勇気づけリーダーの学級経営〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
これからを生きる資質・能力を学級でつけるには?勇気づけリーダーの学級経営
勇気づけリーダーの学級経営(12)
本当に不適切なのは
〜これからを生きる資質・能力を育てる教師の役割〜
上越教育大学教授赤坂 真二
2018/5/15 掲載
  • 勇気づけリーダーの学級経営
  • 学級経営

1 “気になる子”とクラスの荒れ

 全国の学校、学級支援をさせていただく中で、クラスの荒れの問題をお聞きすることがあります。先生方はそうした困難な状況に真剣に向き合っていて、本当に頭が下がる思いです。クラスの荒れの説明を受けるときは大体、発達の支援が必要な子どもたちや気になる子どもたちのことから話が始まります。時にはそうした子どもたちの振る舞いによって、クラスが荒れた、壊れたというような話になります。割とこうした話は、学級の実態は多様であるにもかかわらず、全国どこでも共通したストーリーで、荒れる道筋はほぼ同じで、しかも、その根本となる要因に気になる子どもたちがいます。しかし、

本当に発達に特別な支援の必要な子どもたちや気になる子どもたちが、クラスの荒れの理由なのか

 これについてはしっかり考えておく必要があります。
 関わってきた事例に、これまで述べてきたことを勘案すると、クラスの荒れには下図のような流れが見て取れます。 

図1

(1) 不適切な行動の反復
 まず、子どもたちの不適切な行動の反復が見られます。一度や二度のことならば、教師にとってそれほど気にはならないわけです。しかし、それが繰り返されると、「また?」と呆れたり、いらいらしてくるわけです。そうして、子どもたちのそうした行動は「気になる行動」となり、その子は「気になる子」として教師に認識されます。職員室では、お茶飲み話の話題に上り始めているかもしれません。

(2) 不適切な行動に対する注意・叱責・放置
 不適切な行動に対しては、当然、教師はなんとかしようとしますから、そこに声をかけるとか注意するとか、なんらかの抑止の働きかけがなされます。「○○さん、○○さん!」と名前を呼ぶとか、「お、どうした?」といった「その行動に先生は気付いていますよ」というお知らせの形で行われる場合もあるでしょう。時には、叱るというか怒るという教師もいることでしょう。それでその行動が止んでくれたら、問題にはなっていかないことでしょう。その時点で、その子は気になる子の座から降りることになります。
 また、少し勉強した教師は、「ああいう行動には注目しない方がいい」と知っているので、放置する場合もあります。また、本来的に持っているセンスというか勘で、放置する教師もいます。しかし、これまで述べてきたように、気になる行動にはメッセージ(目的)がありますので、それが達成されない限り、放置するだけではその行動が軽減したり、消去される可能性は少ないと言えます。
 この段階では、クラスの荒れとはまだ呼べない状況です。どこにでもよくあるクラスの状態と言えます。

(3) 教師とその子との関係の悪化
 注意され続けて、そして叱られて、また、放置されていて、その子が教師を好きになることはありません。みなさんは、自分の顔を見る度にお小言を言う人を好きになれますか。また、見てほしいのに自分をスルーする人を好きになれますか。それでも、好きという場合は対象に対して強い憧れなどの特別な思いをもつなどの特殊な場合でしょう。したがって、注意や叱責や放置をしていると、どんどんその子との関係が悪くなります。そうなるとその子に指導が入らなくなります。話を聞いていないな、指導が届いていないなということに教師も気付くので、気になる子レベルがワンランクアップします。

(4) その子と他の子の関係の悪化
 教師とその子の関係が悪化しても、その子が一定のクラスの子とつながっていることはあり得ることです。特に、学年1クラスで、保育園や幼稚園からずっと一緒のような子どもたちの集団にはよくあります。そうした場合は、クラスの雰囲気は良好とは言えませんが、クラスが荒れるというところまではいきません。(3)の段階では、まだ、教師とその子の個人的人間関係の問題に留まっているからです。しかし、この段階になるとクラスのあちこちでこれまで起こっていなかったような小さなトラブルが増えます。教師が特定の子を注意、叱責するようになると、当然、クラスの雰囲気は悪化し、他の子どもたちへの教師の関心の配分が減ります。すると子どもたちは不満をもちます。しかし、その不満はまだ、いきなり教師には向きません。まずは、その子に向きます。「あいつがいるから先生が怒る」「私たちも怒られる」という感覚です。やがて、「あいつがいなければ」という思いが芽生えてきます。その子に対する忌避や侵害行為が起こってきます。

(5) 他の子の居場所の喪失/教師の指導力の解体
 気になる子への対応だけでなく、教室のトラブルの頻発によって、教師の他の子への関心の配分がますます減ります。また、小さな衝突、けんかなどによって子ども同士の関係も悪化していきますので、その子だけでなく今まで教室に居場所を得ていた子どもたちも居心地の悪さを感じるようになります。そうすると、こうした構造に気付いた子どもたちのなかから、不満を教師に向ける子どもたちが現れます。大抵そうした子どもたちは教室で影響力のある子だったりするので、教師への不満は急速に伝搬します。こうして教師は教室において指導力を失っていきます。(4)の段階で、保護者からはクレームがきていることでしょうし、心ない同僚から批判もされていることでしょうから、教師は相当に弱っているはずです。教室の内外からの圧力によって、その指導力は解体の方向に向かっていきます。

(6) 学級秩序の崩壊
 集団はルールで成り立っています。ルールとは教室における共通の認識や行動様式を表現したものです。ですから、ルールが損なわれるとメンバーがバラバラなことをし始めます。建設的にバラバラなことをするならば何ら問題がないわけですが、バラバラな行動はそのほとんどが、集団を破壊的方向に向かわせます。ルールは集団を維持する結束バンドのようなものです。そのルールを権威づけているのは教師の指導力ですから、その指導力が解体すると、結束バンドが切れた状態となって、学級は崩壊します。つまり、ルールの崩壊が学級の崩壊なのです。

2 “気になる子”はクラスの荒れの理由なのか

 このようにして捉えると、“気になる子”をクラスの荒れの理由として捉えていることが誤りであることがわかります。「百歩譲って」“気になる子”の不適切な行動は、クラスの荒れの一隅に位置しているとしましょう。しかし、立ち歩きや私語や奇声を上げることなどは、その段階では、大勢の子どもとはちょっと異なる行動パターンの一つにすぎないと思います。それを、“気になる行動”や問題行動として意味づけ、そのように育てているのは他ならぬ教師の認識と行動です。

不適切なのは子どもたちの行動というよりも、そうした行動に出会ったときの、教師の行動やマネジメント

の方だと言えないでしょうか。
 クラスが荒れるといっても、図に示したように三段階くらいあると考えています。レベル1は、まだ教師とその子の個人的な問題です。教師の個人的な努力で解決する可能性は十分にあります。しかし、レベル2になると、教師と複数の子どもたちとの関係や子ども同士の関係の問題になるので、同時多発的にいろいろなことが起こってきます。そうなると教師個人の対応能力を超えてしまうことがあります。早めに他者に支援を要請した方がいいです。そして、レベル3では、クラスの実態以上に、教師の対応能力が落ちていく段階なので、学校などの組織的対応で教師を支える必要があります。全国には、レベル2、レベル3になっているにもかかわらず、「孤軍奮闘させられている」教師もいて気になっています。
 クラスの荒れは、子どもの不適切な行動によって起こっているのではなく、教室における人間関係の悪化によって深刻化していくのです。

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『アドラー心理学で変わる学級経営 勇気づけのクラスづくり』『資質・能力を育てる問題解決型学級経営』『最高の学級づくり パーフェクトガイド』『スペシャリスト直伝! 主体性とやる気を引き出す学級づくりの極意』『クラスがまとまる! 協働力を高める活動づくり』『教室がアクティブになる学級システム』『アクティブ・ラーニングで学び合う授業づくり』『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『やる気を引き出す全員参加の授業づくり 協働を生む教師のリーダーシップ 』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:及川)

コメントの受付は終了しました。