません。どうせ休むならしっかり休ませましょう。
 心が弱っているのと、ただの怠けの区別は難しいものです。ダラダラしている子供を見ると、大人がイライラすることがあります。また子供の抑うつ症状の表れとして、反抗的になる子供もいるのですが、大人が過剰反応すれば問題はさらに悪化します。
 どうして頑張れないのか、なぜ登校しないのかと問い詰めるのも、良い効果はないでしょう。問い詰めれば何か答える時もありますが、それが本当の原因ではありません。
 無理強いさせず、ゆっくり待つ姿勢も必要です。ただ、そう言われてもなかなかできるものではありません。子供を愛する善良で熱心な大人ほど、善意ではあるのですが、逆効果なことをしがちです。このような大人を責めても説教しても、上手くいかないでしょう。悩んでいる大人を支援することが、結局子供を守ることにつながります。

5月病の子どもへのOK対応

 子供の様子がおかしいと感じた時にまずすべきことは、話を聞くことでしょう。頭ごなしに叱る前に、話を聞きましょう。話をするだけで気持ちが楽になることもあります。話を聞くことで、問題が見えてくることもあるでしょう。
 疲れには休息が必要とはいっても、ただ漫然と休ませれば良いわけではありません。欠席が長引けば再登校が難しくなります。休むことだけで解決するなら、長期の休み明けに問題が出ることはないはずです。休むときはしっかり休み、そして再スタートのための準備をする必要があります。無理強いはいけませんが、復活のための適切なきっかけ作りは必要です。
 心と体は絡んでいます。心を元気にするためには、体調管理も必要です。規則正しい生活を取り戻し、楽しく適度に体を動かし、快食軽便傾眠ができるように支援しましょう。
 子供の抑うつ気分やイライラを改善するためには、休息だけではなく、楽しい活動が必要です。子供の様子を見ながら、やりがいや達成感を味わえる活動をさせることが大切です。ただし、ただ頑張れというだけでなく、そのやる気の土台には、安心感が必要です。親や先生など、子供にとって重要な他者から受容されているという安心感を土台として、子供はチャレンジ精神を発揮し成長していきます。

 人は頑張り、疲れ、そして復活します。子供にも親にも希望を与え、5月病を乗り越えていきましょう。
 

碓井 真史うすい まふみ

新潟青陵大学大学院臨床心理学研究科教授。日本大学大学院博士課程修了 博士(心理学)
専門は社会心理学。新潟市スクールカウンセラー。
様々な対人関係、社会病理などの研究を行っている。
主な著書「誰でもいいから殺したかった!:追いつめられた青少年の心理」(ベストセラーズ)
「よくわかる人間関係の心理学」(ナツメ社)など。

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