著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
生徒が手にとって使える学習具で、数学のイメージが180°変わる!
北海道釧路町立昆布森中学校教諭渋谷 久
2012/2/22 掲載
 今回は渋谷久先生に、新刊『わかるから楽しい! 中学校数学 おもしろ教材コレクション』について伺いました。

渋谷 久しぶや ひさし

北海道釧路管内公立中学校勤務。北海道教育大学非常勤講師。
1958年北海道釧路市生まれ。東京理科大学理学部卒業。北海道教育大学大学院教育学研究科修士課程修了。主な著書に、『観察・実験を取り入れる数学の授業―紙教具がつくる数学とのふれあい―』 (単著、明治図書)、『特別支援教育と算数・数学のコラボレーションに向けて』(共著、東京書籍)など。その他に、東京書籍平成24年度版中学校数学教科書『新しい数学』の教材考案など。

―本書には、この春から完全実施される学習指導要領の目玉とも言える「数学的活動」に活用できそうな教材がたくさん収録されています。これらの教材を使って数学的活動を展開する際に配慮するべきことを教えてください。

 数学的活動とは、対象に働きかけるとそこから数学的な内容が跳ね返ってくる波が存在する活動ではないかと考えます。本書に収録されている学習具を操作することで、生徒それぞれが数学をとらえられるようになります。それは、生徒個々の活動や思考の自由を保障することであり、ぜひ生徒一人ひとりが学習具を使う場面をつくっていただきたいと思います。数学的活動の楽しさを、目や手によって実感できるはずです。学習において獲得したものが自分のものであるという自覚は、新たな課題へ向かうエネルギーになります。また、第1章に掲載している現物実験のプロセスを意識して授業を構築すれば、学習具はより大きな力を発揮するはずです。

―本書の後半には、生徒が手軽に使うことができる様々な「ライト学習具」が収録されています。学習内容を理解する手助けとなるような「ライト学習具」の活用のポイントを教えてください。

 「ライト学習具」は手軽に扱えますが、数学的概念・原理・法則のイメージをしっかりととらえる手助けになります。中にはノートにはり付けることができるものもあり、思考の過程がわかる生きたノートをつくり上げます。復習や宿題をする際に、授業を再生できる利点もあり、ライト学習具による動く記録は、自分で導く力の形成に役立つと考えます。準備は簡単にできますが、ソフトウェア(数学的内容)、ハードウェア(ライト学習具)、ユースウェア(学習具の使い方や授業の展開)の3つが有機的に働くことが大切ですので、授業前に先生が実際に操作してみることをおすすめします。

―本書に収録されている教材は、身の回りにある素材を生かしてつくられているものが少なくありません。渋谷先生は、どのようなことに着目して教材づくりのヒントを得られているのでしょうか。

 もちろん、数学にかかわる書物やインターネットからヒントを得ることはありますが、直接数学には関係のない書物から得られることの方が多いです。着眼点は、知的なおもしろ味や不思議さを感じ取れる生活素材や自然現象、他の教科で扱われている内容です。これらを数学の授業に適用させることを考えます。また、板書計画をつくる際に、図を利用して説明することがあります。その図に動的な要素が含まれる場合は、学習具に変換できます。それは、生徒自身の手によって数学を見つけさせたいという願いの表れでもあります。本書に収録されている学習具が全国で活躍するとともに、先生方の教材、教具、学習具づくりのヒントになればうれしいです。

―本書には、収録されている教材を使った授業展開例も示されています。特に、数学が苦手な生徒も積極的に参加できるような授業づくりの工夫を教えてください。

 本書に収録されている学習具は、数学が苦手な生徒を意識してつくられています。「教具」ではなく「学習具」という言葉を使っているのは、主体的な活動によって、どの生徒にも「わかった」「自分で考えた」「楽しい」「うまくいった」という経験をさせたいからです。また、学習具の操作や処理の状況によって、生徒の活動や思考の状況を把握でき、遅れがちな生徒には、学習具を媒介にして指導することができます。また、ゲームやパズルなども、どの生徒も同じ土俵で行うことができ、自分の努力の成果を試すことができるため、有効な方法と言えます。

―最後に、“わかる、楽しい”授業をつくりたいと毎日奮闘しておられる中学校数学科の先生方にメッセージをお願いいたします。

 授業が“わかる、楽しい”ものになっているかどうかは、生徒の表情を見ればわかります。まずは、授業をする先生自身がおもしろいと感じることも大切です。私は多くの学習具を開発してきましたが、それが自分の授業スタイルをつくっています。生徒の個性を生かす教育が重視されるようになって久しいですが、授業で私たち教師の個性を生かすことが、“わかる、楽しい”授業をつくることにつながると感じています。「わかる、たのしい」をシャッフルすると「わたし、いるのか」になります。ぜひ、生徒も先生も自分の存在を実感できる授業を構築してください!

(構成:矢口)
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