堀江式 国語授業のワザ
国語授業のお悩みをズバッと解決!“ワザの堀江”先生が指南する、堀江式の大ワザ&小ワザが満載!
堀江式 国語授業のワザ(19)
自己評価&他者評価で書写指導をレベルアップ!
―自分がどのように書いたかについてメタ認知させる―
兵庫教育大学大学院教授堀江 祐爾
2013/12/5 掲載

【書写の指導】

どうしてもお手本を見て字を書くだけになってしまいがちです。「文字を正しく整えて書くこと」をきちんと指導するためのワザを教えてください。

ココがポイント!

自己評価&他者評価で自分がどのように書いたか考えさせる

 平成20年版学習指導要領においては、「毛筆を使用する書写の指導は第3学年以上の各学年で行うこと。また、毛筆を使用する書写の指導は硬筆による書写の能力の基礎を養うよう指導し、文字を正しく整えて書くことができるようにする」と記されており、毛筆による指導は小学校第3学年から行われることになっています。
 多くの教室の後ろの壁に、子どもの毛筆作品を掲示してあります。そのほとんどが、「ただの掲示」になっているのを見るにつけ、「もったいない…」と感じます。では、どのような工夫をすればよいのでしょうか。

効果抜群! 堀江式 大ワザ&小ワザ

ワザ1 字を書いて終わりではなく、どのように書いたかを書き入れさせる

例

 この「人」の字は、芦田多恵子学級(豊岡市立八代小学校3年)に掲示されたものです。

〇6月22日 めあて 二画目のよこ太くいくところを上手に書く

〇7/1 めあて 1画目の最初をほそくからだんだん大きくする

〇7/8 引き上げる

〇7/8 まっすぐいく

〇めあて 1画目のはらいを丸くする

〇(始筆の)点を大きく書く

〇(終筆に向けて)点を小さくしていく

 「めあて」や「留意点」が、自分の言葉できちんと書き込まれています。6月22日、7月1日、そして7月8日とそれぞれ「めあて」と「留意点」が異なっており、何度も練習したということがわかります。
 このような書き込みによって、この学習者は自分がどのように書いたかを「メタ認知」しています

ワザ2 他者からのメッセージで自分の字の特徴やよいところを知る

 芦田先生は、さらに同級生(学級内他者)から「よいところ見つけ(ほめほめ)メッセージ」を付箋に書かせています。
例 他者はどこかに焦点を当ててほめてくれます。これにより、自分が気づかなかったよさに気づくこともあるでしょう。また、自分が「めあて」を達成できたか、「留意点」をきちんと守れたかについて確認できるでしょう。
 このように他者の眼をくぐることによって、自分の字の特徴やよいところについて、さらに「メタ認知」を深めることができます
 もちろん、「アドバイス」を書かせることがあってもよいですが、小学校においては、基本的には「よいところ見つけ(ほめほめ)メッセージ」を重視することをおすすめします。
 教室は、特別な場合を除いて、「学習集団」が形成されているところです。学習者と学習者とをつなぐこと、これが教師の大きな役割の一つです。

中学校での実践 「あなたが選ぶ永字大賞」

運筆の基本要素を楽しく学習させるための工夫

例 中学校での書写の実践について紹介しましょう。
 直本香苗先生(現・大阪市立今市中学校)が、堺市立大泉中学校において、徳永加代教頭(現・堺市立新浅香山小学校校長)と相談しながら行った「あなたが選ぶ永字大賞」(中学校1年)という実践です。
 漢字の「永」の字には、書に必要な技法8種(点、横画、縦画、はね、右あがりの横画、左はらい、短い左はらい、右はらい)が含まれているところから、「永」の字を練習することを「永字八法」と呼びます。
 板書のように、「永字八法」には運筆の基本の要素が含まれていることを知らせ、「留意点」をわかりやすく解説しています。

中学校版ワザ1 より多くの他者からの言葉で自分の字の特徴やよいところを知る

例 それぞれの生徒が「永」という字を書いた(名前は書かない)後、写真のようなフォルダーに入れて展示し、みんなで「永字大賞」を選んでいきます。
 そして、「あなたが選ぶ永字大賞」シートに、自分が選んだ「ベスト3」作品の番号と「ここがすばらしい」という選択理由を記入します。(この際、教師は選ばれていない生徒の作品についてこのシートに記入していくという配慮をしました。)

7番 バランスがよくて、力をぬくところもうまくできている。
15番 はねていたりはらうところがうまいと思った。
2番 バランスがよくて、全体的にはらったり、はねたりがじょうずにできていた。
例

中学校版ワザ2 字を書いて終わりではなく、よい点、改善すべき点を書かせる

 さらに、「自分の『永』を振り返ろう」というシートが用意されています。自分が達成できた留意点に丸を入れていかせ、さらに、「あなたが選ぶ永字大賞」の他者からのメッセージをもとに、「自分の『永』のよい点、悪い点(改善すべき点)」を振り返らせていきます

例

 注目したいのは、ここでも、小学校の例と同様、他者からの「よいところ見つけ(ほめほめ)メッセージ」と自己評価によって、自分の字について「メタ認知」しているところでしょう。
 学習集団を活用して、他者の眼をくぐりながら、自己の学習をじっくりと見つめさせ「メタ認知」まで至らせること、これが書写の学習においても重要ということです。

堀江 祐爾ほりえ ゆうじ

兵庫教育大学大学院教授、元中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会国語専門部会委員、平成20年版中学校学習指導要領(国語)作成協力者、「国語教育の実践と研究をつなぐ会」世話役代表。
主な著書に『「国語力」向上の授業改革1 国語科授業再生のための5つのポイント』『小学校新国語科 言語活動の展開がよくわかるシリーズ1 書く力がぐんぐん伸びる!「言葉のワザ」活用ワーク』、などがある。最新刊『小学校国語科授業アシスト 実物資料でよくわかる!教材別ノートモデル40』が好評発売中!

(構成:林)
コメントの一覧
9件あります。
    • 1
    • 基 洋宏
    • 2013/12/6 22:07:41
    小学校の実践のほうは、自分で自分の文字をより意識させることになりますね。また、他の人の文字を見る観点も養われると思います。こうしたことを積み重ねることが、次の中学校の実践につながっていくのですね。

    堀江先生の「ワザ」は、その学年で終わるのではなく、どのように次の学年へつながっていくのかを見通すことができ、とてもありがたいです。
    • 2
    • 島唄
    • 2013/12/9 0:01:05
    書写指導でメタ認知できる方法を示してくださっていて、とても勉強になります。メタ認知をするためには「他者の眼」をくぐることが大事で、そのための方法を小学校・中学校の工夫のつまった実践例を紹介されているので、よくわかりました。どの学習でも工夫次第で思考力・判断力・表現力が育てられるということをよく覚えておきたいです。
    • 3
    • みかん
    • 2013/12/9 13:03:23
    書写指導といえば、子どもたちに繰り返し何回も書かせ、教師が留意点を教えたり、朱書きで指導する授業が多いのではないでしょうか。たしかにそういう時間もあってもいいと思います。しかし、今回の実践のように、子どもたち自身がメタ認知できるようもっていくことが大事なのですね。子どもたちから引き出し、気づかせる授業を、私もいつも目ざしています。
    • 4
    • がま
    • 2013/12/17 9:09:12
    書写でも、記事のように自分のしていることをメタ認知させることや、他者の目をくぐり自分の良さに気付くことができるのだなと感じました。教師が説明して、お手本をもとに書いている学級が大半を占める中で、このような子どもたちから気付くようにする指導・実践は素晴らしいです。
    また、「永」の字を課題として、全員に粘り強く指導されているのも毛筆の基本を押さえるものとして、いいなと思います。永字八法には、毛筆の基本が数多く含まれており、小学校でも書写指導の中で活かせるものではないかと感じました。
    • 5
    • keichanman
    • 2013/12/21 15:02:57
    たいていの教室を参観すると習字の作品が展示され、教師の赤丸が付けられているのを目にします。最近では、自己評価を右下などに付けさせている先生も多くなってきました。しかし、このように「どこを」「どのように」書くか自分でメタし、その目当てができたか自己評価する実践には、なかなか出会いません。このように自分で目当てを自覚して取り組ませることが思考力・判断力を育てる事になるのだと思います。さらに、書写指導は、硬筆をきちんと書くことを目標としているということを我々教師も自覚する必要があると思います。
    • 6
    • 国語が大好き
    • 2013/12/26 14:53:32
    作文についての伝え合いはおこなっていましたが、書写の作品については思い至りませんでした。書かせて終わりにしていました。芦田先生のように、自分がどう工夫したかを書かせることを、今後と行わせていきたいですね。さらに、直本先生、徳永先生の実践のように、学習集団を活用して、他者との「伝え合い」を積み重ねていきたく思っています。貴重な工夫のヒント、ありがとうございます。
    • 7
    • nekoneko
    • 2013/12/29 19:18:49
    目からウロコです。書写の授業でさえ、伝え合いを行い、メタ認知までもっていくのですね。教師が、いわゆる書写の腕前を持っていなくても、文字を書く際の観点をしっかり持っていれば指導できるという所もうれしい点です。指導者から添削されるだけでなく、自分自身で自分の文字を分析するというのは素晴らしいことだと思います。どんな授業の中でもものを捉えたり、分析したりする観点を身につけることができるということがよくわかりました。毎日の積み重ね、あらゆる場面でのメタ認知が子どもを成長させていくことと思います。
    • 8
    • mainitikasan
    • 2013/12/29 19:42:25
    なるほど。伝え合いの場というのはこんなところにも設定できるのですね。書写というとどうしても伝統的な添削のイメージが浮かんでしまいますが、指導者の方が柔軟な考え方をすれば、伝え合いの場というのは、どんどん広げることができるのですね。これを機に、どんなところで伝え合いの場を設定することができるか周りに目を向けてみようと思いました。思考力や判断力、また、もちろん、伝え合う力もつけることができますね。わくわくしてきました。
    • 9
    • wakuwaku
    • 2013/12/29 19:51:25
    実を言うと書写指導はかなりいいかんげんなものになっていました。習い事としての「お習字」のイメージが強かったからです。そうですよね。書写にだって、伝え合いを取り入れればいいんですよね。何か目の前が開けたような気持ちです。指導者の方が、今までの古いイメージにとらわれていてはいけませんよね。ちょっと今までの書写のイメージから抜け出して、自由な考え方で書写の授業に取り組んでいきたいと思います。
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