教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
「図工が苦手」「図工嫌い」の子どもをつくらない教育を!
図画工作教育の本質的改革への3つの挑戦
山形大学地域教育文化学部文化創生コース教授降籏 孝
2018/5/1 掲載

 あなたのクラスに「図画工作が苦手」「図工が嫌い」という子どもはいますか?
 さらに、先生自身にも図画工作・美術に対して、大なり小なり苦手意識はありませんか?
 苦手意識は、他の教科でも存在し様々な分野でも得意・不得意があり、今までは個の特性の一面だから当たり前でしょうがないとも思われてきました。
 しかしながら、図画工作に関していえば、単なる個人レベルを越えて、教育の在り方そのものが大きく影響していることがわかってきました。それは、苦手意識が生まれるのは、その教育の在り方と学習環境に大きな原因があったということです。さらに学級経営とも密接に関わり、図画工作における苦手意識の存在は、重要な教育課題と考えています。

 まずは、なぜ苦手意識が生まれるのかその理由について考えてみましょう。
 私は、小学生から中学生そして高校生、大学生・小学校教師については毎年実態調査を行っています。その調査結果から、苦手意識が生まれる理由が明らかになってきました。

苦手意識がある子ども達の最大理由 ワースト4
1位: うまく上手にできないから 下手だから
2位: おもうようにできないから
3位: アイディアや発想がおもいつかないから
4位: まわりの友達から冷やかされたりしたから

 2位の理由の背景には、上手にできたいという思いがあり、4位の背景にはうまくなく下手だと冷やかしの対象になるということです。これらの理由から、「図画工作は、うまく上手に作品を描きつくらねばならない」という教育観や学習環境があることがわかります。
 逆に、苦手意識がないとこたえた児童の理由については、「うまくできるから」ではなく、1位は「楽しいから、面白いから」でした。2位は「自分の表現ができるから」です。
 この現状から、子ども達に苦手意識を抱かせないためには、うまく上手に作品を描きつくらせればいいように短絡的に考えがちですが、それではうまい上手という極めて限られた狭い価値観で作品を見ることになり、造形美術教育の本質である、一人一人の豊かな表現を求めその過程において一人一人の資質や能力を育成しようという教科の目標ともかけ離れてしまいます。
 また、上手下手が出ない題材や苦手な子でも取り組める題材に救いの手を求めがちですが、残念ながら、題材では根本的な解決になりません。苦手意識を生み出す根本的な原因を本質的に改善していく必要性があります。

 ここで、本質的に改善するための具体的な3つの挑戦を提案したいと思います。

その1 教室から「うまい」「上手」「へた」という言葉をなくすこと

 「うまいね」「上手だね」は誉め言葉で良いように思えますが、先生がその言葉を発した瞬間に、うまく上手に描きつくらねばならないという学習環境ができています。そこでは、うまい作品を目指し比較し合う教育が重ねられ、一部の得意な児童だけが誉められ、それ以外の多くの児童には苦手意識を芽生えさせることになってしまいます。「うまいね」ではなく色や形や考えた工夫点など表現の良い所を具体的に誉め合いましょう。
 より良い学習環境を実現するためには、教師自身の教育観が重要です。うまく上手な作品を求める意識から、一人一人の表現が生まれることを重視する教育観への大きな転換です。コンクールの作品出品のための図画工作は本末転倒と言えます。子ども達は、教師の言動にとても敏感です。教師の姿から学習環境は良くも悪くもなります。より良くしていきましょう。

ポイント 教師自身の教育観の質的転換―うまい作品を求める教育観からの転換

その2 一人一人の発想や表現の工夫を高め合える学習展開

 うまく上手な作品づくりを目指す図画工作から、一人一人の発想、そして表現の工夫などをクラス全体でお互いに高め合えるような学習展開が求められます。まさに資質・能力の育成です。
 導入段階では、最初に教科書等の参考作品を見せてしまうと、児童の発想力はなかなか伸びません。導入に時間をかけ表現したい気持ちをまず育てたいものです。個人に委ねると個人差が生まれ、理由3位の発想の乏しい児童をつくり出してしまいます。お互いに発想を認め合い高め合えるような導入と、表現途中でお互いに交流し合うなどの展開の工夫が求まれます。

ポイント 一人一人の発想と表現の工夫を認め高め合う学習展開の工夫

その3 多様な表現の良さをみんなで認め合える充実した鑑賞・学習のふりかえり

 図画工作では、作品の完成が終わりではありません。学習のふりかえりをかねて充実した鑑賞活動が不可欠です。表現の見方・感じ方を育成できる重要な場面です。充実した鑑賞活動によって、単純にうまいかどうかという狭い見方から、その子らしい一人一人の表現の良さを大事にして多様な表現の良さを発見し、お互いに認め合える学習のふりかえりをもちましょう。

ポイント 表現の良さや工夫を認め合える充実した鑑賞・学習のふりかえり

  
 この本質的改革は、授業パターンが固定化されていればいるほど変えていくのは容易ではありません。苦手意識をなくす王道・特効薬はありません。今日からでも改善し挑戦していく勇気をもちましょう! 最初はとても大変ですが、この教育が定着できると、教師も児童も造形美術表現を本当に楽しめるようになります。

降籏 孝ふりはた たかし

長野県出身
 職歴 国立お茶の水女子大附属小学校教諭・在外派遣教員としてシカゴ日本人学校勤務
 現在 山形大学 教授   
 専門 図画工作・美術科教育、教職講義担当 県の造形教育連盟副会長、滝山小学校評議員、図画工作教科書編集著者
 著書 『みずえのぐの世界―技法と実践』(サクラクレパス出版)
    『小学校図画工作教育法』(建帛社) 他
 現在の研究テーマ「苦手意識をつくらない教育の研究」

コメントの受付は終了しました。