教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
「ほめ」「叱り」をより効果的に機能させるために
大阪大学大学院人間科学研究科教授三宮真智子
2018/3/1 掲載

 子どもと関わる教師にとって、ほめること、叱ることは、子どもたちのやる気を高めたり、反省や行動改善を促したりするための大切なコミュニケーションです。また、「ほめ」「叱り」を効果的に機能させることは、学級経営を左右する基本であると言ってもよいでしょう。しかし、一方で「ほめ」「叱り」は、教師が難しさを感じるところでもあります。というのも、一歩間違えば、目的を達成するどころか、逆効果になってしまうことも少なくないからです。
 そこで本稿では、「ほめ」「叱り」を効果的なものにするために心がけておきたいポイントをお伝えしましょう。

1.「ほめ」を効果的に

 ほめるという行為は一般に、ほめる側の教師にとっても、ほめられる側の子どもたちにとっても気持ちのよいものです。ほめられることによって、子どもたちはいっそうやる気を出してがんばるでしょうし、また、「先生は僕(私)のことを評価してくれている」と感じるため、教師に対する対人感情がよくなり、良好な人間関係が築きやすくなります。
 さらに「ほめ」の効果は、こうした意欲・感情の側面だけにとどまりません。「ほめ」には、実は自尊心や成績を高める効果があるのです。例えば、次のような研究があります。ある子どもたちには、「あなたは算数がとてもよくできるね」といったほめ言葉をかけておきます。別の子どもたちには、「算数がよくできるようにならなければいけないよ」と説得しました。すると、能力をほめられた子どもたちの方が自尊心が高まり、また、算数の成績がよくなったのです。つまり、ほめられたグループは、「自分は算数がよくできるんだ」という一種の暗示にかかったと考えることができます。「ほめ」には、このように自尊心や成績を高める効果があるということを知っておくとよいでしょう。
 ただし、何でもかんでもほめればよいというものではありません。先ほどの例では、小学校2年生を対象としていました。まだこの段階では、子どもたち自身にも、自分の算数の能力はそれほどはっきりと捉えられていません。そのため、教師から「あなたは算数がよくできる」とほめられれば、素直に自信をもつことができます。ところが、もっと学年が進むにつれて、子どもにも得意・不得意がわかるようになります。その結果、自分の苦手なことを「よくできる」などとほめられると違和感をもち、「おだて」や「ご機嫌取り」ではないかと感じられ、「ほめ」はかえって逆効果になりかねません。
 「ほめ」のポイントは、子どもをよく観察することです。そのうえで、些細なことでも構いませんので、子ども自身も納得できるようなよい点を上手に見つけ、「先生はあなたのことをいつも見ていて、応援しているよ」と感じさせるように、小まめにほめ言葉をかけるとよいでしょう。

2.「叱り」を効果的に

 子どもを叱るときに、「どう叱るか」は教師にとって悩ましい問題の1つでしょう。叱るべきことがらが、子どもに納得できるものでなければならないのはもちろんですが、叱られる原因には納得できたとしても、叱り方が納得できないものであれば、子どもの側に反発心が生まれます。いらだちから、つい人格否定(「だめな子だね」など)や突き放し(「もう勝手にすればいいよ」)をしてしまう場合がありますが、これらは避けるべきです。
 人格否定は、ネガティブな暗示を子どもにかけてしまいます。「自分はだめな子」と思い込むと、できることもできなくなるでしょう。また、突き放しを言葉通りに受け取れば、教師との間の絆を断ち切られることになり、子どもは「先生から見放された」と感じてしまいます。こうした表現に限らず、教師が子どもに「よかれ」と思って投げかけた言葉であっても、その意図が正しく伝わるとは限らないという点に注意が必要です。
 発話意図の誤解が原因で、どんどん関係がこじれていくというケースは、決して珍しくはありません。状況や子どもの性格に配慮しつつ、「あなたのことをいつも気にかけているよ」と感じさせる叱り方を工夫しましょう。

3.「ほめ」は直ちに、「叱り」は一呼吸置いて

 「ほめ」はタイミングが大事です。素早くさりげなく発せられた「いいね」の一言は真実味を帯びており、子どもを誇らしい気持ちにしてくれます。翻って、「叱り」は「一呼吸置いて冷静に」を心がけたいものです。腹立ち紛れに叱るなどというのはもってのほかですし、つい勢いで、その子のすべてを否定するようなことも禁物です。
 普段から子どもたちの一人ひとりをよく見ておくことが、効果的な言葉かけを可能にしてくれるでしょう。

三宮 真智子さんのみや まちこ

大阪大学大学院人間科学研究科教授。学術博士(大阪大学)。コミュニケーションと思考に関する認知心理学的研究を行っている。主な編著書に、『メタ認知:学習力を支える高次認知機能』(北大路書房)、『誤解の心理学:コミュニケーションのメタ認知』(ナカニシヤ出版)などがある。

コメントの受付は終了しました。