QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり
教科化時代が来た! 新しい道徳授業の創り方を解説します。
QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり(5)
問題解決的な授業とは…
筑波大学附属小学校教諭加藤 宣行
2015/10/30 掲載
  • 「特別の教科 道徳」の授業づくり
  • 道徳

A先生

 道徳が教科になるにあたり、授業を変えていかなければいけないと思っています。新しい学習指導要領に、「問題解決的な学習」という言葉が出てきますが、これはどう捉えたらよいのでしょうか。
 問題解決的な授業は、各教科等ではすでに行われていると思います。道徳の授業では行われていなかったということでしょうか。各教科等で行われているような問題解決的な学習を行うことで授業が変わっていくということでしょうか。

加藤先生からのアドバイス

 安易にそれらしい「問題」を道徳授業で話し合わせても、何も「解決」しません。私は次の2点が重要なポイントだと考えます。
子ども自身に問題意識をもたせる
 授業の中で、「おや?どういうことだろう」「分かっているつもりだったけど、分かっていなかった」「もっと考えたい」「うまく説明できない、くやしい」「友達はどう思っているのだろう」などと、子ども自らが「考えたい」「解き明かしたい」と思うことができる『問い』をもたせるようにします。これが問題意識です。このような意識をベースに授業を展開するのとそうでないのとでは、子どもたちの食いつきが違います。
 逆に言うと、指導者から与えられた問題を解き、答えを導き出すという発想は、特別の教科 道徳にはなじみません。
子どもたちの日常生活から問題意識を洗い出す
 普段の生活の中で、「こういうとき、自分はどうすべきなのだろう」「分かってはいるけれど、なかなかうまくできないなあ」という悩みや葛藤はたくさんあることでしょう。これは「よりよく生きたい」という、人間の根本的な心の動きです。そのような現実的で切実なテーマを説き明かすために、道徳の授業で考えるというスタンスをとることによって、授業は変わってきます。

解説

 文部科学省は、学習指導要領解説 特別の教科 道徳編で次のように述べています。

 今回の改正は、いじめの問題への対応の充実や発達の段階をより一層踏まえた体系的なものとする観点からの内容の改善、問題解決的な学習を取り入れるなどの指導方法の工夫を図ることなどを示したものである。(文部科学省 学習指導要領解説 特別の教科 道徳編)

 問題解決『的』な学習を通して、指導方法の工夫を図ることが目的であり、問題解決をすることそのものが目的ではありません。
 道徳教育の特質上、それは当たり前のことですよね。日常の諸問題について、これをすればすべて解決などという特効薬的な処方箋がないのと同じように、道徳教育で目指す「よりよく生きる」という目標に向かって、どのような考え方をすればよいのか、何を大切にすればよいのか、ということは、話し合いを通して一つの方向性を見いだすことはできますが、一つに絞ることはできません。だからといって、何を言ってもよい、価値観は人それぞれだからすべて正しいという考え方も極端です。
 教師の投げかけや、子どもたちの中から自然に出てきた疑問や問題意識を取り上げ、それをどのように考え、判断したらよりよく生きるための指針となるかを共通理解する。自分たちの疑問点を解き明かそうとする観点で教材を読み、話し合う。すると新たな気づきや子ども自身の「問い」が生まれ、それをもとに話し合いが深まる。最終的に、はじめに抱いた疑問や問題点について、新たな見解を生むことができ、「あ、分かった」「そうか、そういうことか」「それだったらできそうだ」「いや、積極的にやってみたい」というように子どもたちの心が前向きに動く。
 この一連の流れが、「問題解決的な道徳学習」だと私は捉えています。
 そして、そのような流れを組むためには、これまでのような心情を追うだけの展開や、ただ単に教師が提示した共通課題を全員で話し合い、発表し合うだけの展開では限界があると思うのです。

問題解決的な学習は、子ども自身の問題意識の流れに寄り添うものであるべき
 教師が期待する答え、もっともらしい結末を言い当てるような問題解決ではなく、かといって子どもたちの生々しい現実の問題を「どうすべきであるか」という方法論を議論するだけでもない、よりよい生き方に向かう問いに対して真摯な追求がなされる、問題解決的な学習を目指しましょう。そのための要点は次の2つです。
@一単位時間の展開を変える
A発問の種類や質を理解し、目的に応じた問いかけを工夫する

 これら2点の要点については、次回からもっと具体的にお伝えさせていただきたいと思います。

加藤 宣行かとう のぶゆき

東京生まれ。
神奈川県津久井地区公立小学校教諭を経て、現在、筑波大学附属小学校(道徳部)教諭。
筑波大学・淑徳大学講師。

(構成:茅野)
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