- 著者インタビュー
- 算数・数学
本書では、主として数学史的な視点からの教材研究の重要性を述べていますが、より一般的に言えば、ある教材を授業で扱うときに、@どのような導入が生徒の興味や関心をひくか、A生徒はどのような思考のプロセスをたどるか、B教材に潜む法則や原理をどのように整理するか、C法則や原理をうまく利用できる問題は何か、D教材はどのように発展できるか、などを考察することが重要です。
これら5つの観点すべてに、数学史は深くかかわっています。
数学における「概念の形成」や「方法の発見」などには、それに至る歴史的な背景があります。人間は事物、現象を考察する過程において、必要に応じて数学的概念や数学的方法を見いだしてきたからです。したがって、中学生に数学を教えるにあたっては、人間が歴史的に経験してきた数学的営みが参考になります。「個体発生は系統発生を繰り返す」という格言はそのことを意味しているのではないでしょうか。今日の中学校数学で扱われている教材群は効率よく整頓されていて、その歴史的背景が見えにくくなっていますから、意識的に数学史的な視点から分析してみることが必要です。
一般的には、「ほとんどの生徒が簡単に解ける問題ではなく、少し考えることを必要とする問題」が“適度な難しさ”のある問題と言えますが、具体例をあげてみます。
例えば、正負の数に関する問題で、(−2)^3や(−2)^4を計算するような単純な基礎的問題の後に、「(−2)^□×(−2)^△が負の数になるのは、□と△がどんな数のときか?」というような“適度な難しさ”のある問題を扱うことも必要だと思います。もちろん、問題の難易度は生徒によって異なりますから、目の前の生徒を見て与える必要があります。
教科書の問題は基礎的で重要なものが多いのですが、それらを解くだけでは数学のおもしろさは伝わりにくいので、やはりよい問題を教師自身が用意しなければならないと思います。
例えば、計算に関して言えば、多くは2項演算ですから、□*△=○のように、3つの数あるいは文字が関連しています。このとき、○を求めるだけの教科書的な問題だけでなく、他の2か所を未知とするような問題を解いてみることも重要です。さらに、ある問題の一部を変形して新しい問題を考案することも考えられます。本書を活用して、このような工夫をぜひやってみていただきたいと思います。