世界一わかりやすい道徳の授業づくり講座 対話でつくる道徳の学び
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世界一わかりやすい道徳の授業づくり講座(3)
2学期に向けて知っておきたい!道徳科の評価 
その1 ポートフォリオ評価
立命館大学大学院准教授荒木 寿友
2017/8/25 掲載

 小中学校にお勤めの先生は夏休みがもうすぐ終わってしまいますが(地域によってはもう新学期を迎えたところもあるでしょうね)、夏の終わりってちょっぴり物悲しくなってしまいます。
 さて、今回は新学期を迎えるに当たって、できれば今から意識しておいた方がいい「道徳科の評価」について考えていきましょう。

教育評価の意味とは

 と、その前に、教育評価の大前提をまずは確認しておく必要がありますね。
 教育評価には、大きく分けると二つの役割があります。その一つは子どもの学習状況や結果を見取っていくという評価(子どもたちはどの程度学んだのか)、もう一つが子どもの学習状況を踏まえて教師が自らの教育活動を振り返り、教育活動をよりよいものにしていくという意味での評価(たとえばテスト結果から授業がうまくいったかどうか判断する授業評価)です。教育は何かしらの意図をもって行われる活動なので、その意図が十分に達成されたかどうか見極めていく必要があり、その役割を担っているのが教育評価であるといえます。

道徳科の評価、どうしよう??

 さて、道徳の時間が教科になるということで、良くも悪くも多くの方の関心を集めたのが、評価のことではないでしょうか。教師の価値観を押し付けることにならないのか? そもそも子どもたちの内面を評価できるのか? マスコミなどを通じて道徳科の評価への不安が取り沙汰されました。
 でも、実は従来の道徳教育(道徳の時間)でも、評価については学習指導要領で明記されていたんですよね。たとえば2008年に告示された小学校学習指導要領では「児童の道徳性については、常にその実態を把握して指導に生かすよう努める必要がある。ただし、道徳の時間に関して数値などによる評価は行わないものとする」。この考え方が引き継がれて、現行の学習指導要領では次のように示されています。

児童の学習状況や道徳性に係る成長の様子を継続的に把握し、指導に生かすよう努める必要がある。ただし、数値などによる評価は行わないものとする。

 これまでは「指導に生かす」という観点から評価を捉えていた(だから先生は心の中で「今日の授業はうまくいった」とか無意識に授業評価をしていたのかもしれないですね)のに対して、今後は指導要録に記入することから、子どもたちの学習そのものを評価対象にしていく必要が出てきました。
 通常の教科であれば到達点が明確ですので(これを到達目標と言います)、目標に到達した度合いによって評価が可能になります。ところが、道徳の場合は「(道徳的判断力、心情、実践意欲と態度という)道徳性を育てる」という方向を表す目標で、また授業目標も抽象的に書かれるので(道徳的心情を育てるとかね)、どの程度目標を達成したのかは非常に見えにくいものになっています。だからこそ、多くの先生は非常に戸惑ったのです。「そんな見えにくいものをどうやって評価するんだ」って。
 実は、学習指導要領の解説には「道徳性が養われたか否かは、容易に判断できるものではない」 と明記されています。文部科学省も道徳性の成長なんて簡単に見極められるものじゃないってわかっているんですよね。
 じゃあ、どうやって評価していけばいいのでしょう?

道徳科の評価―大くくりで、成長を認め励ます、個人内評価―

学習指導要領の解説では次のように述べられています。

個々の内容項目ごとではなく、大くくりなまとまりを踏まえた評価とすることや、他の児童との比較による評価ではなく、児童がいかに成長したかを積極的に受け止めて認め、励ます個人内評価として記述式で行うこと。

●大くくりなまとまり
 単発の時間や個々の内容項目に応じて評価するものではないとされています。いろいろな理由は考えられますが(あえてここでは書きませんが)、道徳性そのものがゆっくりと時間をかけて育っていくものですので、一時間やそこらで誰の目にも明らかな成長ってなかなか生じるわけではないという理由があげられるでしょう。要録は年に一度、通知表は多くても年に三度の記述ですから、少なくともそれくらいの時間的なくくりで子どもたちを見ていく必要がありそうです。

●いかに成長したかを、認めて励ます個人内評価
 できなかったところをあえて書く必要はありません(道徳の授業中はいいこと言っていたのに休み時間になるとすっかり忘れています……とかね)。むしろ、伸びたところを積極的に認める具体的な記述を心がけてください。
 私たち自身が、どのような「認め、励ます」言葉をもらったら嬉しいかを考えてみましょう。「そこ見てたの!」という嬉し恥ずかしの具体的な言葉が励みになるのではないでしょうか。道徳科の評価で一番の拠り所になるのは、このポイントだと思います。これは子どもたちの自己肯定感を育てることにもつながります。だからこそ、その個人の中でどのように変化したのか、過去の個人を規準として評価を行う個人内評価がふさわしいと考えられています。

なるほど。誰かと比べるのではなく、一年間を通じて子どもたちを見取っていく、というスタンスでいればよいのですね!……それで、具体的にはどうしたらいいでしょうか?(汗)

オススメ!ポートフォリオ評価

 おそらく、多くの先生は道徳の授業でワークシートや道徳ノートを用いているかと思います。要は10回授業をしたら、10回分のワークシートが集まっているということですよね。道徳の評価にこれを用いない手はありません。
 ポートフォリオ評価は、「総合的な学習の時間」に用いられることが多い評価ですが、これは自分の学びを蓄積していくことで、自分の学びを振り返るという自己評価を可能にする評価方法です。道徳の授業でもワークシートを溜めていくだけではなく、子どもたち自身に授業を振り返ってもらいましょう。たとえば、「もっとも悩んだ(あるいは感動した、考えた)授業はどれ? その理由は?」、「もっとも普段の生活に影響を与えた授業はどれ? その理由は?」といった項目をつくっておいて、学期の中頃と最後あたりにワークシートをまとめていく作業を行うのもいいかと思います。
 これには利点がいくつもあります。第一に、子どもが道徳の学びのプロセスと結果を見つめることができる点、第二に、その学びを一定期間をおいて再構造化(意味づけ)できる点、第三に、教師が評価を書く際の大きな材料になる点、第四に、道徳の授業評価に結びつく点、などです。自己評価をうまく用いれば、小学校高学年辺りから子どもたちのメタ認知能力が向上していきます。

2学期からできる具体的な進め方とは

 あくまで私案ですが、道徳科の評価は以下のような記述になるのではないかと考えています。

○学期は○○について学んでいきました。特に〜〜を扱った授業では、・・・・という意見を述べて、□□という考えを深めていました。

 子どもたちのワークシートの記述を元にして、数名の道徳の評価を書いてみてはいかがでしょうか? そして、2学期のどこかのタイミングで、学年の先生達で実際に書いてみた評価を持ち寄って検討してみると、いろいろな記述の仕方があることを知ることができると思います。

 今回は、道徳の評価について一般的なことを書きました。年末掲載予定の「その2」では道徳の評価の留意点(教師の主観の問題など)についてお届けします。お楽しみに〜。

第3講のまとめ

  • 子どもたちがもらって嬉しい記述を心がけよう。
  • ポートフォリオ評価を通じて、子どもたちの自己評価の力も伸ばしていこう。
  • 実際に評価を書いてみて、他の先生と検討してみよう。

【参考文献】
シャクリー著、田中耕治監訳『ポートフォリオをデザインする』ミネルヴァ書房、2001年
西岡 加名恵『教科と総合に活かすポートフォリオ評価法』図書文化社、2003年

荒木 寿友あらき かずとも

1972年宮崎県生まれ,兵庫県育ち。2002年京都大学大学院教育学研究科博士課程修了。博士(教育学)。専門は道徳教育、教育方法、ワークショップ、カリキュラム開発。現在,立命館大学大学院教職研究科准教授。NPO法人EN Lab.代表理事。セーブ・ザ・チルドレン・ジャパン,アドバイザー。NPO法人cobon理事。国内外、大人子どもを問わず、さまざまなワークショップを展開する。
単著に『学校における対話とコミュニティの形成』(三省堂、2013年)、共著に『モラルの心理学』(北大路書房、2015年)、『考える道徳を創る「私たちの道徳」教材別ワークシート集』(明治図書、2015年)、『やさしく学ぶ道徳教育』(ミネルヴァ書房、2016年)、『戦後日本教育方法論史 下』(ミネルヴァ書房、2017年)など。

(構成:林)
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