- 著者インタビュー
- 生活・生徒・進路指導
私の大学院での専攻は臨床心理学、カウンセリングでした。臨床心理学者の故河合隼雄先生の言葉に「人間理解は命がけの仕事である」という言葉があります。児童生徒を理解しながら指導することは、まさにこの言葉通りだと思います。
文部科学省の通知には「いじめられている児童生徒を徹底して守り通す」という言葉があります。大切な言葉ですが、「言うは易く行うは難し」だと思います。
これだという決意、信念をもって指導するから問題が解決するのだと思います。自分自身をかけることもなく、責任を取る気もなく、ただ「いじめ、暴力はいけない」と言うだけでは、虫がよすぎると思います。これが私の実感です。
本書の二章にも書きましたが、私が規範意識の授業で「万引きは窃盗罪という犯罪」といったことに対して、生徒は「万引きと聞いて、かわいらしく聞こえるけど窃盗罪という罪を犯したことになります。すごく怖く思えてきました」と感想を書きました。この感想を読んだとき、ハッとさせられました。
「いじめ」という言葉を使った場合、罪の意識が軽くなる感覚があるように思います。それは、何が起きたかはっきりせず、物事がぼやけるからです。
教師は、何が起きたのか、なぜ起きたのか、何がいけないのか、どのような指導が必要かについて深く考えることが大切だと思います。
横浜市では、生徒指導体制を強化するため、全市立中学校に生徒指導専任教諭を配置しています。生徒指導専任教諭は、生徒指導に専念するため、週当たり授業時数は10時間以内に軽減されています。具体的には、校内教育相談の推進役、担任や学年への相談支援、地域や関係機関対応など、コーディネーターとしての役割を果たします。近年、小学校にも児童指導専任教諭が配置されるようになりました。
メリットは、警察官、家庭裁判所調査官など、異なった職種の方と出会う機会が多く、視野が広がったことです。デメリットは、生徒と接する機会が限られてしまうこと、学年所属がないため孤独を感じてしまうことです。
問題行動を起こしてしまった生徒の中には、自分が悪いと分かってはいても、親や学校の先生に指導されると、「うるせー」「お前には関係ない」と反抗してしまう生徒がいます。彼らは、物事を自分に都合よく解釈して、しっかりと自分と向き合うことができないでいるのです。そのような場合でも、警察では、「社会で認められない行動は、学校でも認めない」という毅然とした指導をします。「社会の壁」を実感することは、彼らが成長するために貴重な経験となるはずです。
私も試行錯誤しながらやってきました。その経験は自分自身の糧となっていると思います。生徒指導に特効薬はありません。自分の経験が、生徒指導に悩んでいる先生方のお役に少しでも立てればと思い、執筆した次第です。