教師なら必ずマスターしたい《指導技術集》
「指導技術」を意識するかしないかで、ここまで変わる!教師なら絶対に身につけておきたい知識や技能を、具体的なエピソードをまじえて紹介。
マスターしたい指導技術集(5)
教えは外から、工夫は内から
京都文教大学准教授大前 暁政
2013/8/31 掲載
  • マスターしたい指導技術集
  • 教師力・仕事術

教える技術の一つに、「模倣」があります。真似をさせて、やり方を教えていくわけです。

 例えば、絵を描かせる際。
 まずは、お手本となる絵を見せます。
 そして、描き方を、教師がやって見せます。
 その上で、子どもにやらせてみせます。つまり、真似をさせるのです。
 真似をさせても、一度ではうまくできません。
 そこで、良いところはほめ、悪いところは助言します。
 こうして子どもは、お手本の真似をしながら、絵の構図や描き方を学んでいくわけです。

真似するだけだと、子どもの発想力がつかないのではないでしょうか。

 このような反論が思い浮かぶ人も多いかと思います。
 「模倣」だけでなく、子どもに考えさせるべきだという反論です。
 この反論は、もっともです。
 ここで問題となるのは「何を子どもに考えさせるべきなのか?」という点です。

模倣させずして、子どもに工夫を求めると、低いレベルの発想しか引き出せません。模倣を取り入れて、その上で、工夫を考えさせるべきなのです。

 例えば、「お手本の絵を見て、お手本とは違う工夫ができるかな?」と問います。すると、上手なお手本に、さらにプラスした工夫を、子どもは考えることができます。
 構図を変えたり、登場人物を変化させてみたり、背景を変えたり、視点を変えたり…、子どもからたくさんの工夫が出てくるのです。
 お手本を参考にさせることで、レベルの高い発想を引き出すことができます。

 子どもから発想を引き出した絵は、子ども自身が自分の絵にほれぼれするような出来になります。もちろん、友達からも絶賛されます。
 ある子は、絵に自信がなかったのですが、この技術を使って絵を描かせたところ、市内で最優秀賞をとりました。本人もびっくりしていました。

 このような「模倣」を取り入れる技術は、言い換えれば、「真似させてから、工夫させる」技術です。
 現場では「模倣」を取り入れた授業をしていると、批判(非難)されることがあります。「模倣」がだめなものという風潮は、現場に根強く残っています。大変残念なことです。
 佐藤一斎は、「凡そ教えは外よりして入り、工夫は内よりして出づ。」と言いました(「言志後録」五条より)。
 外から教えられた結果として、工夫が内から出てくるのです。
 我々教師は、「模倣」を取り入れた授業の価値をもっと見直すべきではないでしょうか。

「模倣」を取り入れた授業は、いろいろな場面で使えます。

 例えば、運動会の表現指導。
 何らかの動きを創作させるとします。
 このとき、いきなり「自分なりに動きを考えてごらん」と、工夫を引きだそうとすると、失敗します。子どもからは、レベルの低い発想しか出てきません。
 
 そうではなくて、まずは「模倣」から入るのです。
 オリンピック競技の動きを創作させるのであれば、例えばこんな動きがあるよね、と教師がお手本を見せるとよいのです。
 そして基本となる動きは、お手本で見せておいて、ここからさらに工夫はないかを子どもに考えさせるのです。
 すると、教師が見せたお手本を真似しながら、それよりも一つ、二つと子どもたちは工夫をします。何も教えずして、工夫を引き出そうとするよりも、何倍もよい動きが子どもから出てきます。
 
 ただし、ここで終わってはいけません。
 ここからさらに、グループごとに「見せ合い」をさせます。
 それぞれのグループが考え出した表現を、「見せ合い」させるのです。すると、「あのグループの動きはとても工夫されているな」という工夫が見つかります。
 ここで、「他のグループの動きを真似てもいいですよ。」と教師が助言します。
 子どもたちは、「真似てもいい」と言われると、安心して動きを取り入れることができます。
 ちょっとぐらい似ていてもいいのです。子どもは必ず工夫をします。少しだけ動きを変化させるとか、動きは同じでも表現の順番を変えるとか、何らかの工夫をするものなのです。

 こうして、真似をさせてから、子どもの工夫を引き出すようにすれば、あとは教師がほめるだけで、子どもが勝手に工夫を加える状態になります。

 まずは、真似をさせること。
 次に子どもから工夫を引き出すこと。
 「真似をさせて、工夫を引き出す」ような指導をもっともっと取り入れて、子どもを伸ばしてほしいと思います。

 子どもの授業満足度が高いのは、模倣を取り入れて高いレベルの発想を引き出したときです。
 反対に「教えずに、工夫させた」授業では、レベルの低い発想しか出ません。これでは、子どもの力を引き出せないばかりか、子どもの満足度も下がってしまいます。

大前 暁政おおまえ あきまさ

昭和52年生まれ。岡山県の公立小学校教諭を経て、京都文教大学の准教授(理科教育)として赴任。理科の授業研究が認められ「ソニー子ども科学教育プログラム」に入賞。著書に、『子どもを自立へ導く学級経営ピラミッド』『プロ教師の「折れない心」の秘密〜悩める教師への50のアドバイス〜』『プロ教師直伝! 授業成功のゴールデンルール』『プロ教師の「子どもを伸ばす」極意―学級&授業づくりマスターBOOK―』『スペシャリスト直伝!板書づくり成功の極意』『スペシャリスト直伝!理科授業成功の極意』(以上、明治図書)、『必ず成功する!授業づくりスタートダッシュ』(学陽書房)、『NHKおじゃる丸 クイズでおじゃる 目指せ小学校クイズ王』(執筆協力、NHK出版)などがある。
著者HP:『大前暁政の教育』

(構成:及川)

コメントの受付は終了しました。