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いつものクラスでSST 第10回
わざと刺激する子、問題行動を真似する子、影でコントロールする子
星槎大学准教授阿部 利彦ほか
2015/3/20 掲載
  • いつものクラスでSST
  • 特別支援教育

子どもの失敗を笑ったり、責めたり、その行動を急かしたりする雰囲気。空気。この空気が学級に満ちてくれば、「教室は間違うところだ」が許されず、自由に発言できる場でなくなります。授業の前の土台作りができないからです。
今日は、前回の学校カーストに続き、クラスを形作っているクラスの人的環境(人的UD)について目をむけて みなさんで考えてみませんか。

前回は学校カーストについて一緒に検討しましたね。実は私も学級内の子どもたちの構造について、 私なりの考えがありましてね。

構造ってどういうことでしょう。上下関係とか。依存関係とか。
そういうことでしょうか。

発達が気になる子への先生方の丁寧な支援に対して「ずるい」「ひいき」という声を出す子っていますよね。さらには要支援の子をからかったり、ひやかしたり、怒らせたり、という周囲の子はどんなタイプなのか、あるいはどんなクラス内の関係なのか、ということを検討しようかな、と思います。

なるほど。発達が気になる子をとりまく、周りの子がその子にどのように関わっていくか、ということですね。周りの子がどう関わるかで、全く学級の空気がかわってきますものね。

私は周りの子に、いくつか気になるタイプがあると思うのです。
たとえば@わざと刺激する子、A問題行動を真似する子、B影でコントロールする子です。

ああ、これって、発達障害のある子に対して…だけでなく、子ども同士の関わりでよく見られます。

まず、わざと刺激する児童・生徒です。興奮しやすい子をからかって、怒らせたり、「チョーうけるー」などとはやし立てながら、うまく問題行動をとらせたりする子どもたちです。

わざと嫌なこといって気をひいたり、ちょっとタッチして、さっと逃げて追いかけてくるようにしむけたりとか。

そうそう、彼らは発達が気になる子が一番気にしているキーワードや言葉をよく知っています。それだけ気になる子への関心が強いということが言えるでしょう。

すぐに反応があるのが「楽しい」のでしょうね。その子の反応を自分の刺激にして楽しんでいる。関わり方が幼いです。

いつもそばにいることが多いので、「仲が良い」と勘違いされやすく、「あの子たちは仲間ですから」などと先生が誤解することもあります。

わかります。ペアにする時も、結局そのペアにしてしまうっていうこともあると思います。

尾崎先生がクラスでこのようなタイプの子を見かけたら、どのように対応されていますか?

難しいですよね。
まずは、席の配置は考えます。配慮のいるAさんと常に関わりがもてないようにすると思います。それと阿部先生が「それだけ気になる子への関心が強い」ということを、教えてくださいました。それなら、それを逆にポジティブに使えるとよいなと思うのです。

えっ、このタイプの子もリフレーミングできるとは思いませんでした。

例えば、行事の時とかに刺激する子Sさんともう一人のBさんに教師側から話をするといいと思うのです。
「Sさん、Bさん いつもと集合時間がちがうから、Aさんに『○分に一緒に行くよ』と伝えて、そして一緒に来てくれるかな?」とお願いしておくのです。あなた達は上手に話ができるから…って言ってお願いしておくのです。

具体的にお手伝いをお願いするんですね?

ええ、それでおそらく時間に間に合うように来ることができるでしょう。その時にまずそっとSさんとBさんに感謝を伝えておく。そしてクラスのみんなにも伝えたいですね。

どのように伝えればいいのでしょうか?

「SさんとBさんは、Aさんと一緒に時間を守っていました。自分の事だけでなく、友達の事を気にして、友達を誘えるというのが、いいなあと思いませんか?」と。いい行動をいれないと、つい自分のパターンにはまってしまうと思うのです。だから、少しずつ望ましいかかわりに代えさせたらと思います。

あの子たちってとにかく人の失敗をするどくキャッチし、よく見つけるな、と大人も驚くほどです。もちろん、先生が板書で字の書き順を間違えたり、言葉を噛んだりすると、速攻で「先生間違ってます!」と勝ち誇ったように責めてきたりしませんか?

あります。あります。私はすごく噛むので…。一緒に笑っていますけどね。字に関しては「先生、その字、教科書には違う字で書いてあります。」って、子どもが教えてくれるので、すぐに私は「教えてくれてありがとう。教えてくれて助かるわ。」っていいます。 大人だって間違えたとき、ごめんねって言うんだなあって、わかってほしいですものね。だから意識的に「ごめん」や、「ありがとう」は、使うようにしています。でも漢字は間違えたくないですけど…。

「ごめん」や「ありがとう」のモデルを示すということですね。

でも、阿部先生がおっしゃったように、子どもによっては勝ち誇るというか、きつく言ってくる子がいますよね。そういう時には意識的に、「しずかちゃん」(ドラえもんのキャラクター)で返すようにしています。
イラスト

しずかちゃんで返す?

「先生!その漢字まちがっています!!」
「教えてくれてありがとう。教えてくれて助かるわ。でも、その言い方はちょっと傷つくなあ。先生、その漢字、まちがっています。という言い方で教えてくれたら、嬉しいな。でも、教えてくれてありがとうね。漢字のまちがいは気をつけるね。」
という言い方になるかと思います。相手をうけとめつつ、でも自分の気持ちや考えもいう。相手も生かし、自分も我慢しない、WIN:WINな言い方ですね。

これは自己主張のお手本ですね。

こういう時、とっさに「ジャイアン型」になりがちなんです。「言い方わるいでしょ!」とか。それだと、子どもと対立してします。
それか「のび太型」にもなります。泣きはしないけれど、どうしていいかわからず、結局黙ってしまうとか。そうなると子どもの側からしたら、「先生に無視された。」か「先生に勝った!」と受け取られ、どちらにしても、間違ったメッセージを伝えてしまうことになります。だから、しずかちゃんでいうとうまくいくんじゃないかと思います。

次のタイプは問題行動を真似する児童・生徒です。気になる子がクラスで離席してしまう、先生の教材を勝手にいじってしまう、机の上に立ってしまう、などの行動を繰り返していると、「楽しそうだな」「私もやりたいな」という気持ちが湧いてくることは予想できることと思います。でも、実際に行動に移す子はそう多くはないでしょう。問題行動を真似する子どもたちは、そういう気持ちが抑えられなくなった子どもたちです。

雪が降ってきた時に、3番目くらいに窓に行く子ですね。
言いだしっぺにはなりにくいけど、誰かが「いやだ〜」というと真似して、言ってしまう。

そうそう、そういう子。特に低学年の場合一人が真似をしはじめると「ぼくも」「私も」と、その行動が広がっていくスピードは大変速いものです。彼らは、自主的に問題行動を起こすことは少ないのですが、誰かがはじめた行動に追従する、あるいは自分の問題行動を許された経験が重なる、といった流れで「真似する子」になっていくのです。

どう行動したらOKかをわかっていないのでしょうね。

彼らには幼児性が強く、「我慢して取り組む」「集中して最後までやりきる」という耐性が育っていない、生活の中で生活のスキルや学習のスキルを十分獲得できていないため、誰かが楽しそうにしているとすぐにつられて行動をしてしまうのです。

私はできれば子どもの良い行動をキャッチして、それをクラスに広げたいと思っています。クラスで取り立てて準備するSSTも大切ですが、偶然的な日常の中にも、たくさんの教えたいことがあると思うのです。

これも日常的なSSTですね。

例えば「座ろう」とDさんが学級に呼びかけたとしたら、その時に「今、Dさんの話を聞いて座った人?」と挙手させて、その挙手した人を褒めたいです。
「座ろう、と言えたDさんはとっても素晴らしい。けれどそれと同じようにDさんの話を聞いて『そうだな』と思って、さっと協力できたEさんや、Fさんが素晴らしい。リーダーは一人ではリーダーになれない。リーダーをフォローするフォロワーがいないと学級はうまくいかないね。それにリーダーに協力する事を知っている子は、次のリーダーになれるんだよ。」と、1年のどこかで話すようにしています。

よい行いのフォロワーですか。

だから、よい行いを真似する、フォローすることを学級で褒めていけば、問題行動を真似する「真似さん」は、どう行動するかがわかって、よい方をまねしていくのではないか?と思います。

気になる模倣行動からよい行動へのリフレーミングですね。

でもそれと同時に「真似さん」に「だめなものはだめ」という叱られる経験もきちっとさせないといけないでしょう。「〜さんもしていたやん。」「おれだけちゃうし。」っていうことでなく、「あなたも悪い」ことに気づかせたいですね。

一番指導しにくいタイプは、影でコントロールする児童・生徒です。先生がいないところで気になる子をからかい、いじめ、怒らせます。そしてその子がパニックになると、その場からすーっと離れて行き、先生が来る頃にはパニックになっている子だけが残る、という巧妙な動きをする子です。

気づきにくいですよね。何か子どもが屈折していますね。

さらに厄介なのは、気になる子をよく援助している子どもたちです。つまり、お世話をしているようで、実は「影」でいじめる子を見つけるのはなかなか難しいのです。

リーダー的な役割の子が多いということですね。

お世話をしていた子が変貌するのは、ちょうど4年生あたりだと思うんです。それまでは純粋に援助していた子どもたちが、ふと「なんだか損している」「今までさんざん我慢してきた」と気づき、裏表のある行動をとるようになります。

みんなの前で怒ったりするとNGでしょうね。もしかしたら「影さん」はリーダー的な役割で、期待されすぎてしんどさを抱えているかもしれないから、イライラする時のSSTなども学級全体で取り組みたいですよね。それに、知的な話をするのも、「影さん」には届くと思います。

知的な話、効果があるって、すごく分かります。彼らは、難しい話とかがわかる子として見られたい、大人に見られたい傾向はありますからね。「影さん」はプライドが高い子が多いですよ。

モアイ像ってあるじゃないですか。

えっ、モアイ像ですか?

その貴重なモアイ像に落書きをする人がいるそうです。逆に倒れたモアイ像を戻すために、会社ぐるみでクレーンを貸し出し、費用も出し倒れたモアイ像を復元した会社があるそうです。どちらも日本人なのだそうです。

それは知りませんでした。

影でこそこそする人と、表で堂々と助ける人では、どちらが価値があるかはわかりきったことですが、自分の事に気づかせるために、道徳などで「影さん」と関係ないようにしながらも、語っていくことで気づかせていきたいですね。

もちろん、彼らの共通点で忘れてはならないのは、とてもパワーのある子どもたちであり、そのパワーを、そのエネルギーを、よい方向へと向けさせてあげる必要があるということですよね。

【参考文献】
阿部利彦編(2014)『通常学級のユニバーサルデザイン・プランZERO』東洋館

阿部 利彦あべ としひこ

星槎大学准教授。
授業のユニバーサルデザイン研究会湘南支部顧問。発達障害のある子の魅力やサポート法についての講演・教員研修で全国各地を飛び回り、その取り組みはマスメディアでもたびたび取り上げられる。「見方を変えればうまくいく!特別支援教育リフレーミング」(中央法規)など著書多数。特別支援教育士SV。

尾ア 朱おさき あや

通常学級で、特別支援教育を進めたいと考えている宝塚市の教員。クラスで学ぶSSTパッケージ(すみれトランク)の開発と実践がある。関西UDに属している。宝塚市巡回相談員。特別支援教育士。

(構成:佐藤)

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