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「ネット上でのいじめ」を予防するための3つの案
静岡大学国際連携推進機構特任准教授青山 郁子
2017/12/1 掲載
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  • 生活・生徒・進路指導

 「ネットいじめ」ということばが世に出てきて10年以上が経過し、子どもたちに起こる様々なトラブルや事件が世間を驚かせてきました。この問題については、世界中で研究が行われ、心理・社会的影響やリスク要因など、多くのことが明らかになっています。また、2013年にいじめ防止対策推進法が施行され、多くの学校では、いじめ予防のための対策が求められるようになりました。
 しかしながら、閉じられたインターネット上でのコミュニティーで起こるトラブルは、外部からの発見が難しいのが現状です。そこで今回は、ネット上でのいじめを予防するための3つの案をお話します。

1 予防教育の充実

 第一に必要なことは、予防教育の充実です。予防教育とは、風邪や感染症予防にうがい・手洗いを指導するのと同様に、子どもたちの間の様々な問題が起こらないように事前に教育して予防することを目的としています。どの子もいじめはいけないことだと頭では理解していても、それが正しい行動につながるとは限りません。また、自分の行っている行為、または受けている行為が、いじめだとは気がついていないケースが多いのも現状です。
 したがって、子どもたちが、ネットいじめのメカニズムなど基礎的な知識、予防につながる友人関係のあり方、適切なコミュニケーションを学び、正しい行動ができるように、他者の視点に立てるように「予行練習」をするのです。幼い頃からインターネットに親しんでいる子どもたちでも、このようなスキルは自然と身につくものではありません。
 今は、無料でダウンロードできるネットトラブル予防の教材や指導案がたくさん公開されています(参考:安心ネットづくり促進協議会)。また、インターネット企業などのCSR活動(企業の社会的責任)の一環として、専門家による無料の出前授業も多く提供されています。例えば、「LINE」が開発したプログラムは、子どもたち自身に問題を「自覚させる」ことを主眼として、実際の問題をシュミレーションしながら、コミュニケーションを考えるようつくられています。これは単に「LINEで悪口を書かないようにしよう」「相手のいやがることをするのはやめよう」といった指導やトラブル事例紹介だけに止まらず、コミュニケーションの文脈を重視し、同じことばでも自分と他者の感じ方は異なり、誤解は簡単に生じる可能性があることを意識させるような内容になっています。
 このような外部リソースの活用により、多忙を極める先生方の負担を増やすことなく、子どもたちに予防教育を提供できるでしょう。

2 技術面での予防案

 第二に、技術面での予防案についてお話します。皆さんのお子さんや生徒さんのスマートフォンには、フィルタリングが適用されているか、ご存知でしょうか? フィルタリングを適用すると、使えないアプリがあるから解除してくれと子どもに頼まれて応じてしまった保護者の方は多くいらっしゃいますが、青少年インターネット環境整備法により、18歳以下のスマートフォンにフィルタリング適用は義務化されています。
 フィルタリングサービスは、有害サイトへのアクセスをブロックするだけではありません。個人情報を収集する目的などで開発された有害アプリのダウンロード禁止、インストール済みの有害アプリの制御、深夜早朝の時間にインターネットの利用を制限できる機能やアクセスログの収集など、多岐にわたっています。また、掲示板などの書き込み禁止機能などもあり、不用意な発言から炎上してしまうリスクも防ぐことができます。このフィルタリングは、携帯電話やスマートフォンだけでなく、ポータブルゲーム機・音楽プレイヤー・学習用タブレットでも、子どもたちがふれる機器のすべてに適用することが必須です。現状では、スマートフォンのフィルタリング設定はやや複雑ですので、説明責任のある販売会社や携帯電話会社など、事業者に問い合わせ確認してみてください。
 ネットいじめは、学校内だけで起こるものではありません。ネット上の悪意のある人物とつながらないようにするために、技術面から子どもたちを守ることは今すぐにできることです。

3 外部機関との連携

 最後に、外部機関との連携についてお話します。地元の警察にお願いして、交通安全教室を年間行事に組み込むのと同様に、サイバー犯罪の担当者と連絡を取り合い情報交換をする仕組みや、相談窓口を学校で確認するという作業は有効です。これは、「心の防災訓練」で学校内の危機管理と考えられます。
 ネット上でのトラブルが、学内の指導では対応できない想定外の大きな問題となった場合に、どのように外部機関と連携するべきか備えておくことは、迅速な対応につながります。先生方は、サイバー犯罪対策や法律などの専門家ではありませんし、子どもたちもそのことを知っています。しかし、本当に困ったときに相談できる詳しい専門家を先生方は知っているということで、子どもたちや保護者の方を安心させることができるでしょう。
 私たちは、誰しも子ども時代に、友達とけんかをしたり、ちょっとした誤解からトラブルに発展したなどの経験はあるはずです。しかし、当時はインターネットやスマートフォンがなかったため、ネット上でどのようにいじめが起こるのか、どんなきっかけがトラブルの種になるのかは、なかなかイメージしにくいかもしれません。しかし、先生方だけで問題を抱えこまず、子どもたちと一緒に考え学び、時に専門家の力を借りることで、大きな問題に発展する前の「ネットいじめの芽」の段階で、問題を予防することができるでしょう。

青山 郁子あおやま いくこ

2010年アメリカBaylor Universityで教育心理学の博士号を取得した後、千葉大学での特任研究員、東京福祉大学心理学部助教を経て、現在は静岡大学国際連携推進機構特任准教授。いじめ・ネットいじめ、予防教育に関する研究を行っている。

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