教育オピニオン
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発達障害がある子の保護者への花マルサポート法
NPO法人えじそんくらぶ代表高山恵子
2017/10/15 掲載

1 まず保護者の話の傾聴と共感

 先生としては、いろいろ保護者に対してアドバイスをしたいと思われることが多いと思います。しかし、アドバイスがすっと入る保護者もいる一方、それによってやる気をなくしてしまったり、攻撃的なモードに入ってしまう場合はないでしょうか?
 素晴らしい支援やアドバイスも、相手が不快と感じたり、対応する余裕がないと感じている状況だったり、学びたいと思う欲求が出る前だと、まだアドバイスをするタイミングではないということにもなります。
 まずはしっかり、保護者の気持ちを評価しないでじっくり傾聴し、共感を示し、信頼関係を深めることが大切です。保護者になかなか伝わらないと悩んでいる場合は、この点を確認してみてください。
 アドバイスや正当論が、ストレスに感じる保護者もいます。「〜してください」と言われることに対して、「それができない私はダメな親」という風に感じてしまうこともあるのです。特に、保護者自身が虐待を経験している場合、ほめられた経験がないので、「もっとお子さんをほめてあげてください」というアドバイスが、保護者を追いつめる場合もあります。ですので、まず保護者が先生に対して、安心・安全を感じられるようにサポートすることが大切です。
 特に、アドバイスがなかなか入らないタイプの保護者に対しては、マズローの欲求の階層の理論が有効活用できます。この理論をもとに、@睡眠や食事は十分か、A家庭内暴力などがなく、安全の欲求は満たされているか、B夫婦関係や義理の親との間で信頼関係があるか、そしてC親としてのセルフエスティームは高いか、ということをチェックしてみましょう。

2 今日からできる!保護者サポートのポイント
  ―子どもの4つの特性の理解と対応法を保護者にレクチャーする

 保護者の悩みの大部分は、いうことを聞かないわが子をどうしたらいいか、ということだと思います。個人面談などで、具体的に子どもの行動観察の仕方とそれぞれの対応の仕方を伝えるといいでしょう。
 以下の図は、NPO法人えじそんくらぶのホームページからダウンロードできるコピーフリー冊子「子育てストレスを減らす3つのヒント」の一部です。たとえばこの冊子を使って、特性に合わせた具体的な対応法をお伝えしてみてください。

図

 この図にあるように、「片づけなさい!」と指示を出したあと、お子さんがその指示通りにやらなかったときも頭ごなしに叱らずに、4つの行動の分類:「聞こえていなかったかな?」「指示をうっかり忘れてしまったのかな?」「指示がわからないのかな?」「親に注目してもらいたくて、わざとの行動なのかな?」と、子どもの気持ちになって状況観察をするように、説明していただくといいでしょう。それぞれの行動の具体的な対応は、以下の通りです。

@聞こえていない
 聞こえていない場合は、まず今やっていることをいったん中断して、切り替えてもらうというサポートが必要になります。

Aうっかり
 うっかりの場合は、忘れてしまうので視覚的な指示としてやることリストを作るとか、「今何やるんだっけ?」などとやるべきことを思い出すような質問をしてみましょう。

Bわからない
 相手がわからない指示は、雑音と同じです。相手がわかるように、具体的に話すことが大切です。そのためには、指示は省略しない、「こそあど言葉」は使わない、「あとで」などのわかりにくい表現を使わずに「1時間後に」などのように数値化して伝える、などのことが大切です。

Cわざと
 わざとというのは、場合によっては愛着障害や反抗挑戦性障害が疑われる場合があります。聞こえているし、指示の内容も覚えているし、意味も分かっていますが、あえてやる(やらない)ということで注目を浴びたいと思うという、見捨てられ感などが根底にあるときに起こりやすいものです。この場合は、肯定的な注目をまず与えてあげることが大切です。

 このような冊子を使って、簡単な保護者支援講座をするというのも重要な支援です。『親子のストレスを減らす15のヒント』という本には、上記の4つの行動の分類をレクチャーするための指導マニュアルがついています。興味のある方はご覧いただければと思います。

3 保護者の特性や背景を理解した支援を

 発達障害のある子を持つ親は、同様に発達障害があることが多いといわれています。したがって、保護者支援と子どもの支援は共通しているところがあります。
 先生方が保護者支援をしていてうまくいかないときも、4つの行動の分類を参照してみるとよいでしょう。特に、相手がうっかり忘れっぽいタイプではないか、先生からの説明がわからないタイプではないか、じっくりコミュニケーションの中で相手の様子を観察してみるといいかもしれません。特に、鬱や不安障害の疑いのある保護者の支援は注意が必要です。一人で抱え込まず、臨床心理士や保健師に相談し、連携するといいでしょう。
 また、通常は母親が面談などにくるかと思いますが、母親は教師のいうことを十分に理解し、そのようにしたいと思っていても、父親が反対、義理の親と意見が合わないということで板挟みになってしまう方もいます。母親支援だけではなく、「家族支援」という観点で、母親と家族のメンバーとで価値観が違うときは、ぜひ先生がそれぞれの思いを傾聴し、それぞれの誤解を解くように通訳をしてあげてください。

高山 恵子たかやま けいこ

NPO法人えじそんくらぶ代表。ハーティック研究所所長。
臨床心理士。薬剤師。
玉川大学大学院教育学部 非常勤講師。昭和大学薬学部 兼任講師。

昭和大学薬学部卒業後、約10年間学習塾を経営。
アメリカトリニティー大学大学院修士課程修了(幼児・児童教育、特殊教育専攻)、同大学院ガイダンスカウンセリング修士課程修了。
児童養護施設、保健所での発達相談やサポート校での巡回指導で臨床に携わる。
AD/HD等高機能発達障害のある人のカウンセリングと教育を中心に、ストレスマネジメント講座等、大学関係者、支援者、企業などを対象としたセミナー講師としても活躍中。また、中央教育審議会専門委員や厚生労働省、内閣府などの委員を歴任。
これまでの経験を生かし、ハーティック研究所を設立。最新刊『イライラしない、怒らない ADHDの人のためのアンガーマネジメント』等、著書多数。

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