赤坂真二の「自治でつくる学級づくり」
学級づくり成功のカギは、子どもたちの自治にあり!
赤坂真二の「自治でつくる学級づくり」(5)
集団づくりのゴールイメージ
上越教育大学教授赤坂 真二
2015/10/15 掲載
  • 自治でつくる学級づくり
  • 学級経営

物事の始まりに大切なこと

 物事を始めるときに大切なことは何でしょうか。ゴールイメージと言いたいところですが、違います。
 この問題を少し突飛なところから述べたいと思います。仮面ライダーというあまりにも有名な特撮番組があります。そこには、これもまたあまりにも有名な相手役が出てきます。ショッカーです。ライダーもショッカーも、自分たちの行動のゴールイメージを持っています。ライダーの目的は、世界平和であり、ショッカーの目的は世界征服です。どちらもゴールイメージは明確です。
 では、どちらも正しいかというとそんなわけはありませんよね。なぜ、ライダーの行動が評価されるかというと、ライダーの行動が多くの人々の幸福につながるからです。つまり、社会貢献だからです。世界の人々を幸せにするという考え方が支持されているわけです。人がある願いを実現しようとするときに、まずもって大事なのはゴールイメージの正しさであり、そのゴールイメージがどのような考え方に支えられているかということなのです。
 どんなにゴールイメージを順調に実現したとしても、それが誤っていたとしたら、誤った目的地に速やかに到着しただけです。自治的集団づくりとは、ゴールイメージを支える考え方なのです。前号で、「学級を自治的集団に育てるプロセスには、問題解決能力、リーダーシップ、そして他者との協働など、21世紀を生きる子どもたちに必要な力をつける機会がふんだんに設定されている」と述べました。自治的集団づくりは、これからの子どもたちの幸せを見据えた、学校の在り方への提言です。
挿絵1 みなさんの学級のゴールイメージはどんな姿でしょうか?3月にお別れするときにどんな姿になっていますか。子どもたちひとり一人は、どんな顔をしていますか。クラスで一番しんどかった子は、どんな顔をしていますか。幸せそうな顔をしていますか。

自治的集団のゴールイメージ

 では、自治的集団とはどんな集団なのでしょうか。 
 私たちの生活は、問題と課題の連続です。問題とは、状況であり(ケンカがある)、課題とはその状況を解決するべき具体的目標(ケンカをなくすにはどうしたらいいか)です。そして、人は、大抵の場合、集団生活をしています。私たちが直面する課題は、そのほとんどが人間関係に起因しています。
 その人間関係は、「仕事」「仲間」「家族」との関係に分類されます。仲間や家族における課題は、人間関係に起因するということはわかりやすいですが、仕事も多くの場合、人間関係と無縁ではいられません。仕事も人間関係の中で営まれるからです。子どもたちにおける仕事の課題となると、「勉強」に関するものが挙げられるでしょう。
 では、勉強にかかわることは人間関係なのでしょうか。勉強ができる、できないということは、一見、個人的な課題のように思われます。しかし、よく考えてみましょう。なぜ、勉強ができないことが問題なのか?できないことによって、それらが事実かどうかは別として、人と比べて劣るような感覚をもったり、勉強ができないことで自分の進路が狭まるような感覚をもったりすることがあります。そして、進路の問題は、友人や家族との問題とかかわってきます。社会生活を営む私たちの課題は、どこかで人間関係とつながっています。
 そして、もっと重要なのは、その課題は、子どもたちが主体的に動かないと解決しないということであり、他者が肩代わりすることはできないのです。しかも、人間関係とかかわっている課題ですから、他者と信頼関係を築きながら解決することが真の解決への近道です。人から負った傷は、人から得た喜びでないと癒やされません。人の中で生まれた課題は、人の中で解決するのです。
 そうしたことをふまえて、自治的集団とは、次のような集団であるとイメージします。

  1. 自分たちの生活の問題に気づき
  2. 課題を設定し
  3. 解決のために民主的な意思決定をし
  4. 行動し
  5. 評価と改善をしながら解決をする
  6. 1〜6のプロセスで教師の適切なサポートを受けながら成長する集団

 自治などと言っておきながら、教師に頼るのか、と違和感をお持ちの方もいるかもしれませんね。しかし、子どもたちは、自治や民主的な意思決定に対してあまりにも準備不足の実態があります。そのために教師の適切なサポートは必要です。だから、自治を目指す自治的集団を育成する営みを、今日的な集団づくりのゴールイメージとして捉えたいのです。

赤坂 真二あかさか しんじ

1965年新潟県生まれ。上越教育大学教職大学院教授。学校心理士。「現場の教師を勇気づけたい」と願い、研究会の助言や講演を実施して全国行脚。19年間の小学校勤務では、アドラー心理学的アプローチの学級経営に取り組み、子どものやる気と自信を高める学級づくりについて実証的な研究を進めてきた。2008年4月から、より多くの子どもたちがやる気と元気を持てるようにと、情熱と意欲あふれる教員を育てるために現職に就任する。
主な著書に、『スペシャリスト直伝!成功する自治的集団を育てる学級づくりの極意』『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得』『気になる子を伸ばす指導 成功する教師の考え方とワザ』『思春期の子どもとつながる学級集団づくり』『いじめに強いクラスづくり 予防と治療マニュアル』『スペシャリスト直伝!学級を最高のチームにする極意』『一人残らず笑顔にする学級開き 小学校〜中学校の完全シナリオ』『最高のチームを育てる学級目標 作成マニュアル&活用アイデア』『クラス会議入門』(以上、明治図書)などがある。

(構成:松川)
関連書籍
2016.3.2 update

 次年度の集団づくり戦略計画の作成はお進みですか。
 心強い味方として「学級を最高のチームにする極意シリーズ」があります。私が基本的な考え方を示した理論編と、全国の気鋭の実践が実践編を書きました。実践家の皆さんには、その実践を支える考え方と失敗しそうなポイントとそのリカバリー法も示していただきました。従って、「その人だからできる」という域を超えて広く汎用性があることでしょう。
 本シリーズのラインナップは、集団のセオリーに則って構成されています。皆さんのニーズのどこかにヒットすることでしょう。

 学級集団は、どんなに良好な状態であろうともその殆どが4月後半から6月にかけて最初の危機を迎えます。
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【個人的信頼関係の構築】『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ 小学校編』『信頼感で子どもとつながる学級づくり 協働を引き出す教師のリーダーシップ 中学校編』

 学級はルールから崩れます。また、子どもたちのやる気に満ちた集団は、教師のパフォーマンスでも声の大きさでもなく、ルールの定着度によります。良い学級には、良いルールがあります。そのルールの具体と指導法がギッシリです。

【集団のルールづくり】『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得 小学校編』『集団をつくるルールと指導 失敗しない定着のための心得 中学校編』

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