勇気づけリーダーの学級経営〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
これからを生きる資質・能力を学級でつけるには?勇気づけリーダーの学級経営
勇気づけリーダーの学級経営(13)
気になる子の支援のシンプルな原理
〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
上越教育大学教授赤坂 真二
2018/6/13 掲載
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1 不適切行動のスパイラル

 不適切な行動をする子どもたちを「困った子」と表現することがあります。また、彼らを理解するときに「『困った子』は『困っている子』」と捉えようとすることがあります。優れた見方の転換だと思いますが、それだけでは、彼らの力になることはできません。彼らを支援するためには、その困っている構造を理解する必要があります。

図1

 不適切な行動をする子どもたちは、あるスパイラルに陥っている可能性があります。アドラー心理学では、不適切な行動をする子どもたちは、適切な行動をする意欲に欠けているためにそうした行動をするのだと考えます。例えば、こちらが「おはよう」と声をかけると「死ね」と吐き捨てるように言う子がいたとします。この子は、「おはよう」と返す意欲に欠けていると捉えます。人をいじめる子は、人をいじめないという意欲に欠け、万引きをする子は、万引きをしないという意欲に欠けているわけです。
 前回までに述べたことを加味して言えば、「死ね」と言うことによって、より多くの感情的注目を効率的に引き出せることを学んでしまっている可能性があります。この子にとっては、「おはよう」と普通に返すよりも「死ね」と返す方が、はるかに行動コストが低い、つまり、楽なのです。適切な行動をする意欲がある子にとっては何でもない行動が、その意欲が欠けた子には、

適切な行動がとんでもない重労働に感じられる

ことでしょう。また、「おはよう」というよりも、「死ね」と言った方が、はるかに相手は感情的に注目してくれることを知っていることでしょう。
 こうした不適切な行動をした場合、相手が愛情に満ちた人ではない限り相手との関係が悪化します。誰だって「死ね」と言われたらいい気分はしません。挨拶の問題だけではありません。授業中におしゃべりをする、立ち歩く、人にちょっかいを出す、人に嫌がらせをする、大きな声を出す、ものを壊すなどなど、挙げればきりがありませんが、こうした行動をしていると、周囲から好かれたり、信頼されたりすることから段々と遠のいていきます。
 したがって、周囲との関係が悪化します。つまり、人とのつながりが切れていくわけです。しかし、彼らだって孤立するのは嫌なのです。周囲とかかわりをもちたいのです。ところが、彼らにとっては、適切な行動をするということはとてつもなく行動コストが高いのです。それで、慣れ親しんだ不適切な行動で周囲の注意を注目させて、かかわろうとするのです。

無視をされるくらいだったら、嫌がられたり、嫌われたりしてもいい

のです。そちらの方が、まだ、マシというわけです。不適切な行動をする子は、適切な行動をする意欲がくじかれているから、不適切な行動をする。すると、周囲との関係が切れる。人は関係が切れると、適切な行動をする意欲がくじかれます。したがって、さらに不適切な行動を繰り返し、さらに周囲との関係性が切れて、また、くじかれるという不適切行動のスパイラルに陥ります。
 こうした行動は、なにも不適切な行動をする子どもたちだけに見られることではありません。時々報道されるゴミ屋敷の住人の方を思い浮かべれば容易に理解できるでしょう。ゴミを片付けたら、誰も訪れてはくれません。しかし、ゴミをため込み、放置して、路上にはみ出させたり異臭を放ったりすれば、みんなが騒いでくれます。テレビカメラが来てレポーターが来てくれてインタビューまでしてくれます。しかし、普通の家になってしまったらどうでしょう。誰も自分に注目してくれないし、話も聞いてくれないことでしょう。
 自分だけの力では、このスパイラルから抜け出ることは到底困難です。少なくとも、本人はそう思い込んでいるわけです。だから、「困っている子」や「困っている人」になっているわけであり、他者の支援が必要なのです。

2 適切な行動を勇気づける

 無限にも思えるスパイラルにはまっている人たちを支援することなどできるのでしょうか。実は、

アドラー心理学における他者支援は、とてもシンプル

です。先ほども述べたように、不適切な行動をする人は、適切な行動をする意欲に欠けています。だから、その意欲を回復したり育てたりして、適切な行動をするように促します。適切な行動をすれば、周りから好かれたり信頼されたりし始めます。つまり、周囲とつながりがもてるようになります。周囲とつながると、人はさらに周囲に貢献しようとします。すると、さらに周囲とつながり、適切な行動をする意欲が高まります。

図2

 こうした

適切な行動をする意欲がくじかれた状態から、意欲がもてる状態にする営みを、アドラー心理学では「勇気づけ」

と呼んでいます。ここで問題となるのが勇気です。勇気とは、広辞苑第六版によると「いさましい意気。物に恐れない気概」とありますが、アドラーが言う勇気は、私たちが捉えているものとは少し違うようです。しかし、多くのアドラー心理学の研究家が指摘しているようにアドラー自身が、きちんと説明したり、定義したりしているわけではありません。
 アドラー心理学の研究や普及に努めている岩井俊憲氏は、アドラーの言葉を引用しながら、勇気とは、

「リスクを引き受ける能力」、「困難を克服する努力」、「協力の一部」*

と整理しています。これによれば、アドラーの言う勇気とは、「気持ち」よりも「努力」「協力」といった側面を備えた「能力」だと捉えた方がいいのかもしれません。
 不適切な行動をする子どもたちにとっては、それをやめることはリスクです。先生の「おはよう」に対して「死ね」と言う子は、普通に返せばいいことは知っています。なおかつ、普通に「おはよう」と言えば、他の子と同じように扱われ、「死ね」と言えば、他の子には見せない表情をして、感情を顕わにしてくれることも知っているのです。また、授業中に立ち歩いたり私語をしたりする子は、普通に席についてノートを取っていればいいことは知っています。しかし、そうやっていたら、先生はたまに視線をくれるだけで、立ち歩いたり私語をしたり、時々大声を出したりすれば、先生は40分の1の関心から、1分の1の関心をくれるようになることも知っているのです。
 彼らにとって

不適切な行動をすることは、居場所を確保するための適応行動

です。それをやめることは自らの居場所を失うことになります。つまり、孤独を覚悟しなければなりません。そう思うと彼らの切なさが少し理解できませんか。みなさんが多少窮屈だと思ってもルールを守って生活し、面倒な慣習や人付き合いを続けるのも、それをやめたら居場所を失うことがわかっているからですよね。彼らは、私たちがルールを守り人付き合いを大事にするように、ルールを破り人に迷惑をかけるわけです。自分の力だけで抜け出せなくなったスパイラルから抜け出すには、人の支援を受け入れねばなりません。人の支援を活用するためには、他者と協力関係を築かなくてはならないわけです。その支援をきっかけに、切れかけた人とのつながりを取り戻そうとする能力、それが勇気です。
 では、適切な行動をする勇気がくじかれた子どもたちをどのように勇気づけていけばいいのでしょうか。それはまた次回。

* 岩井俊憲『勇気づけの心理学』金子書房、2002

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『資質・能力を育てる問題解決型学級経営』『最高の学級づくり パーフェクトガイド』『スペシャリスト直伝! 主体性とやる気を引き出す学級づくりの極意』『クラスがまとまる! 協働力を高める活動づくり』『教室がアクティブになる学級システム』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり』『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)

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