校則なし!チャイムなし! 桜丘中が挑む学校改善アクション
校則全廃の公立中として知られる, 東京都世田谷区立桜丘中学校の具体的な取り組みを紹介します。
桜丘中が挑む学校改善アクション(3)
勉強するのは何のため?
東京都世田谷区立桜丘中学校西郷 孝彦
2019/8/20 掲載

 「学力」の向上はどんな学校にあっても大きな教育課題の一つです。でも、そもそも「学力」とは何か、「何のために勉強するのか」という問いに答えることができない教員が多いのではなのでしょうか。

勉強ができないと楽しくない

 桜丘中学校の大きな柱は、インクルーシブ教育であることはすでに述べました。「すべての生徒たちが3年間を楽しく過ごす」という本校のミッションは、実はインクルーシブ教育というちょっと難しい用語を、生徒たちや保護者の方がわかりやすいように言い直したものです。
 前述のように、本校では意味のない校則や規則を整理して、生徒たちにとって楽しく過ごせる学校を目指してきました。また、発達に特性のある生徒や、そのことが原因で不登校になってしまった生徒も楽しく学校へ通えるように、様々な取組をしています。その結果、小学校のときにはうまくクラスになじめなかった生徒や学校に行きづらかった生徒たちも、それぞれが自分の居場所を見つけ、楽しく学校に通えるようになりました。
 生徒たちと先生たちの信頼関係も徐々に深まり、多くの笑顔、喜びが学校のあちらこちらであふれています。ところが、そのような環境の中でも公立学校の常として、3年生になると高校受験という避けられない壁が立ちふさがります。高校に入るためには入試を通過しなければなりません。受験近くになると不安になり、勉強が手につかなくなる生徒たちも出てきます。
 最低限必要な「受験用の学力」を保障してあげることは、入試における「合理的な配慮」を求めることや「自分にあった高校選び」をする必要条件になります。そのために、本校でも授業のユニバーサルデザイン化や幾多の「授業改善」に取り組んでいます。研究授業は全教員が年間で最低1回実施することを義務としています。

研究授業はチャレンジする場

 授業力をつけるには、自らが研究授業をすることが一番です。確かに他の優秀と言われている教員の研究授業を参観することも勉強になりますが、自分の「人」としてもって生まれた能力や魅力を発揮するには、自分から研究授業を行うことで気づきがあります。ですから、特に若い先生には、研究授業ができる機会があったら自ら手を挙げてもらってきなさいと言っています。
 昨年度の世田谷区の中学校教育研究会の研究授業が設定された日には、本校だけで4教科の研究授業が一斉に行われ、副校長が研究授業後の研究協議ができる教室がなくて対応に追われたという笑い話があります。昨年度は、多初任研修で2回、世田谷区教育研究会で1回、教育委員会主催の研究授業で1回の計4回も行った新規採用2年目のツワモノの女性もいます。
 また、研究授業では、参観者の半分は絶賛、後の半分は批判というようにその授業に対する評価が二分するような授業がよい研究授業だと言っています。うまくまとめて前例をなぞるような研究授業は無駄です。本校でも、「先生は一切説明しない授業」とか「3Dプリンターで心臓の模型を作り理解を深める授業」などいろいろなチャレンジをしています。
 3Dプリンターの授業はYouTubeで公開されています。

勉強は何のためにするの?

 皆さんは、よく生徒たちから「何のために勉強をしなければならないの?」と聞かれることはありませんか。私も現役時代は、「理科は何のために勉強しなければならないの?」とよく聞かれました。だいたい、このようなことを聞かれたら、自分の授業が生徒たちにとって面白くないのだと反省したほうがいいです。授業自体が面白ければ、その目的など生徒たちが聞いてくるはずがないからです。
 私は、生徒たちからそう問われると、「悪いやつに騙されないように勉強するのだよ」と言っています。世の中には頭がいい方がたくさんいます。人を騙してお金を儲けようとする人。権力欲を満たそうとする人。騙されないようにするには、論理的な思考力や批判的な精神、もちろん常識を下支えするための基本となる知識も必要になります。
 また、無知であることから必要のない差別意識をもったり、少数の人たちや外国の方に敵意をもったりします。これから日本という狭い中では生きていけない未来になるとすると、必要なのはやはりいろいろな勉強です。これを読んでいる読者の方にも狭い学校教育の中だけの常識ではなく、いろいろな世界を見聞して新しい「学力」を生徒たちにつけてほしいと思っています。

西郷 孝彦さいごう たかひこ

1954年神奈川県横浜市生まれ。上智大学理工学部卒。理科と数学の教員として、1979年、東京都職員になる。都立養護学校から大田・品川・世田谷区にて教員・教頭を歴任。2010年より世田谷区立桜丘中学校長に就任。発達特性に応じたインクルーシブ教育を進める中で、校則や定期テストの廃止など個性を伸ばす教育を推進している。

(構成:赤木)
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