勇気づけリーダーの学級経営〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
これからを生きる資質・能力を学級でつけるには?勇気づけリーダーの学級経営
勇気づけリーダーの学級経営(23)
適切な行動探しはプロの営み
〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
上越教育大学教授赤坂 真二
2019/4/15 掲載
  • 勇気づけリーダーの学級経営
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1 適切な行動を探してみよう

 前回「不適切な行動が起こったときは、適切な行動を見つけるチャンス」と述べました。教師にとっては厄介だと思われる不適切な行動ですが、それが起こったときは、実は、その子のよさや強みを見つける絶好の機会なのです。
 次に示すエピソードは、ここまで紹介してきたツヨシ君の事例ではありませんが、適切な行動を探すよい具体例となります。以下の事例に出てくる子の適切な行動を探してみてください。そして、自分が授業者ならば、どのようにするか考えてみてください。

図1

【エピソード4】
 ショウコさん(小4)は、思い通りにならないと感情的になってしまうことがあります。ある日、算数の時間にプリントが配られました。しばらくすると「何コレ!こんなのわかんない!」と大きな声で言うと、プリントをくしゃくしゃに丸めて投げ捨てると同時に、机を足で蹴りました。机はガタンと大きな音を立てて倒れました。周りの子はビックリしてその様子を見ていました。

 さて、みなさん、このエピソードにおけるショウコさんの適切な行動を探してみてください。確かに「プリントを丸めて投げ捨てる」「怒り声をあげる」「机を蹴る」ことは、不適切な行動かもしれません。ここで、それらの行動にすぐさま指導を入れることは、彼女のそうした行動に意味を与えることになります。彼女もツヨシ君のように、気に入らないことがあると感情的になるということを繰り返してきた子です。そこについては、何度も指導を受けてきています。しかし、それが改善されないままに今に至っています。
 ここで、注目すべきは彼女のどんな行動でしょうか。お気づきだと思いますが、彼女が怒りを感じたのは、問題に取り組んだからです。だから、その行動にこそ意味をもたせます。

 担任は、プリントを拾い上げ、皺を伸ばしながら、言いました。「一生懸命解こうとしたんだね。どこがわからなかったの?」すると彼女は、口を尖らせながら、しわくちゃになったプリントに書かれたある問題を指さしました。担任は、新しいプリントを用意して「ここは、こうやるんだよ、できそう?」と尋ねると、頷きました。そこで続けて、「ショウコさん、今度はわからなかったら、手を挙げたり、ここわかりませんって質問したりしてね、そうしてくれると先生、嬉しいな」と言うと、プリントに取り組みながら、小さく頷きました。それからは、彼女がプリントを投げ捨てるような行動をとることはなく、わからないと静かに手を挙げて教師を待つようになりました。

 ショウコさんは、困ったときの対処の仕方がわからないのかもしれません。わからなくなるとその不安や心配を解消するために慣れ親しんだ方法、つまり、感情的になる、という行動に出ているのかもしれません。ショウコさんのような行動をとる子には、不適切な行動を直接的に抑えるような指導をするよりも、適切な行動を見つけてそれを認めた上で、

心配ごとや不安の解決のための手順を教える

方が効果的です。

2 見ようとしない人には見えない

 適切な行動は見えにくく、不適切な行動は見えにくいものです。しかし、不適切な行動の陰には、量的にはもっと多くの適切な行動が隠れていると考えた方がいいのです。では、「いじめ」のような行動はどうでしょう。「いじめ」が見逃されるという事例が後を絶ちません。これは、見ようとしているかしていないかによると思われます。
 例えば、教室である子とある子の机が離れていたとします。それがいじめであるかどうかは別として、いじめを見ようとしている教師は「おかしい」と気づきます。また、人数集めゲーム(リーダーの言った数字の人数で集まるゲーム)などをしているときに、ある子が、ほんの一瞬ですが、グループになるのが遅れたとします。それもその段階では「いじめ」かどうかわかりません。しかし、いじめを見ようとしている教師には違和感として映ります。一方で、同じような光景を見ても、気づかない教師もいます。見ようとしていないからだと思われます。要するに、見ようとしないものは見えないということです。
 これは、私たちの日常にはよく起こることです。みなさんが、新車を購入しようとしたとします。それが、赤い車だったとします。すると、その日から突然、街中のあちこちに赤い車が走っていることに気づきます。それはまるで、赤い車が流行しているか、街中の人が示し合わせて赤い車に乗っているかのように感じるときすらあることでしょう。私たちには認知の枠組み、つまり、フィルターのようなものがあって、見たいものと見たくないものを選別しているのです。
 不適切な行動は目につくといいますが、それは、不適切な行動を見ようとしているからです。不適切な行動に注目してしまいがちな人は、不適切な行動を見つけてしまう眼鏡をかけているようなものです。だから、適切な行動は、見ようとしないとなかなか目に入ってきません。不適切な行動は、私たちの感情を揺さぶりやすいのでどうしても見てしまいがちです。不適切な行動を見ることは、素人でもできるのです。適切な行動を見るには、それなりの能力が必要です。子どもたちの適切な行動が見える教師や、「いじめ」のような見なくてはならない不適切な行動が見える教師は、プロの営みをしている教師であると言えるでしょう。

図2

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『アドラー心理学で変わる学級経営 勇気づけのクラスづくり』『資質・能力を育てる問題解決型学級経営』『最高の学級づくり パーフェクトガイド』『スペシャリスト直伝! 主体性とやる気を引き出す学級づくりの極意』『クラスがまとまる! 協働力を高める活動づくり』『教室がアクティブになる学級システム』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり』『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)

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