QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり
教科化時代が来た! 新しい道徳授業の創り方を解説します。
QA解説 「特別の教科 道徳」の授業づくり(4)
考え、議論する道徳に有効な「導入」のあり方は…
筑波大学附属小学校教諭加藤 宣行
2015/9/30 掲載
  • 「特別の教科 道徳」の授業づくり
  • 道徳

B先生

 子どもたちが生きる主体として、人から言われたような借り物の言葉ではなく、自分の言葉で価値観を再構築する必要があることはわかりました。そのためには、授業は今のままではいけない、何かを変えていかなくてはならないということも理解できます。
 その上で、これからの授業改善のポイントについて伺いたいと思います。
 深く考え、有意義な議論を展開する学習過程を構築するために、特に留意するべきポイントは何でしょうか。例えば、「導入」部分はどのような位置づけで、何を行うべきでしょうか。具体的に教えていただけると幸いです。

加藤先生からのアドバイス

子どもたちの「構え」をつくる
 まずは子どもたちの知的好奇心や、よりよく生きたいと思う根源的な学びの欲求を呼び起こすことです。それを「心の構え」と呼ぶことにしましょう。「心の構え」ができるかできないかは、本時の授業の成否を左右してしまうほど大切な要素です。
本時の学びのまとめとして、終末と連動させる
 授業の始めと終わりでは、当然のことながら学びによる変容がなければいけません。それは学習者の価値観の深まりであったり、意欲的な高まりであったり、様々です。指導者は、子どもたち全員にそれを保証する必要があります。それがねらいです。ねらいが達成できるようにするために、また、達成できたかどうかを評価するためにも、導入を効果的に使うことがポイントです。

解説

 一般的に、道徳授業の導入の役割としては、教材資料への導入と価値への導入という二つがよく言われるところです。ここでは、そのような教材資料を理解するための補助的な要素で導入を使うのではなく、教材資料を通して考えさせたい観点を、もっと本質的に深く理解させるために導入を授業の一部として位置づけるというスタンスを取ります。導入が授業の一部であることは当然ではないかと思われるかもしれませんが、導入―展開―終末が、意味のあるつながりをもち、全体として一つの作品となるような授業構想は、もっときちんと考えられなければいけないことだと思っています。

子どもたちの「構え」をつくる

 例えば、「友達と仲良くするってどういうことだろう」と問えば、子どもたちは(大人であっても)様々な返答をすることでしょう。
 「一緒に遊ぶ」「困ったときに助け合う」等々、これはすべて間違いではありません。つまり、「これだ」という一つの正解はないわけです。だから、道徳は答えがないと言われるのですが、それもちょっと違います。たった一つの「唯一解」はないけれど、なんでもありではありません。ゴールフリーではないのです。一人一人の「納得解」、クラス全体の「合意解」を探さなくてなりません。基本的には、表面的な行為行動に答えはないと思った方がいいでしょう。
 そこで、次のように問い返します。「一緒に遊ばないと仲良しではないのかな」「困ったときに助けてくれる友達と、助けてくれないけれどそばにいてくれる友達とでは、どちらが友達としてレベルが高いだろう」。子どもたちは一瞬返答に困るでしょう。そして、「ああ、一言で片付けられる問題ではないな。そういえば、自分はどうだろう」というように、初めて自分で考えようとし始めます。つまり、それまではよそから聞いたような、借り物の言葉を使って「考えたつもりになっていた」だけなのです。
 「あれ!? 今までなんとなくそういうものだと思っていたのと違う」
 「友達ってどういう存在だろう」
 「今日の勉強でそれがわかったら、友達レベルが上がるかもしれない」
 導入時に、子どもたちにこのような「心の構え」をつくることができたら、教材資料を読む必然性も増すことでしょう。さらに、子どもたち自ら話し合いの観点を見い出し、主体的に話し合いを展開していくことでしょう。

本時の学びのまとめとして、終末と連動させる

 そのような学習を展開した後、終末部分で導入と同じ問いをします。子どもたちは「はじめは友達って一緒にいて何かを楽しくすることだと思っていたけれど、授業をして、友達だからこそ言いたくないことも言わなければならないときもあるし、つらいことも乗り越えられるということがわかった」というように、友達観の質的な高まりや深まりを自分の言葉で語ることができるようになります。これは子ども自身の自己評価にもつながりますし、教師の授業に対する評価にもなります。何よりも、導入から終末までの授業の流れに一本筋が通り、「わかった」感が強まるので、子どもたちの意識に強く作用し、授業が終わっても考え続け、時に応じて実践するようになるのです。

心の構えをつくる
「あれ?どういうことだろう。ちゃんと考えてみたい」と思わせる。
導入と終末で同じことを聞く
「ああ、ここがわかっていなかったな。今日の授業でこれがわかった。なるほどこれはいいなあ、自分にできそうなことをやってみたいな」と思わせる。

というように、導入には大きな役割がありそうです。お試しください。

加藤 宣行かとう のぶゆき

東京生まれ。
神奈川県津久井地区公立小学校教諭を経て、現在、筑波大学附属小学校(道徳部)教諭。
筑波大学・淑徳大学講師。

(構成:茅野)
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