著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
まねっこでOK!やれば分かる伝統音楽の魅力
岩手大学教授川口 明子ほか
2012/3/12 掲載
 今回は川口明子先生と猶原和子先生に、新刊『小学校でチャレンジする!伝統音楽の授業プラン』について伺いました。

川口 明子かわぐち あきこ

 お茶の水女子大学卒業。大阪大学大学院・上越教育大学大学院修了。東京都立高校を経て、現在は岩手大学で音楽科教育を担当。西ジャワの伝統音楽演奏団体パラグナのメンバー。日本やアジアの音楽文化を生かした音楽教育の研究を進めている。

猶原 和子なおはら かずこ

 お茶の水女子大学卒業。早稲田大学大学院。わらべうたを中心とした低学年の音楽や、フランスのフレネ教育を生かした音楽の授業実践を長年積み重ねている。現在は音楽を通してのシティズンシップ教育、授業研究を中心に研究を進めている。

―子どもたちに伝えたい伝統音楽の魅力とは、ズバリ何でしょうか?

 風や雨等の自然を感じさせる笛や太鼓の音色、伸び縮み自在な独特のリズム感、箏からJ-POPに至る様々な五音音階。実は伝統音楽はどれも新鮮で、不思議でおもしろいものです。また、わらべうたや祭り囃子、現代アレンジのかっこいい和太鼓など、「古くて新しい」音楽文化の中から「伝統」を再発見し、調べ学習や総合など多様な活動へつなげられる懐の深さも、大きな魅力ですね。

―伝統音楽は、なんとなく敷居が高いというイメージをもっている先生が多いようです。まずは気軽に取り組むために、第一歩として何からはじめればよいでしょう?

 まずは多くの先生方がからだまるごとで遊び楽しんだ経験のある「わらべうた」がオススメ。そこからさまざまに表現を広げることができます。
 次に、地元の祭囃子や民謡、民俗芸能など、身近な音楽に触れましょう。学校に楽器が無くても、口で唱える「唱歌(しょうが)」で楽器の「まねっこ」をすれば大丈夫。からだだけで、立派にお囃子のアンサンブルが楽しめます。まさに「まねぶ」は「まなぶ」ですね。
 その体験を発展させて、高学年で箏や雅楽にも挑戦。これまた楽器がなくとも、ビデオ鑑賞と唱歌(しょうが)、リコーダー等の代用楽器で工夫すれば、合奏はもちろん音楽づくりにも挑戦でき、伝統音楽の魅力が存分に味わえます。まずは気に入った事例から試して下さい。

―本書のサブタイトルに「おと・からだ・ことばのリンクをめざして」とあります。どのような意味か簡単に教えていただけるでしょうか。

 よく「楽譜が読めない」という声をききますが、音楽ってそもそも「からだ」で学ぶもの。歌も楽器も、五感を研ぎ澄まして「おと」と「からだ」をリンクさせて「まねっこ」して覚える、そんな口頭伝承によって世界中の多くの伝統音楽は伝えられてきました。また、「うた」は「ことば」であり、「訴える」ことにも通じる素敵な「おと&ことば」の世界そのもの。「からだ」や「ことば」と密接に結び付けながら仲間と「おと」を共有し、安心して表現し合える学級づくりにチャレンジしていただけたらと願っています。

―本書は「伝統音楽は初めて」「音楽が苦手」という担任の先生を意識して執筆されたとのことですが、そのような先生方に取り組んでもらえるようどんな工夫をされましたか?

 子どもの反応や様子が生の姿で具体的に伝わるように、各事例は「活動の紹介」&「実践のドラマ」として提示しました。また、総合的な学習の時間など他教科とリンクした事例(子ども歌舞伎や大江戸発見ウォーキング等)も多いので、先生方の得意分野を持ち寄っての学年団での取り組みの参考にもどうぞ。

 楽譜に頼らず口と身体で楽器のまねっこをする唱歌(しょうが)を多用しています。唱歌は、口頭伝承と楽譜の中間的な役割を果たすスグレモノ。唱歌を合わせてお囃子を楽しみ、衣装や獅子頭を図工で作り、獅子舞や踊りを的に仕上げて発表会を行うのも楽しいでしょう。

 「授業で使える基礎知識」として、主な楽器やジャンルの簡単な解説に加え、コラムや授業に役立つ参考資料や用語解説&索引を完備。この本1冊で、日本の伝統音楽の最低限の基礎知識が得られるように編集したので、活用してほしいです。

―最後に、これから伝統音楽にチャレンジしてみようという先生方へ向け、メッセージをお願いします。

 日本の伝統音楽には、西洋音楽の物差しでは測れない独特の仕組みがあります。例えば、外国人が雅楽の演奏を真似しても、初心者は間(ま)の取り方が妙だったりするそうです。逆に日本人がサンバを歌い踊っても、すぐにはブラジル人のようにはいきません。でも、そうした違いや異質なものをお互いに認め合うことから、他者への共感・協働への道が開けるのではないでしょうか。
 グローバル化が進む今だからこそ、心を開いて、こだわりなく自文化や相手文化の音の世界を受け入れ味わえる、そんな「開かれた耳」を育てたい。日本の伝統音楽へのチャレンジが、そのための一歩になることを願っています。

(構成:木村)
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