- 著者インタビュー
- 特別支援教育
遅れのある子ども達の身辺処理に関する支援法は、1970年代にアメリカで研究が進みました。日本では、1979年の養護学校義務化の頃から、アメリカの研究成果を導入しながら数多くの教育実践が展開されました。
しかし、特別支援学校、特別支援学級を担当する先生が急増し、これらの支援法や教育実践の成果が引き継がれにくい状況となってしまいました。そのためでしょうか、小学部、小学校段階で適切な支援を受ける機会がないまま、中学部や高等部になっても自分の身の回りのことをスムーズに行えずにいる子ども達の姿を目にすることが多くなってきたように感じています。
そんな現状を何とかしたいと、本書『遅れのある子どもの身辺処理支援ブック』を企画しました。そして、特別支援教育の経験の浅い先生方が、明日、学校でどうしようかなと困った時にすぐに活用でき、先生自身も成功経験を積み重ねていただけるようなQ&A形式にしました。
発達に遅れのある子ども達への理解もかなり広まってきました。しかし、研修会などで「発達障がいとはどんな障がいですか?」と尋ねますと、「自閉症、学習障がい…」と紋切り型の答えが返ってくることがほとんどです。この答えは発達障害者支援法で示された法律用語としては正解なのですが、遅れのある子どもたちの支援の方向性まではみえてきません。
本書ではQ1として最初に解説しましたが、発達障がいは、本来、「発達期、すなわち、乳幼児期や小児期に、脳の高次機能に障がいが生じた状態」を指す用語なのです。中途障がいと対(つい)で考えていただくとわかりやすいかと思います。発達期に障がいを受けたために、子どもたちは何を目指して、どう頑張ってよいのかの見通しをとても持ちにくく、心的にも不安定な状況になりやすくなっています。そんな子どもたちに、「どんな場面では、何を、どんな手順でやったらいいのか」を具体的に、そして、成功経験の連続となるように支援を進めていくことがとても大事なことになります。
わが子の育っていく道筋を見通せなかったり、子どもと一緒に取り組んでみても上手くいかなかったりするため、結果として、わが子の障がいを受けとめることがなかなかできなかったり、また積極的な対応が難しかったりするようにみえてしまう保護者も少なくありません。そのため、先生方は、このような保護者の姿を共感的に理解しながら、協力体制を作り上げていくことがとても重要になります。
具体的には、本書のQ52にも書きましたが、子どもに何かできるようになってほしい時には、まず、学校だけで取り組むようにします。そして、子どもがある程度は一人でもできるようになったら、学校で行っているやり方を保護者に伝え、家庭でも同じやり方で取り組んでもらうようにします。そうすることで、子どもは慣れたやり方なので、家庭でも自分から取り組む姿をたくさんみせてくれます。そして、保護者はそんなわが子の姿を通し、自分の子育てに自信が持てるようになってきます。「保護者の理解が足りない」と嘆くよりも、本書で紹介したような手順の分析や支援プログラムの立案を行い、子どもも保護者も、そして、先生も成功経験の連続となるように進めていくことがとても重要なポイントとなります。
臨床心理士、スクールカウンセラー、専門巡回相談員として、小、中学校の通常の学級の先生方の相談もこれまで数多く受けてきました。その中で強く感じていることは、子どもの姿を学校生活の中だけで、そして、“子どもはこうあるべき”“保護者はこうあるべき”といった自分の枠内でどうにかして理解しようとされ、支援の方向性さえも見いだせずにいる先生が少なくないことです。
本書の第1章・子ども支援の基礎・基本にて、「多面的な理解」「家庭の事情」「保護者の思い」「子は鎹」などの理解のポイントを示しましたが、先生という鎧を時には脱ぎ捨て、保護者の生き様や、その影響を真正面から受けている子どもたちの姿をそのまま受け止め、応じていこうとする一人の人間として心のありようが何にも増して必要かと考えます。
遅れのある子ども達の教育に携わる先生には、のん気、根気、元気の三気が必須とされてきました。この三気は先生が子どもに向かう際の基本的な心構えであり、同時に、この子たちの教育に携わる専門職としての深い知識も兼ね備えていなければなりません。
本書は特別支援教育の経験の浅い先生方にもすぐに活用していただけるよう、専門用語をできるだけ用いないようにして筆を進めました。まずは本書を手がかりにしていただき、ご自身のこの教育における専門性を高めていっていただければと強く願っています。
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