校則なし!チャイムなし! 桜丘中が挑む学校改善アクション
校則全廃の公立中として知られる, 東京都世田谷区立桜丘中学校の具体的な取り組みを紹介します。
桜丘中が挑む学校改善アクション(2)
「多様性」を楽しめる学校環境の土台を整える
東京都世田谷区立桜丘中学校西郷 孝彦
2019/7/20 掲載

 発達に特性のある子どもたちへの対応について悩んでいる先生方が多くいらっしゃいます。衝動性や読み書きが困難であることは本人の努力では解決できません。障害を「擬似体験プログラム」を受けるなどしてよく理解し、適切な対応をしてください。本校の事例を紹介します。

 桜丘中学校は、意味のない校則や規則を整理して、子どもたちにとって楽しく過ごせる学校を目指してきました。その結果、子どもたちと先生たちの信頼関係も徐々に深まり、多くの笑顔、喜びが学校のあちらこちらで溢れてきました。ところが、そのような環境の中でも学校や教室の環境にうまくなじめない生徒、楽しそうにしていない生徒がいることに私たちは気づきました。
 学習にはそれほどの困難がないのにもかかわらず、言葉の「裏」の意味がわからずにコミュニケーションがギクシャクしてしまう生徒、これ見よがしに自分の知識や勉強ができることをひけらかしてヒンシュクを買う生徒、冗談がわからずに言葉を真に受け感情的になり、争いが絶えない生徒など、一見小さな子どものように振る舞う生徒が他の生徒からそっぽを向かれ孤立してしまうケースがあります。
 そのような生徒をどのように指導したらよいのか、他の生徒にはそのような生徒のことをどのように話したらよいのか。先生たちは困惑していました。

わがままや忍耐力の欠如ではない

 初めは、単なる「わがまま」であるとか、忍耐力が足りないなどと思われていましたが、どうやら発達にばらつきや課題がある生徒だということがわかってきました。本校に併設されている情緒障害児学級「さくら学級」に通う生徒の中にも同じような特性をもつ生徒がいて、「発達障害がある」というように呼ばれていました。
 普通の学級の教員は、意外にこの「発達障害」についての知識がないのです。と言っている私自身もたまたま初任校が都立の特別支援学校だったので、何となく聞きかじりの知識はあったのですが、きちんと勉強したことはありませんでした。
 そこで、「さくら学級」の先生からアドバイスをもらい、校内研修を開いて発達障害について研究することになりました。そのような視点で生徒を観察できるようになると、単なる変わった子、すぐ切れる子、学習に困難がある子それぞれが発達に特性があることがわかってきました。また、不登校の生徒の中にも多くの場合、そのような特性のある生徒がいることがわかってきました。

授業のユニバーサルデザイン化

 ちょうどその頃、本校では授業改善に向けた校内研修を行うことになりましたが、小学校の全科と違い、中学校では9教科それぞれ違った教科内容の研究を校内で行うことの難しさや必要性から、教科の違いによらない共通の授業改善に役立つ研究課題を探していました。当初ICTの活用や言語活動に注目していましたが、上記のような発達に課題のある生徒について思いをめぐらしているうちに、日野市が取り組んでいた「ユニバーサルデザインの授業」に辿り着きました。当時の教務主任が障害児教育に非常に関心が高く、ユニバーサルデザインの授業の推進を強く提案してきました。そこで、世田谷区の研究開発校に手を挙げ、2年間にわたり「ユニバーサルデザインの授業と環境」について研究をすることになりました。
 現在、本校を見学に来た方の多くが教室や廊下をご覧になり、掲示物が少なくすっきりしていることに驚かれます。また、授業の黒板には必ず「めあて」や「ながれ」が示されていることにも気づかれます。これらは、ユニバーサルデザイン化された学校の一部です。
 ここに、詳しく「ユニバーサルデザインの授業と環境」については述べませんが、ADHD等について詳しくお知りになりたい方は、明治図書からも多くの入門書が出版されていますので参考にされるといいと思います。

何か足りない?  学校環境の土台になるもの

 現在本校では、ユニバーサルデザイン化された授業や環境は、特別に配慮が必要な生徒ばかりでなく、すべての生徒が学びやすい環境であるという考えでさらに研究を進めています。
 日野市の研究や本校の実践を通じて、ただ単に学校にユニバーサルデザインの方法を取り入れても、あまり効果が出ないことがわかってきました。それだけでは、特性のある生徒が楽しく授業に参加でき、楽しい生活を送ることはできません。ユニバーサルデザインの考え方を導入する以前に、その土台となる大切な学校環境があることがわかってきました。
 その環境をつくるのは生徒や教員、保護者や地域の方たち、特性の生徒を包み込む環境が必要なこと、言い換えれば、「多様性」を楽しめる環境が必要なことがわかりました。私たちは、その環境のことを学校環境のOS(オペレーティング・システム)と読んでいます。

図1

OSのない学校環境

図2

OSのある学校環境

 いろいろな個性をもった生徒に、ただ単にユニバーサルデザインの方法や他の取り組みを行っても効果は限られます。まずは、生徒や教員が一人ひとりの個性を認め合い、豊かな人間関係を築くことが必要です。
 このことが、中学版「みんなの学校」の土台になっています。

西郷 孝彦さいごう たかひこ

1954年神奈川県横浜市生まれ。上智大学理工学部卒。理科と数学の教員として、1979年、東京都職員になる。都立養護学校から大田・品川・世田谷区にて教員・教頭を歴任。2010年より世田谷区立桜丘中学校長に就任。発達特性に応じたインクルーシブ教育を進める中で、校則や定期テストの廃止など個性を伸ばす教育を推進している。

(構成:赤木)
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