著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
「アイディアシート」で、算数の授業が10倍おもしろくなる!
筑波大学教育開発国際協力研究センター准教授礒田 正美ほか
2013/2/5 掲載
 今回は礒田正美先生、田中秀典先生、末原久史先生に、新刊『アイディアシートでうまくいく! 算数科問題解決授業スタンダード』について伺いました。

礒田 正美いそだ まさみ

筑波大学教育開発国際協力研究センター准教授。
アジア・太平洋経済協力(APEC)21カ国授業研究プロジェクト代表者。世界授業研究学会(WALS)理事。日本数学教育学会『数学教育』誌編集部長。

田中 秀典たなか ひでのり

札幌市立日新小学校長、北海道算数数学教育会副会長、日本数学教育学会代議員、初等教育研究会札幌市算数支部長。

末原 久史すえはら ひさふみ

札幌市立北光小学校教諭、北海道算数数学教育会小学校部会本部研究部副部長。

―本書で紹介されている「アイディアシート」とはどんなものか教えてください。

田中先生:子どもが本気になる算数授業をだれもができるようにする、そのために必要な既習を基にした授業展開の構想を示しています。子どもが本気になるには、適度な抵抗感「今までとちょっと違うぞ」「どうやって解決していけばよいのだろう」と思う問いが必要です。話し合いが白熱するには、友だちの考えに対する「あれ? なんだか違う」という不思議感覚も必要です。アイディアシートには、「あれ?」という子どもの素直な問い、「なるほど!」と納得するうえで必要な立ち返るべき既習、そう考えるとうまくないことがわかる反例などが示されています。

―本書の中で触れられている、算数の学習における「意味と手続きのずれ」とはどういうことなのでしょうか。

礒田先生:教科書には、そうなる理由や正しい説明は書いてありますが、例えば、十二を「102」と表記するなど、正しくはないけれど既習を基にすれば自然に子どもから生まれる考えなどは多くの場合書いてありません。このような考え方が生まれる原因は、先生が意味をしっかり押さえても、子どもは慣れると手続き=やり方で考えるようになることにあります。どれほど数をブロックで表して意味を説明しても、「10」を書き方(手続き)として一文字の十と見なせば、「102」という表記も子どもにとっては自然なものです。これが「意味と手続きのずれ」です。こういった「意味と手続きのずれ」を解消する方法が、アイディアシートに埋め込まれています。

―本書では、たくさんの板書が紹介されていますが、算数の授業で子どもの考えを取り上げて板書する際、先生が気を付けるべきことを教えてください。

末原先生:まず大切なことは、疑問や論点も含めて、自分の考えが板書に位置付けられていると子どもが思えるようにすることです。また、振り返りに使うために板書は消さないわけですが、振り返りができる板書にはコツが2つあります。1つめは、子どもが素直に感じる問い「あれ?」を拾い、板書すること。2つめは、多様な子どもの考えを黒板で構造化する際、子どもの「あれ?」に注目して表現を工夫し、個別の考えのよさを比較検討することです。その際、立ち返るべき既習や反例が板書に位置付けられていれば、問いや納得まで含めた振り返りができます。

―算数が苦手な子どもでも、「なるほど!」と納得できるような授業をつくるには、どのようなことを心がければよいのでしょうか。

末原先生:子どもの苦手意識の根底には、「どうやるのかな?(手続き)」という問いの他に「なぜそうやるのかな?(意味)」という問いがあります。やり方(手続き)を獲得させることは大切ですが、自分が普段感じる素直な疑問にも算数的な価値があり、算数を生みだすきっかけになることを実感させるのも大切です。そのためには、苦手な子どもの問いに他の子どもたちが応えられるよう、「○○君の悩みわかる?」「○○さんの問いに答えている説明は?」といった教師の働きかけが必要になります。

―最後に、読者の先生方に向けてメッセージをお願いいたします。

田中先生:本書に収録された24の事例とアイディアシートに示されている典型例を通して、ぜひ学び甲斐のある楽しい算数授業を実感していただきたいと思います。「難しかったけど、わかって楽しかった!」と子どもが語る授業、子どもが没頭し、もてる力を遺憾なく発揮し、仲間と考え熱中する授業を体験されることでしょう。本書を活用すれば、教科書に示されていない子どもの考えなども予想できるようになるはずです。教師が子どもの考えを予想できてこそ、(子どもが乗り越えられる)難しさを楽しむ授業になるわけです。算数授業が苦手な先生にも得意な先生にも、ぜひ手にしていただきたいと願っています。

(構成:矢口)
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