- 著者インタビュー
- 算数・数学
田中先生:子どもが本気になる算数授業をだれもができるようにする、そのために必要な既習を基にした授業展開の構想を示しています。子どもが本気になるには、適度な抵抗感「今までとちょっと違うぞ」「どうやって解決していけばよいのだろう」と思う問いが必要です。話し合いが白熱するには、友だちの考えに対する「あれ? なんだか違う」という不思議感覚も必要です。アイディアシートには、「あれ?」という子どもの素直な問い、「なるほど!」と納得するうえで必要な立ち返るべき既習、そう考えるとうまくないことがわかる反例などが示されています。
礒田先生:教科書には、そうなる理由や正しい説明は書いてありますが、例えば、十二を「102」と表記するなど、正しくはないけれど既習を基にすれば自然に子どもから生まれる考えなどは多くの場合書いてありません。このような考え方が生まれる原因は、先生が意味をしっかり押さえても、子どもは慣れると手続き=やり方で考えるようになることにあります。どれほど数をブロックで表して意味を説明しても、「10」を書き方(手続き)として一文字の十と見なせば、「102」という表記も子どもにとっては自然なものです。これが「意味と手続きのずれ」です。こういった「意味と手続きのずれ」を解消する方法が、アイディアシートに埋め込まれています。
末原先生:まず大切なことは、疑問や論点も含めて、自分の考えが板書に位置付けられていると子どもが思えるようにすることです。また、振り返りに使うために板書は消さないわけですが、振り返りができる板書にはコツが2つあります。1つめは、子どもが素直に感じる問い「あれ?」を拾い、板書すること。2つめは、多様な子どもの考えを黒板で構造化する際、子どもの「あれ?」に注目して表現を工夫し、個別の考えのよさを比較検討することです。その際、立ち返るべき既習や反例が板書に位置付けられていれば、問いや納得まで含めた振り返りができます。
末原先生:子どもの苦手意識の根底には、「どうやるのかな?(手続き)」という問いの他に「なぜそうやるのかな?(意味)」という問いがあります。やり方(手続き)を獲得させることは大切ですが、自分が普段感じる素直な疑問にも算数的な価値があり、算数を生みだすきっかけになることを実感させるのも大切です。そのためには、苦手な子どもの問いに他の子どもたちが応えられるよう、「○○君の悩みわかる?」「○○さんの問いに答えている説明は?」といった教師の働きかけが必要になります。
田中先生:本書に収録された24の事例とアイディアシートに示されている典型例を通して、ぜひ学び甲斐のある楽しい算数授業を実感していただきたいと思います。「難しかったけど、わかって楽しかった!」と子どもが語る授業、子どもが没頭し、もてる力を遺憾なく発揮し、仲間と考え熱中する授業を体験されることでしょう。本書を活用すれば、教科書に示されていない子どもの考えなども予想できるようになるはずです。教師が子どもの考えを予想できてこそ、(子どもが乗り越えられる)難しさを楽しむ授業になるわけです。算数授業が苦手な先生にも得意な先生にも、ぜひ手にしていただきたいと願っています。