校則なし!チャイムなし! 桜丘中が挑む学校改善アクション
校則全廃の公立中として知られる, 東京都世田谷区立桜丘中学校の具体的な取り組みを紹介します。
桜丘中が挑む学校改善アクション(1)
すべての生徒たちが中学校3年間を楽しく過ごせる学校に
東京都世田谷区立桜丘中学校西郷 孝彦
2019/6/20 掲載

 発達に特性のある生徒たちや、個別の悩みをもつ生徒たち、帰国子女や外国籍の生徒たち。一人ひとりに違いがあっても、みんなが同じ学校で一緒に楽しく勉強ができる。そんな中学校版「みんなの学校」をめざして。

 本校、世田谷区立桜丘中学校は校則がないことやチャイムが鳴らないことなどで有名になりましたが、ことの本質は、インクルーシブ教育を推し進めてきた結果が校則の全廃であり、タブレットの使用の自由であるのです。インクルーシブ教育を本校では表題にある通り「すべての生徒が楽しい3年間を過ごせる学校」とわかりやすく再定義しています。学校生活を送るうえで、「楽しくない」ことは何か。生徒たちの意見を聞きながら少しずつ「楽しくない」ことを改善していったのが現在の桜丘中学校の姿です。
 今回は、校則の撤廃に至った経緯を説明します。

理由のない校則がたくさんある

 初めに取り組んだのが、合理的な理由のない校則の撤廃です。生徒たちの不満の中で最上位にあったのが、よく理由のわからない校則や規則でした。「自分のクラス以外の教室に入ってはいけない」や「上級生は下級生の廊下の前を通ってはいけない」から、「下着の色は白」なんていうのもありました。 
 例えば読者の皆さんの中学校にも、以下のような校則があるのではないでしょうか。

靴下の色は白とする

 まあ、靴下が標準服のセットと考えれば、別段おかしな校則ではありません。私が当時の本校の生活指導主任に、どうして靴下の色は白に限定しているのかと聞いたところ、「汚れがすぐにわかって清潔だから」という答えが返ってきました。なるほど、確かに看護師さんやお医者さんの白衣は清潔に保つために白です。でも、中学生が履く靴下はすぐに汚れます。逆に汚れが目立って洗濯するのが大変ではないのかという考えもあります。紺色なら洗濯が楽です。
 それでは、「セーターの色は紺か黒」という理由は何かと尋ねました。生活指導主任からは、「あまり派手にならないように」という答えが返ってきました。でも、先の〈靴下理論〉では紺や黒よりも、白の方が汚れがすぐにわかって清潔なのではないでしょうか。白なら派手ではありませんし、セーターだって清潔な方がいいでしょう。明らかな矛盾があります。
 このような議論をしていく中で、一つひとつ不要な校則がなくなり、最後には何もなくなってしまったのです。

理論的に考える力をつける

 思春期の生徒たちに理不尽な校則を押しつけることは、無用なストレスを与え、情緒を不安定にします。また、過度なストレスは記憶力の低下を招きます。結果として学業にも影響が出るかもしれません。
 さらに、論理的に考えることをしなくなり、矛盾がある不合理な規則であっても単に思考を停止して耐え忍ぶようになります。極端な表現をすれば、虐待を受けた子どもたちの適応反応のようにすべてを諦めた無気力な生徒になってしまいます。本校が規則をできるだけ少なくしている理由の一つには、生徒に考える力をつけてほしいからということがあります。

服装が自由なのにも理由がある

 本校にも標準服は用意されていますが、強制はしていません。発達に特性のある生徒の中にはどうしても制服は着たくないという生徒がいます。小学校時代にも特別なこだわりがあり、いつも同じトレーナーを着ないと気が済まなかったり、長靴でないと登校できないという生徒もいました。そのような生徒に制服を強制したら途端に学校に行きづらくなり、場合によっては不登校になります。
 また、昨今はLGBTの生徒たちへの配慮もするようになりました。「男女別の制服をなくし、女子もスラックスを選べるようになり画期的だ」という見出しが新聞にも乗りました。本当でしょうか。私はまず「女子も」と言う言葉に引っかかりを感じました。女子とか男子とか性別を見かけで判断しています。それでは「見かけ」が男子に見える生徒がスカートを履きたいと言ったら、その学校はそれも許可するのでしょうか。私にはそうは思われません。
 本校では、服装は自由です。もちろん、用意された標準服を着用することもできます。そこに至るのには、やはり理由があるのです。

不要な校則をなくせば働き方改革にもつながる

 知り合いのスクールカウンセラーが、行動に問題のある女子生徒と時間をかけて信頼関係をつくり、やっと本音で話せるようになったのに、突然カウンセラー室に入ってきた担任が「そのスカートは何だ!」と少し短めなスカートを大声で注意して、すべてを台無しにしたと嘆いていました。すべての優先順位の上位に校則がある悲しい例です。信頼関係を築くことをもっと上位にしてほしいですね。
 この例のように、不要な校則を生徒に守らせるために、教員は膨大な時間を「生徒指導」に割いています。本校では、このようなムダな時間はほとんどありません。校則はなくても、本校の生徒たちは自分で考えておしゃれな服装や髪型で学校生活を楽しんでいます。髪型やスカート丈などを教員が「粘り強く」指導する時間がなくなれば、長時間労働でブラックと言われている教員の業務実態が少しでも改善するのではないでしょうか。

西郷 孝彦さいごう たかひこ

1954年神奈川県横浜市生まれ。上智大学理工学部卒。理科と数学の教員として、1979年、東京都職員になる。都立養護学校から大田・品川・世田谷区にて教員・教頭を歴任。2010年より世田谷区立桜丘中学校長に就任。発達特性に応じたインクルーシブ教育を進める中で、校則や定期テストの廃止など個性を伸ばす教育を推進している。

(構成:赤木)
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