
- いつものクラスでSST
- 特別支援教育
前回はクラスの人的環境について取り上げました。実は、こうした人的環境は、いつものクラスの、いろいろな教科でのSSTで育てることができます。今回は「いつものクラスで」「いろんな教科で」できるSSTについて考えてみましょう。
阿部先生、早いもので新学期を迎えました。
この間一年の反省をしていたのですよ。その中に特別支援教育に関する反省がありました。
ぜひ、お聞かせ下さい。
SST指導に関してのことだったのですが、「SSTはその場だけでは定着しにくいので、特別支援教育の担当がSSTを受けている児童の交流学級に入りこむなどして、指導する必要がある」というものでした。
プルアウト(取り出し)指導でなく、プッシュイン指導ですね。
現実的な問題として、他の児童がいる中で、特別支援学級担当の先生がその子のSSTの指導のために学級に入りこむことは、難しいですよね。それにSSTが必要な場面って、いつ起こるかわからない。
確かにこれは難しいですね。指導のポイントが明確になりにくい。
そうなんです。で、そのお話を聞きながら、やっぱり「いつものクラスでSST」をするのが、現実的で効果的だと、思えたんですね。
この連載のテーマですものね。
私の同僚に学級経営が上手だなと思う方がたくさんおられるのですが、そういうクラスは体育が違います。それに、休み時間、外遊びに出ている子が多い。先生も一緒に外に出ておられます。
筑波大付属小の桂聖先生も、休み時間の遊び、特に外遊びに先生が加わることの大切さをよくおっしゃっていますよ。
そうですよね。たとえば、子どもがシュートを決めたときにはハイタッチして「今のナイス!」とほめる、外したときは「今の惜しい!」と元気づける、そんな先生の「ふわっと言葉」を普段から聞いているクラスでは、子ども同士の関わりも変わってくると思います。
「教師がモデル」ですね。体育ではどういう風にSSTを取り入れているのでしょうか?
体育では準備体操をしますが、その先生はこの時に「ペア活動」や「グループ活動」で「アイスブレイク」させるそうです。
アイスブレイク
アイスブレイクとは、その場にいる人(子ども)たちの緊張をほぐし、和ませ、話し合うきっかけをつくるためのミニゲームやクイズなどのことです。
これによってコミュニケーションしやすくなり、その後の活動がスムーズになります。
体育は「できる群」と「すごく苦手な群」の二極化が色濃く出る教科です。「すごく苦手な群」は体が(表情や心も)固くなっています。だから、この時に、友だち同士の活動を組む。それは、活動に夢中になるための『こころのウォーミングアップ』なんだそうです。
体育は本当に「できる・できない」がはっきりしますからね。まず心をほぐすんですね。その後は?
たとえばこんな活動があります。
そーれ、拍手で集まれ
教師(リーダー)が、「そーれ!」と言ったら、一斉に一回拍手をする。そして数字をコールします。子どもはその数字になるように集まります。コールするのはゼッケンの色、靴下の色、計算などでもいいです。最終的に目的とするグルーピングにつなげていきます。
タッチゲーム
向かい合って握手します。つないでいない片方の手で相手の指定されたところにタッチします(もも、ひざ、くつ、ふくらはぎなど)。相手にタッチされないように逃げながら、相手にタッチします。
この時に大切なのはルールの徹底で、特例を認めないことが大切です。また「しらっとしている子」がいるじゃないですか。その子に対しては、じっと見ているけれど「やらない」ことに焦点をあてずに、例えば他の子どもを使って誘うとか、他の人を観察させるオブザーバー的な役割をさせるとかして、働きかけつつ、やりたくなるのを待つのだそうです。
子どもは「入りたい」という心理にはなっているから、そこで「やらなきゃダメでしょう」というような声かけでは逆効果になってしまうんですね。働きかけつつ「待つ」って、子どもとの関わりで重要ですよね。
また、運動場の総合遊具を使って、サーキット運動で準備体操をすることもありますが、ここで「ペア」を使います。一人がするのをもう一人が見ていて「今とぶよ!」といったタイミングの声かけや、「もうちょっと!がんばれ!」という応援をするんですね。そうすると「すごく苦手な群」も、ポイントを意識することができるし、がんばることもできる。また二人組の準備体操だと「馬飛び」とか、「またくぐり」といった、相手に少しふれる運動も、自然に取り入れることができます。こういう運動の中で、距離感とか感覚の苦手さにもアプローチできると思うのですね。
ボディーイメージの課題って大きいですよ。パーソナルスペースもね。
それと体育では「勝ち負けのこだわりが強すぎる子」がいます。また、「運動が出来る群」は「できない群」が動けなくてうまくゲームが進まないことにイライラしてしまい、せっかくの「仲間」「団結」といった体育でわかる価値を体感することができなくなってしまいます。
そこで、「団結することが勝利につながる」というゲームを取り入れるとよいと思います。
並んで 座って
- 直線をひきます。直線の10m、15m、30mの所に色の違う旗(コーン)をおきます。
- Tバッティングの道具を用意します。攻撃側はバットで止まっているボールをうちます。
- 攻撃側は打ったら走ります。10mだと1点、15mだと2点、30mだと4点もらえます。
- 守備側は、相手が打ったらボールを誰かが取りますが、取ったら、取った人を先頭に、守備側全員が一列に並んで座ります。
- 守備側が全員座る前に 旗を通過すれば点が入ります。守備側の整列ぶりを見ながら、攻撃側はどこまで走るか考えて走ることになります。
ボール運動では一部のできる子が活躍してしまいがちで、それ以外の子どもは「立っているだけ」になりがちです。1時間の中で十分な運動量を確保できない。でもこのゲームは「団結」と「運動量」も確保でき、ルールもシンプルなので、野球のように「戻るか?走るか?」という判断も無い。誰でも「今走れ!」「もうストップしとこう!」という応援ができます。
そういった姿を「自分のことだけじゃなく、人のことをよく見て判断の声かけをしてあげていた人が多かったよ。そこがあなたたちのいいところだね」と、教師が授業の最後に評価することで、クラスの中の「援助する」「援助される」土壌も育つと思うのです。
いい取り組みですね。
それでは他の科目、たとえば国語ではどうでしょうか? 登場人物の気持ちを理解する、気持ちの変化を読み取るといったことは、相手の気持ちを読み取りにくい児童にとっては大変難しいですが。
この間も同僚と話をしていて「人物の気持ちを理解する」って難しいなあって思いました。『わらぐつの中の神様』(光村図書5年、杉みき子作)という作品があるのですが、市場でおみつさんが編んだわらぐつを、いつもいつも買ってくれる大工さんがいるのです。
当然「大工さんは、おみつさんが好きだから」や、「おみつさんが編んだわらぐつが素晴らしいから」わらぐつを買うのだ、と理解してほしい場面ですが…。ある子は「市場に行ったら、いつもと同じところにわらぐつがあるから、買うしかないでしょう」と言いました。
そういう理解をする子どもには、人物の気持ち理解は難しい面がありますね。
先ほどの桂聖先生はまさに国語の授業を全員にわかりやすく楽しいものにするための提案をたくさんされていますね。そういえば明治図書から桂先生と私でSSTの本を出したところなので、よかったら参考にして下さい。
それは是非読ませていただきます! 桂先生は、低学年では「中心人物の気持ちが変わる」ことを教え、中学年では「はじめ→きっかけ→終わり」を考えながら「中心人物の変化を捉える」ことを教える、とおっしゃっています(桂:2011)そして、中心人物の変化は図解してとらえることができるとおっしゃっています。
そうそう、登場人物の気持ちの変化をグラフで示すというような方法を実践されていますね。
一目でわかるすばらしい図なのですが、気持ちの変化がわかりにくい子どものために、私はアイコンをプラスして気持ちの理解を助けています。
見える化をさらにわかりやすくしてくださったんですね。アイコンをどのようにプラスするのでしょうか?
はじめの気持ちをまず大きく(嬉しい)と
(悲しい)で示します。そして「物語には変化がある」のですから、はじめが
なら、おわりは
になるはずです。
そして、子どもが知っている物語の構成を整理します。
するとから
から
という風に分類できますね。
気持ちがわかりにくい子どもでもシンボルは理解しやすいですし、論理的に、はじめに「うれしい」がきているから最後は「悲しい」がくるはず、ということを教えることで、気持ちが分かりにくい子も見通しがもて、理解の助けになると思います。
物語文を味わうということが難しい、自閉スペクトラム症のあるお子さんには、論理が「見える化」されていて「つかみやすい」ですね。国語では他にもいろいろ実践できそうですね。
では次に、算数の場面ではどうでしょう。SST的工夫はできますか?
算数で1年生に「0」の指導をした実践を紹介しますね。もう計算は習っているけれど、0のついた計算がわからない子がいました。そこで、玉入れに使う赤白球をカゴに入れるゲームをさせました。カゴに入ったら3点。近かったら1点、入らなかったら0点です。玉は一人1回ずつ合計2回投げられる設定にします。3+0とか、0+0とか、合計得点で、クラスのチャンピオンを決めます。その子は実際に先生のやる様子を見て、それから友だちのやる様子を見て、そして自分も玉入れをやってみました。
実際にやってみて、その子たちの反応はいかがでしたか?
実際にやってみることで「0というのは、入らないこと」「0というのは得点にカウントしないこと」とわかり、それが後の計算練習でも生かされていました。それに、計算がわからなかった子が、笑顔で計算していました。
「わかるはず」と思って、頭だけで考えさせたり、口頭だけで指導をしたりする場面は多いです。けれど、「やってみて、いってみさせて、させてみて」そして「ほめる」ことで、子どもの理解や嬉しさがひきだせるのだと思います。
授業というのは本当にSSTのチャンスがいっぱいありそうですね。今回は体育、国語、算数でしたが、他の教科でもどんな工夫があるのか、またいろいろ探求していきたいですね。とはいえ、残念ながら次回がいよいよ最終回になります。尾ア先生、次回もよろしくお願いします。
【参考文献】
桂聖『国語授業のユニバーサルデザイン―全員が楽しく「わかる・できる」国語授業づくり』(東洋館出版)2011
阿部利彦・桂聖他著『教科で育てるソーシャルスキル40―本物の力は良い授業で育つ!』(明治図書)2015
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読めた!書けた!1年生の<教科書の漢字>学び支援!
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「わくわく」「うきうき」が「できた!」につながるプリント集
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どの子もできた!につながる教材のユニバーサルデザイン!