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いつものクラスでSST 第9回
子どもが格付けしあう「スクールカースト」を壊せ!
星槎大学准教授阿部 利彦ほか
2015/2/20 掲載
  • いつものクラスでSST
  • 特別支援教育

(前回の続き)たとえば相手の気持ちも考慮した助言の仕方、というのはあるのでしょうか?

その、上手な助言って、学級の子どもの生活の中にあると思います。休み時間など、友達とのかかわりに耳を傾けていると、相手をばかにせず、自分もいやな目をしないような言い方をしているケースがあるのですよ。

どのような言い方なんですか?

先日Cちゃんが、「〜してみたらどう?」といういい方をしていて、はっとしました。また、Dちゃんは自分にとって嫌なことをされた時に「そういうの、やめてくれるかな」とさらりと言っていて、驚きました。上手な言い方だなと思います。

相手に配慮したアドバイスの仕方として「私はこういう時、◯◯してみたらうまくいったよ」っていう言い方もいいなあと思います。

そうですね。そういう子どもたちのそんな機会を見つけて、全体の前で「こんないい言い方をしている人がいたよ」と取り上げてほめる。そして「その言い方上手だから、ちょっとまねしてみようか?」とよいモデルをやってみる。それを学級通信にのせるなどして、「いい助言モデル」を広げていくのがいいと思います。学級通信にのせると保護者の方にも、子どものよいところを知っていただけますしね。

なるほど。ところで、支援することで優越感にひたれる子っていると思うのですが、尾ア先生はそういう子に出会ったことがありますか? 

わかる気がします。助けてあげられる自分って、かっこいいですよね。でも私は、本当の支援って、相手の様子を見ながら上手に待って「ここぞ」って時にだけ、手助けすることだと思うのです。
ところが、子どもたちは、教科書を開いてあげたり、鉛筆を出してあげたり、というような「ここぞ」でない支援までフルバージョンでお世話してあげようとしちゃうんですよね。

われわれでもつい子どもに対して援助過多になる時がありますよね。

子どもたちは優しさでやってあげているのですが、本当にその人の立場になってしてあげているか、を考えるのは難しいですよね。ちょっと優越感をもって援助していた子に「さっき、あなたはこんな風に教科書開いてあげてたけど、それは相手の気持ちを考えたやり方だったのかな?」と、さらっと聞いてみることもあります。自分ではなかなか気づきにくいですから。本質が優しい子なので、ちょっと話をするとわかってくれることが多いです。

教室でいろんな手立てをしていても、教室の中に見えない壁がありませんか?
もしかしたらそれは…「スクールカースト」と呼ばれるものかもしれません。クラス替えをしてもなぜか変わることのない、子ども同士がしあう格付け。
今回は、この問題に迫ってみましょう。

ところで、先生、聞いていただきたいことがあるんです。

いきなりですね、尾ア先生。

私は、、SSTって、通常の学級でするのがとても効果があると思うのですよ。

そうですね。これまでそういうことを検討してきましたよね。みんなが同じ事を学ぶので、やがてクラスで共有化されていくんです。そうすると、みんなが安心して学級で過ごすことができます。安心できないと、教科の学習で思った事も言えないようなクラスになってしまいます。

でも、迷っちゃって。

えっ、迷われているんですか?何かありましたか?

SSTがなかなか定着していかない場合って、やっぱりありますよね。

何か、気になることがあったんですね?

こんな光景を見てしまったのですよ。体育でバスケットをしている時でした。バスケットって、当然ゴールに近い人にボールをパスして、その人がシュートすればいいじゃないですか。

そういうスポーツですからね。

あっ、ゴール下のHさん、そこでシュートだ!と思った時、後ろから猛ダッシュできたPさんが「へい、H!」と言ってボールを要求してきて…

なんとなく予想できそうな…

そうなんです。Hさんは、あとシュートするだけなんですよ。ノーマークでいいところにいたものだから、Hさんはパスをもらえたんです。しかもHさんにシュートチャンスなんてそうそう回ってこない。

でもHさん、Pさんにパスしちゃったんですね。

…はあ、そうなんです。しかも、猛ダッシュのPさんはかなりゴールから遠いので、そこからドリブルしてシュート。おかしいですよね。バスケットって集団ゲームのはずなのに。まあ、そりゃ、Pさんはとても体育が得意な子ではあるのですけど…。

Pさんはバスケ得意なんですね。Hさんはそうでもないと。

ええ。でも、なんだかHさんよりPさんが上の立場にいるような気がして…。あっ、もちろんいじめとかではないんです。いじわるもない。話も普通にしている。でもなんだか上下関係があるのです。SSTもしているし、優しいクラスだと思っていただけに、ちょっと…

尾アさん、それは…「スクールカースト」みたいな感じですかね。ちょうど学生が研究テーマにしてましてね。とても難しい問題ですよ。

スクールカースト?カーストって、昔のインドみたいじゃないですか?
教えてください。阿部先生!

キーワード解説:スクールカーストとは?

スクールカーストとは、主に中学・高校のクラス内で発生するヒエラルキー(階層性)のこと。小学校からその芽は見られる。
同学年同士の子どもたちが、集団の中でお互いがお互いを値踏みし、ランクづけしていることが、以前から指摘されており、いじめや不登校の原因にもなるといわれてきた。
(『教室内カースト』:(2012)、鈴木翔・本田由紀より)

「ママカースト」という言葉もあるみたいですよ。上位のグループが教室で力を持っていて、下位のグループは上位のグループを気にして過ごしているようです。
今、ちょうど放送している「学校のカイダン」というドラマでもそういう学校内の序列がテーマになっていますよね。
そういえば、私もよそに巡回に行った時、こんなチクッと言葉を聞いたことがありますよ。
「お前、なんかに、言われたくない。」です。すごく差別的な言葉ですよね。

うわああ…寒い。寒すぎます阿部先生。アラスカなみです。

その学級も、SSTを実施していて、いじわるなクラスでもないんですよ。でも、上位のグループが、まあいわゆる下位のグループに対しては言い方が違うんです。アドバイスの言い方をしながら、北極並みの冷たい言い方をすることがありました。
でも、残念なことに、先生も上位の発言に迎合するときがあるんですよ。「みんなも、ああ言っているし」とかね。上位の決定に従ってしまう。なぜなら、上位グループはたいていカリスマ性があるグループで、クラスの雰囲気を明るくする要素も持っています。先生がその雰囲気を利用しているんですね。

何か決定的なことがあるわけじゃない。でも、クラスの中に越えられない壁がある。そのカーストって先生、どうやったら打ち破れるんでしょう。

尾ア先生、この間、ちょっとだけカーストの壁に穴を開けてたじゃないですか。

えっ?穴あけてました?いつですか?

尾アさんが私に話してくれたじゃないですか。あれは確か、国語で漢字ゲームをしていたときの、指名の話ですよ。

あっ、漢字ビンゴのときですね。話の本筋と離れますが、漢字ビンゴについても、ちょっとだけふれておきますね。

漢字ビンゴとは?

漢字の練習のために行うビンゴです。紙に9マスの枠を書かせ、教師が黒板に書いた漢字10個から9個を選びビンゴ枠の好きなところに書き込ませます(つまり1つの漢字は書かないことになります)。ビンゴが始まるまで、紙の空いているスペースにたくさん練習をさせておきます。それで、漢字を一つずつ言っていき、3つのマスがうまるとビンゴとなり、シールをもらえます。漢字練習でありながらゲーム要素があるので、子どもたちには人気です。

漢字ビンゴで私は、子供同士で指名をさせています。だって、真剣勝負の時ですからみんな当てられて、自分のビンゴになる漢字を言いたいんですよ。
その時の一番目は、私vs.クラス全員でじゃんけんをして、勝ち残ったRさんでした。Rさんが2番目の人を指名しようとした時…

みんなが黙って手を挙げている中、「R!」とRさんに声をかけた子がいたんでしょう?
(図)

ええ。Gさんです。それでRさんはGさんを指名したのですが、私はこれはダメだと思ったんです。みんなルールを守って黙って挙手していたのですから。それで私はRさんに「今のはどうかな?もう一度当てなおしたら?」と言ったのです。でも、RさんとGさんの間が気まずくなってはいけないので、
「Gさんも漢字を言ったらいいけど、他の人を当てていいよね。」とGさんとクラスに向かって言ったのです。

みんなの前でそんなやりとりをしたら、Gさん、むっとしたでしょうね。この年頃の子は、他者の目に敏感ですからね。

ええ。「なんであかんの!」みたいな反応をしてきました。でも「あかんのはあかんよね」とやりとりを重ねたんです。

ええ。そうでしたね。

するとGさんがふいに「もうええわ!(漢字を言わなくても)」と言ってきたので、「何で?」と私が聞いたんです。すると「ずるいから、いい」って、ぽそっと言いました。本当にうれしかった。自分で気がついたんだなって。
それに、それをみんなの前で言うって、かっこいいじゃないですか。だから
「そういうの言えるって、すごいな」って言ったんですよ。

でも、それはGさんには余分だった。「別にほめられたくないし」って言われちゃったんですよね。思春期にさしかかった子は周りの目をものすごく気にしますから。
他の特別な配慮についても言えることですが、みんなの前でほめすぎると、真意が届かなかったり、気恥ずかしくて素直になれず反対に反抗的な態度を取ってしまったりする場合もあるので、たとえばノートなどのやり取りでさらっと書いてほめるなどするとよかったかもしれませんね。

おっしゃる通りです。みんなにもわかってほしいな、なんて思ってしまって、つい皆の前でほめてしまいました。理想論で考えすぎてしまいました。

でも、Gさん、えらかったですね。
今回は、みんなの前で「ルールに従わないイケテル階層の子に従うことは、おかしい」と結果的にみんなで気づけたわけです。それも、その子本人が「ずるい」という意味づけをしたから、よりよかった。だから、小さな壁を崩したことになると思うんですよ。

そういうことなんですね。その瞬間があってよかったです。

担任の先生が、そういう子どもの関係に気づけないこともありますし、気づいたとしても具体的にどうすればいいかは悩むところです。また、変化の瞬間をとらえることはもっと難しいですよね。

この件があってから、子どもが子どもを見る見方を変える必要性を感じたんです。それと、一人が活躍するのでなく、みんなでやってみんなで楽しい活動を増やしたいなと思いました。
ですから、バスケットでも、「ゴール下の子にパスして、その子がゴールし、周りがリバウンドを取る」という練習を組み込みました。すると、クラスが変わってきたんです。

空気がそのクラスを支配している。その、空気を打ち破るというのは「このままではいけない」「何かを変えよう」という子どもたち自身の思いをどう引き出すか、にかかっている気がします。

【参考文献】
鈴木翔、本田由紀(2012):教(スク)室内(ール)カースト、光文社新書
読売新聞:2013.3.31、著者来店、『教室内カースト』

阿部 利彦あべ としひこ

星槎大学准教授。
授業のユニバーサルデザイン研究会湘南支部顧問。発達障害のある子の魅力やサポート法についての講演・教員研修で全国各地を飛び回り、その取り組みはマスメディアでもたびたび取り上げられる。「見方を変えればうまくいく!特別支援教育リフレーミング」(中央法規)など著書多数。特別支援教育士SV。

尾ア 朱おさき あや

通常学級で、特別支援教育を進めたいと考えている宝塚市の教員。クラスで学ぶSSTパッケージ(すみれトランク)の開発と実践がある。関西UDに属している。宝塚市巡回相談員。特別支援教育士。

(構成:佐藤)

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