【書写の指導】
どうしてもお手本を見て字を書くだけになってしまいがちです。「文字を正しく整えて書くこと」をきちんと指導するためのワザを教えてください。
ココがポイント!
自己評価&他者評価で自分がどのように書いたか考えさせる
平成20年版学習指導要領においては、「毛筆を使用する書写の指導は第3学年以上の各学年で行うこと。また、毛筆を使用する書写の指導は硬筆による書写の能力の基礎を養うよう指導し、文字を正しく整えて書くことができるようにする」と記されており、毛筆による指導は小学校第3学年から行われることになっています。
多くの教室の後ろの壁に、子どもの毛筆作品を掲示してあります。そのほとんどが、「ただの掲示」になっているのを見るにつけ、「もったいない…」と感じます。では、どのような工夫をすればよいのでしょうか。
効果抜群! 堀江式 大ワザ&小ワザ
ワザ1 字を書いて終わりではなく、どのように書いたかを書き入れさせる
この「人」の字は、芦田多恵子学級(豊岡市立八代小学校3年)に掲示されたものです。
〇6月22日 めあて 二画目のよこ太くいくところを上手に書く
〇7/1 めあて 1画目の最初をほそくからだんだん大きくする
〇7/8 引き上げる
〇7/8 まっすぐいく
〇めあて 1画目のはらいを丸くする
〇(始筆の)点を大きく書く
〇(終筆に向けて)点を小さくしていく
「めあて」や「留意点」が、自分の言葉できちんと書き込まれています。6月22日、7月1日、そして7月8日とそれぞれ「めあて」と「留意点」が異なっており、何度も練習したということがわかります。
このような書き込みによって、この学習者は自分がどのように書いたかを「メタ認知」しています。
ワザ2 他者からのメッセージで自分の字の特徴やよいところを知る
芦田先生は、さらに同級生(学級内他者)から「よいところ見つけ(ほめほめ)メッセージ」を付箋に書かせています。
他者はどこかに焦点を当ててほめてくれます。これにより、自分が気づかなかったよさに気づくこともあるでしょう。また、自分が「めあて」を達成できたか、「留意点」をきちんと守れたかについて確認できるでしょう。
このように他者の眼をくぐることによって、自分の字の特徴やよいところについて、さらに「メタ認知」を深めることができます。
もちろん、「アドバイス」を書かせることがあってもよいですが、小学校においては、基本的には「よいところ見つけ(ほめほめ)メッセージ」を重視することをおすすめします。
教室は、特別な場合を除いて、「学習集団」が形成されているところです。学習者と学習者とをつなぐこと、これが教師の大きな役割の一つです。
中学校での実践 「あなたが選ぶ永字大賞」
運筆の基本要素を楽しく学習させるための工夫
中学校での書写の実践について紹介しましょう。
直本香苗先生(現・大阪市立今市中学校)が、堺市立大泉中学校において、徳永加代教頭(現・堺市立新浅香山小学校校長)と相談しながら行った「あなたが選ぶ永字大賞」(中学校1年)という実践です。
漢字の「永」の字には、書に必要な技法8種(点、横画、縦画、はね、右あがりの横画、左はらい、短い左はらい、右はらい)が含まれているところから、「永」の字を練習することを「永字八法」と呼びます。
板書のように、「永字八法」には運筆の基本の要素が含まれていることを知らせ、「留意点」をわかりやすく解説しています。
中学校版ワザ1 より多くの他者からの言葉で自分の字の特徴やよいところを知る
それぞれの生徒が「永」という字を書いた(名前は書かない)後、写真のようなフォルダーに入れて展示し、みんなで「永字大賞」を選んでいきます。
そして、「あなたが選ぶ永字大賞」シートに、自分が選んだ「ベスト3」作品の番号と「ここがすばらしい」という選択理由を記入します。(この際、教師は選ばれていない生徒の作品についてこのシートに記入していくという配慮をしました。)
7番 | バランスがよくて、力をぬくところもうまくできている。 |
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15番 | はねていたりはらうところがうまいと思った。 |
2番 | バランスがよくて、全体的にはらったり、はねたりがじょうずにできていた。 |
中学校版ワザ2 字を書いて終わりではなく、よい点、改善すべき点を書かせる
さらに、「自分の『永』を振り返ろう」というシートが用意されています。自分が達成できた留意点に丸を入れていかせ、さらに、「あなたが選ぶ永字大賞」の他者からのメッセージをもとに、「自分の『永』のよい点、悪い点(改善すべき点)」を振り返らせていきます。
注目したいのは、ここでも、小学校の例と同様、他者からの「よいところ見つけ(ほめほめ)メッセージ」と自己評価によって、自分の字について「メタ認知」しているところでしょう。
学習集団を活用して、他者の眼をくぐりながら、自己の学習をじっくりと見つめさせ「メタ認知」まで至らせること、これが書写の学習においても重要ということです。
堀江先生の「ワザ」は、その学年で終わるのではなく、どのように次の学年へつながっていくのかを見通すことができ、とてもありがたいです。
また、「永」の字を課題として、全員に粘り強く指導されているのも毛筆の基本を押さえるものとして、いいなと思います。永字八法には、毛筆の基本が数多く含まれており、小学校でも書写指導の中で活かせるものではないかと感じました。