教師なら必ずマスターしたい《指導技術集》
「指導技術」を意識するかしないかで、ここまで変わる!教師なら絶対に身につけておきたい知識や技能を、具体的なエピソードをまじえて紹介。
マスターしたい指導技術集(14)
子どもをスマートに率いる5原則
京都文教大学准教授大前 暁政
2014/5/15 掲載
  • マスターしたい指導技術集
  • 教師力・仕事術

小学校低学年の子どもたちを、うまく率いることができません。

30も40人も小さい子が集まると、騒乱状態になってしまいます。

 子どもを、集団で動かすことになったとき。
 若い先生は、一様に悩むようです。
 というのも、幼稚園児や小学生が30人ぐらい集まると、おしゃべりはするし、走る子もいるし、騒がしくなるからです。
 
 そこで困った若い先生が、威圧的に対応してしまうことがあります。
 怒鳴ったり、大きな声を出したりして、静かにさせようとするのです。
確かにこれでも、子どもたちは静かになるでしょう。
 でも、やがて子どもが大きな声に慣れてきます。
 最初はびっくりして動くかもしれませんが、大きな声に慣れてくると、少々の声では動かなくなるわけです。
 そこで、教師がますます大きな声を出すことになります。
 その結果、声をつぶす人もいます。
 
 体育会系の男性教師で、担任3日目にして、声をつぶした例があります。
 「にぎやかだから、大きな声を出さないと、言うことを聞きゃしない。」
 かすれ声で、そうぼやいていました。
 威圧で、子どもを率いるには限界があります。

もっとスマートに、子どもを率いる方法はないのでしょうか。

 例えば、特別教室に集まって、学芸会の練習をするとしましょう。
 休み時間が終わり、子どもたちが特別教室に入ってきます。
 集まるには集まったのですが、騒がしい状態です。
 教師が前に立ち、普通の声で、「みなさん集まりましょうね」と言ったとします。
 真面目な女の子が5人ぐらい、教師のすぐ近くに集まります。
 でも、聞いていない子が15人ぐらいいます。
 聞こえていても、「遊んでやれ」というやんちゃな子も15人ぐらいいます。

 さて、騒乱状態の特別教室。
 どうすればスマートに子どもを集め、学芸会の練習ができるでしょうか。

 若手に尋ねると、いろいろな答えが返ってきます。

「他の先生と協力して座らせればよい」
「真面目な子に集合をかけてもらえばよい」
「大声で叫んで、叱ればよい」

 これらの答えは、「教師の統率」意識が、少しだけ欠けている気もします。
 人任せですし、怒鳴ればよいといった安易な方法に頼っているからです。

私が若手教師に教えた方法は、次のようなものでした。

 まず、集まってきた5人の正直者をほめます。

「立派ですね〜。さっと集まっている!さすがですね。」

 そうすると、ほめられたい子が集まってきます。10人ぐらい集まってきます。
 でも、あとの25人はまだ遊んでいます。特別教室は騒がしいままです。
 
 次に、子どもを待たないで話を始めてしまうのです。
 「みなさん、学芸会のめあては何でしたか?」
 「◯◯でーす!」(子どもが一斉に言う。)
 「そうですね。じゃあ、今日は歌の練習からやりますからね。廊下からこの部屋に入るまでをやります…。」
といった具合に、授業を始めてしまうのです。
 教師は、あくまで笑顔です。にこにこして始めるのです。

 すると、「やばい!始まった!」と子どもたちが気付いて、集まってきます。
 走って教師の元に集まる友達を見て、気付いていなかった子も集まります。
 これで、20人ぐらいは集まってきます。
 残りは、15人ぐらい。
 筋金入りのやんちゃですが、集団の半分が集まっていれば、流れに従わざるを得ません。
 「おい!そろそろ始まるぞ!」やばい!話が聞けなくて分からなくなる!」などと言いながら、集まり始めます。
 遅れて、全員がようやく集まりました。やっと特別教室は静かになりました。
 
 このとき、次のように言います。

「学芸会のめあては、見ている人を感動させようでしたね。…今日、チャイムが鳴り終わったときに、集まっていた人は手を挙げなさい。その人は立派です。集合も早い方が見ている人は気持ちがいいですよね。次は、早く集まりなさい。」

 このように、趣意説明をします。「望ましい行為」と「なぜそれが望ましいのか」を説明しておくのです。

 そして練習を開始します。
 開始の前に、今日のゴールを伝えます。

 「今日は、かっこいい演技を目指してください。」

 そうして、入場から練習します。
 するとさっそく、普段通りの感じで動く子がいます。中には、ふざけている子もいます。休み時間の騒々しい気分がまだ抜けていないのです。
 そこで、入場してすぐに、「ストップ」をかけます。

「だめです。かっこよくないですね。もっと、背筋を伸ばして入ってきなさい」

 最初からストップをかけて、気を引き締めるのです。
 全部通してからやり直しをさせると、「また最初からか」とか、「振り出しに戻ってめんどう」といった思いが強くなります。
 そうではなくて、開始して教師がだめだと思ったら、すぐにやり直しを命じるのです。そして、できていたら、力強くほめます。
 この時点で、もう子どもたちは、学芸会の練習を頑張ろうと思うムードになっています。後の指導もスムーズにいくというわけです。

 このように、子どもをスマートに動かすには原則があります。
 私が若手に示した原則は、次の5つでした。

@正直者をまずほめる。
A子どもを待たずに始めてしまう。
B望ましい行為を、趣意説明する。
C活動のゴールを共有させる。
Dだらだらしていたら、すぐにやり直しを命じる。やり直してできたら、力強くほめる。

 若手に教えたこの方法。
 これを使えば驚くほど素直に子どもたちが動いたそうです。
 教師ならば、子どもを集団として動かしていく方法を知らないといけないのです。

大前 暁政おおまえ あきまさ

昭和52年生まれ。岡山県の公立小学校教諭を経て、京都文教大学の准教授(理科教育)として赴任。理科の授業研究が認められ「ソニー子ども科学教育プログラム」に入賞。著書に、『子どもを自立へ導く学級経営ピラミッド』『プロ教師の「折れない心」の秘密〜悩める教師への50のアドバイス〜』『プロ教師直伝! 授業成功のゴールデンルール』『プロ教師の「子どもを伸ばす」極意―学級&授業づくりマスターBOOK―』『スペシャリスト直伝!板書づくり成功の極意』『スペシャリスト直伝!理科授業成功の極意』(以上、明治図書)、『必ず成功する!授業づくりスタートダッシュ』(学陽書房)、『NHKおじゃる丸 クイズでおじゃる 目指せ小学校クイズ王』(執筆協力、NHK出版)などがある。
著者HP:『大前暁政の教育』

(構成:及川)

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