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はい。私はそのように考えています。例えば、本書にも載せている「授業開始時に泣いている子がいる」という場面は多くの教師が必ず経験する「あるある場面」です。そして、若手教師が「どうしよう」と悩む場面でもあります。新卒1年目など、希望に燃える状況であればあるほど、「一人を大切にしなくては!」と意気込み、その泣いている一人につきっきりになりがちです。そういう意気込みや、一人に寄り添う姿勢自体はもちろん重要なのですが、クラス全体を放っておくことは愚策です。このような「あるある」場面は、多くの若手教師が経験し、なおかつそこでの対応は非常に重要なのです。
この事例を含め、一緒に勉強しているサークルKYOSO'sメンバーに、他にも自分が困った場面はないか挙げてもらうと、その多くの場面がメンバー間で被っていました。つまり、「若手教師がつまずくことはかなり似通って」いたのです。そのような「あるある」で困った場面を具体的にたくさん挙げ、それに対するアドバイスをまとめたのが、本書です。
やり方(スキル)だけでなく考え方(マインド)も非常に重要だと考えているからです。
本書は、若手教師がつまずくことの多い場面を挙げ、それに対して「少し先輩」である我々サークルメンバーがアドバイスするという形式の書籍です。なるべく解決策(やり方)が分かりやすいように、というつもりでメンバーで声を掛け合い協力して執筆していたのですが、どうしても「考え方」抜きには語れない項目が多くありました。やはり、考え方があってこそのやり方だと改めて気付かされました。こうした経緯から、やり方だけを考え方から切り離して語るのは難しく、むしろ背景にある考え方もしっかり読者の先生方に伝えていった方がよいのではないか、ということで、こういった述べ方になりました。
正直に言って、私は本書に載っている「困った場面」をほとんど経験しています(苦笑)。「あるある」ですから……。それだけ誰もが直面する場面だということです。重要なのは、問題に直面するかどうかではなく、うまく対応し乗り越えられるかどうかです。ですから、本書は困った場面に直面しなくなる本ではなく、困った場面に押しつぶされなくなる本だと言えるでしょう。あるあるな困った場面は、うまく乗り越えられれば、むしろ自分の糧とできるのです。
さて、私にとって忘れられない「困った場面」は、「保護者と離れられない子がいる」というものでしょうか。当時私は、1年生を担任していました。子どもが保護者に付き添われて登校してきましたが、なかなか離れられずにいました。保護者も仕事に行かなくてはいけないのに泣きつかれて困っていました。私もどうしたらいいか、非常に困っていました。そこへベテランの先生がいらっしゃり、サッとその子を抱きかかえて保護者を見えないようにしてしまいました。そして「お母さん、すぐ行ってください。」と行かせました。その瞬間はその子どもはワーッと泣きましたが、保護者がいなくなるとすぐに泣き止み、授業に参加しました(本書では違う解決策を紹介しています)。この時、私は「困った場面をサッと解決する指導術は確かに存在するんだ」と確信したのでした。
サークルでは毎月一回、定例会を行っています。定例会では、メンバーが書いてきた授業実践レポートを読み合い、検討し合っています。ここでは、批判的な意見も含め厳しく検討し合うことにしています。サークルの参加条件は、必ずレポートを書いて持ち寄ること、です。つまりお客さん状態は許されません。レポートの発表は二か月に一回、回ってくるのですが、これがなかなかキツイのです。しかし、単に参加するだけ、人の発表を聞くだけということと比べて断然力がつきます。
若くてやる気のある先生には、気の合う仲間や同じくやる気のある同志を見つけ、少人数でサークルをつくることをおすすめします。また、「KYOSO's」定例会に参加してみたいという方がいらっしゃいましたら、SNS等で土居にコンタクトを取っていただき、レポート持参の上(笑)、ご参加ください。我々は「来る者は拒まず、去る者は追わず」というスタンスですので、いつでもお気軽に。
お若い先生方には、本書の目次の「困った場面」一覧をご覧いただければ、「あー! これあるある!」と頷いていただけると思います。それだけ、若手教師のつまずく問題は似通っているのです。逆に言えば、同じ若手教師たちから一歩抜きんでて、クラスを安定させられ、授業でも子どもを伸ばせるか否かは、こうしたあるある「困った場面」に動じずに、きちっと対応できるか否かにかかっている、とも言えるかもしれません。
また、「まだこんな場面に遭遇したことがないなー」という先生方や、まだ現場に立たれていない学生の方も、「心構え」があるのとないのとでは大違いです。「若手教師はこういうことでつまずきがち」だということを本書を通して知り、「心構え」があれば、いざ問題に直面した時に落ち着いて対応することができます。こうした意味で、本書は今お困りの先生方のための処方箋にも、これから問題に直面するであろう先生方の予防薬にもなり得ると思います。教育現場の厳しさは増す一方ですが、本書を武器に乗り越えていっていただければうれしいです。