著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
脱ブラック化!スクールリーダーから始める“働き方改革”
奈良県奈良市立済美南小学校教頭中嶋 郁雄
2017/9/1 掲載
  • 著者インタビュー
  • 教師力・仕事術
 今回は中嶋郁雄先生に、新刊『仕事に忙殺されないために超一流の管理職が捨てている60のこと』について伺いました。

中嶋 郁雄なかしま いくお

1965年、鳥取県生まれ。1989年奈良教育大学を卒業後、小学校の教壇に立つ。「子どもを伸ばすためには、叱り方が欠かせない」という主張のもと、「『叱り方』研究会」を立ち上げて活動を始める。教育関係者主宰の講演会、そして専門誌での発表が主な活動だったが、噂が噂を呼び、大学や一般向けにも「心に響く叱り方」といったテーマで、セミナーを行うようになる。
主な著書に、『その場面、うまい教師はこう叱る!』(学陽書房)、『教師の道標(みちしるべ) 名言・格言から学ぶ教室指導』(さくら社)、『叱って伸ばせるリーダーの心得56』(ダイヤモンド社)、『「しなやかに強い子」を育てる:自律心を芽生えさせる教師の心得』(金子書房)、『クラス集団にビシッと響く!「叱り方」の技術』『新任3年目までに知っておきたい子どもがまとまるクラスづくりの技術』『授業も学級経営もガラッと変わる!「3分間」時間術』(以上、明治図書)など多数。

―教員の多忙化、というのが叫ばれて久しいですが、中嶋先生ご自身のご実感としてはいかがですか?

 私が教師になった四半世紀前は、まだ携帯電話はなく、教育現場にようやくワードプロセッサが使われ始めたころです。パソコンなどは、ごく限られた教師が研究を試みていた頃です。当時は、生活科が導入されるなど、教育改革が叫ばれてはいましたが、基本は、それまでと同じ方法で仕事をしていれば、まず大丈夫でした。ベテランの先生もたくさんいて、若い教師は、色々教えてもらうこともできました。気持ち的にも時間的にも、ゆとりを持って仕事に取り組むことができていたように思います。
 現在は、様々な情報を瞬時に手に入れることができるようになりました。その便利さが、逆に多忙を生み出していると言われています。学校現場も例外ではないことを、管理職になって、身をもって感じています。文部科学省や教育委員会に提出する文章やアンケートなどが、毎日のように電子メールでやってきます。
 また、世間や保護者が、学校・教師を見る目が変化しています。学校に求めることが多様かつ多量になっていることも、多忙の原因です。管理職をしていると、様々な保護者に対応しなければなりませんが、対応に多くの時間を費やさなくてはならない案件が、年を追って増えています。

―本書カバーをめくったところには、「できる教師はやっている 仕事の取捨選択」というフレーズがあります。選択、とりわけ“捨てる”ことが仕事をするうえでなぜ大切なのでしょうか。

 教師には、義務教育特別手当が保証されていて、定刻に退勤しても、何時間も残って仕事をしても、金銭面の損得は生じません。ですから、教師には「残業」という概念がありません。それは、仕事をする時間に上限が無いことを意味します。教師になるような人は、真面目で誠実な人が多いので、「子どものために」と思えば、労力を費やすことを惜しみません。やる気があって誠実な教師ほど、「あれもやりたい。これもやっておきたい」と、どんどん仕事を抱え込む傾向があります。
 しかし、どんな人にも限界があります。あまりにも無計画に仕事を抱え込んでいくと、本当に「重要で必要な仕事」が何なのか、分からなくなってしまいます。教師という仕事の本筋を見失ってしまったり、軽重を見誤って大失敗したりする危険があります。また、抱え込んだ仕事が自分のキャパシティーを超えると、心身を患ってしまうこともあります。
 仕事は、人生を充実させるうえで、とても大切なものです。「仕事は人生充実のツールとして活用する」ということを忘れてはいけないと思います。仕事に自身の人生を利用されてはいけないのです。不要なものは、思い切って捨ててしまわなければ、本当に必要な仕事も分からないし、仕事をする意義も感じられなくなってしまうと思います。そのことを、リーダーである管理職が身をもって示す必要があると思っています。

―リーダーが“捨てる”を意識することで、学校全体が変わっていくのですね! とはいえ“捨てる”ことは心理的なハードルだったり、組織の慣習といったハードルだったり、なかなか実行に移すことが難しいという現状もあるかと思います。まず最初に“捨てる”べきものはなんでしょうか。

 捨てることが、もっとも簡単で、もっとも難しいものがあります。分かりますか?
 それは、「プライド」です。この場合のプライドとは、本当に自分が守るべきプライドではなく、年齢や肩書、見栄などからくる「虚栄心」とでも言えばいいのでしょうか。とにかく「おかしなプライド」です。
 教頭職になったころ、子どもと接する機会が少なくなり、施設管理や文章管理と言えば恰好いいのですが、庶務・雑務的な仕事に関わるようになり、「なぜ、オレが、こんな仕事を!?」と、不満を抱いていました。教頭の仕事は何から何まで初めてで、何が分からないのかさえ分からない状態であるにも関わらず、「オレは、30年近くも教師をしてきたプロだぞ」というおかしなプライドが、仕事の質と効率を落としていた時期がありました。へんなプライドがあると、分からないのに、「分からないことは恥ずかしいこと」と、分かったふりを装う。教えてほしいのに、「教えてください」と、人に頼むことができなくなる。実に非効率的だと思いませんか?

―“捨てている”ものがあるということは、“捨てていない”ことがあるということですよね。中嶋先生がどんなに忙しくても決して捨てないもの、教えてください。

 本当の意味でのプライドです。子どもを教える者として恥じない行動をする、人として誠実に行動する、自身の責任から逃れない……。お天道様に恥じない自分でいたいと思います。そのためのプライドは、絶対に捨てたくありません。

―最後に、「職場の先生方の多忙をどうにかしたい!」「管理職としてうまく仕事を回したい!」とお考えのスクールリーダーの先生方に向けて、メッセージをお願いします!

  現在の先生方は、実質的に多忙である以上に、相当な「多忙感」を抱いています。管理職ができることは、先生方の多忙感を少しでも取り除いてあげることだと思います。たとえば、同じ仕事をしていても、「がんばってるね。でも無理しないでね」と思ってくれる管理職の下で働くのと、「もっとうまくできないの? 能力を上げなさい」としか思ってくれない管理職の下で働くのとでは、負担が随分異なります。
 「好きこそものの上手なれ」と言われるように、楽しい職場、やり甲斐ある職場の中でこそ、効率的で質の高い仕事ができます。その環境を整えてあげるのが、管理職の役割ではないでしょうか。全国のスクールリーダーのみなさん、「学校はブラック」と言われないように、共にがんばりましょう!

(構成:林)

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