- はじめに
- 1 「あれ?」→「なるほど!」がある問題解決授業のつくり方
- 3つのポイントと6つのスタンダード
- ポイント1 「あれ?」を生み「なるほど!」を引き出す
- スタンダード1 子どもの考えを予想する
- スタンダード2 子どもと本時の目標を共有する
- ポイント2 お互いに判断を求められる状況においてこそ,子どもたちは考えや理由を説明したくなる
- スタンダード3 自ら考え,判断し,表現させる
- スタンダード4 その授業で必要な既習の意味を学び直す場を設定する
- ポイント3 意味と手続きのつながりに基づいて教材研究をすれば,子どもの「あれ?」「なるほど!」を予測し,指導系統を見通した計画が定められる
- スタンダード5 意味の手続き化と手続きの意味化を区別する
- スタンダード6 板書とノート指導で自ら学び自ら考える子どもを育てる
- 2 「アイディアシート」を生かした問題解決授業スタンダード
- 「あれ?」を生み,「なるほど!」を引き出す
- 「あれ?『その他』は2位でいいのかな?」(3年ぼうグラフ)を例に
- 3 「アイディアシート」を生かした問題解決授業づくり実践編
- あれ? たしざんかな,ひきざんかな(1年ひきざん)
- あれ? 103かな,1003かな(1年20よりおおきいかず)
- あれ? うさぎはどこにいるのかな(1年じゅんばんのかずのけいさん)
- あれ? ひっ算で計算すると答えが出ないのかな(2年たし算のひっ算)
- あれ? たし算になるのかな,ひき算になるのかな(2年たし算とひき算)
- あれ? 2種類しか分け方がないよ(2年三角形と四角形)
- あれ? どっちの式でもいいのかな(2年かけ算)
- あれ? どうやって分けたらいいのかな(3年わり算)
- あれ? 39,174,1524のどれが本当の答えかな(3年かけ算のひっ算(1))
- あれ? 角の大きさは辺の長さなの,開き具合なの(4年角)
- あれ? 1この値段を基にしたときと,1パックの値段を基にしたときで代金が違う(4年わり算の筆算(1))
- あれ? あまりは15でいいのかな(4年小数のかけ算とわり算)
- あれ? 花だんの周りの長さが同じだから,広さも同じじゃないの(4年面積)
- あれ? かけ算したのに答えが小さくなった(5年小数のかけ算)
- あれ? あまりは4かな,0.4かな(5年小数のわり算)
- あれ? ひいて残った2畳はどうするの(5年単位量あたりの大きさ)
- あれ? 10÷3の答えは1/3なの,10/3なの(5年分数と小数)
- あれ? 1/3L,2/6L,2/3L,どれが本当の答えかな(5年分数と小数)
- あれ? 長方形を傾けても面積は同じかな(5年三角形や四角形の面積)
- あれ? 4/5÷3では今までの方法が使えない(5年分数のかけ算とわり算)
- あれ? 答えが2つになったよ(6年分数のかけ算)
- あれ? 2:5の「5」はどこからきたの(6年比と比の値)
- あれ? 拡大すると形が変わってしまうよ(6年拡大図と縮図)
- あれ? 平均や最大値だけで比べたらだめなのかな(6年資料の調べ方)
- あれ? 味は12通りでいいのかな(6年場合の数)
- 4 「アイディアシート」で授業を変えよう!
- さあ,新しい授業展開を構想しよう
- アイディアシートの記入の仕方
- 1年「なんじなんぷん」の授業のアイディアシート例
- 2年「分数」の授業のアイディアシート例
- 3年「時こくと時間」の授業のアイディアシート例
- 3年「長さ」の授業のアイディアシート例
- 4年「垂直と並行」の授業のアイディアシート例
- 5年「体積」の授業のアイディアシート例
- 5年「平均」の授業のアイディアシート例
- 6年「比例」の授業のアイディアシート例
- おわりに
はじめに
「じゅうに」を表記させると,「102」と書く子がいたり,「12」をおはじきやブロックでかたどる子がいることは,実践や先行事例に学び知ってはいた。しかし,誤りも含め「子どもはこう考える」と経験的に知っていても,「なぜ,子どもがこう考えるのか」という理由はわからなかった。今から二十数年前,礒田正美先生とお会いし「意味と手続き」というキーワードを教えていただいた。実践と理論が見事に結実したのである。目から鱗であった。
既習の「意味」を基に「手続き(パッとできる)化」された内容を知ると,拡張場面において典型的なずれ,本書でいう「あれ?」という状況が発生するルーツが判明した。例えば,1cm=10mm,1L=10dLを学んだ当初は,1dLマスが10杯で1Lマスが1杯になることを算数的活動を通して学ぶ。3LをdLに換算するときには,図や念頭で30杯を思い浮かべ,30dLと答える。この単位換算に習熟していくと,10杯分という「意味」を失い,「10倍する」「小さい単位にするには“0”を付ける」という手続きでパッと解答しても正答になる。こういった状況で「3mは何cm?」と問うと,半数近くの子が「30cm」と答えた。量感をもたせる活動を増やしても反応に大差はなかった。指導経験から知り得た子どもの「あれ?」という反応は,教科書の新たな単元の導入場面や小単元のはじめの場面で,「意味と手続きのずれ」として必然的に生ずるという理論を前提にすることで,教材研究―子どもの考えの予測―が可能になったのである。
教育実習に来ている学生に,授業をするに当たって一番困ることは何かとたずねると,「子どもが,予想外の反応をしたときにどう対応したらよいのかわからない」という答えが返ってくる。正答の多様性は予測できるのに,「誤答の予測がつかない」「なぜそのように考えたのかがわからなくて,頭がパニックになる」というのである。
指導法のまずさによってではなく,既習手続きの適用範囲を超える拡張場面において生まれる「わからなさや悩み」がある。この「わからなさや悩み」,その結果としての不完全な子どもの考えの裏には,子ども自身が獲得した意味や手続きと,そのずれが存在する。そして,このような反応は,教師自身がパニックに陥り,処置に困る考えとして無視される授業が多かったのではないか。意味と手続きのずれに着目して,子どもの学びの多様さを事前に把握しておけば,無視されてきた子どもの不完全な考えや悩みを,あらかじめ単元構成や授業展開の中に組み入れることができる。
また,意味と手続きのずれによる「あれ?」から,子どもの考えが対立・拮抗する場面が生じるが,そのまま平行線で終わってしまう授業もある。そうならないために,学級の全員が納得できる既習の意味(立ち返るべき既習)は何か,教材研究を通して教師が事前に把握しておく必要がある。
1/2+1/3=2/5と答える子どもに正論を振りかざし,間違っていることをいくら指摘しても,頑なに正しいと答える場合がある。こんなとき,「もし1/2+1/3=2/5が正しいとしたら,1/2+1/2=2/4になりますよ?」と問いかける。「もし〜としたら,○○になりますよ?」と,「〜」も「○○」も相手の立場に立っていったん肯定し,既習との矛盾に気付かせる。反例を用いて「なるほど!」という納得を引き出すのである。
本書は,「意味と手続きのずれ」に着目し,「わからなさや悩み」によって生じる子どもの「あれ?」を授業の中に積極的に位置付け,立ち返るべき既習や反例などによって「なるほど!」と子どもが納得する場面をつくることで,子どもの考えを生かす授業,子どもがお互いの考えを知り,修正し,発展させる授業を展開する目的で構成されている。授業事例とアイディアシートの例を参考に,ぜひそのような授業を創造していただきたい。
最後に,監修に当たられた筑波大学の礒田正美先生と,本書の出版に際してお世話になった明治図書出版の矢口郁雄氏に深く感謝したい。
2013年2月 /田中 秀典
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- 明治図書