著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
先生のお話はこどもたちへのラブレター
親と子のメンタルヘルス研究所所長岸本 元気
2011/8/23 掲載
 今回は岸本元気先生に、新刊『こどものこころをグッとつかむ魔法のお話』について伺いました。

岸本 元気きしもと げんき

親と子のメンタルヘルス研究所所長、言葉がけコンサルタント、保育ソーシャルワーカー(保育士・精神保健福祉士)
1967年福岡県生まれ。親と子と先生のためのメンタルヘルス支援を行う、「親と子のメンタルヘルス研究所」にて言葉を使った認知行動療法(言葉がけセラピー)を行い、こどものうつや様々なメンタル不調、発達障がいをもつこどもたちの生活サポートを行う。また、数少ない保育現場専門のソーシャルワーカーとして様々な家族支援や子育て支援も行う。現在まで、児童養護施設指導員、保育士、学童保育指導員、スクールソーシャルワーカー、厚生労働省の育児両立支援コンサルタント、また育児・介護休業の支援などを経験し、現在もスクールソーシャルワーカーとして学校現場、保育現場でも活動している。「言葉がけ」や「親と子のメンタルヘルス」「子ども向け認知行動療法」の講演、セミナー活動も全国で行っている。

―幼稚園や保育園では、先生がこどもにお話をする機会がたくさんあると思います。こどもにとって、先生のお話とはどんな存在なのでしょうか。

 こどもたちにお話をする時に時々、本当はお話の中身って何でもいいんじゃないのかなって……、そう感じることがあるんです。こどもは、お話の内容ではなく、お話してくれること、そこに安らぎや保育者の愛情を感じて、ほっとしてるんじゃないかなって思うんですね。それは、日常的な普段の会話とは少し違う、なんだか温かなコミュニケーション。こどもにとってのお話。それは「先生からのラブレター」のようなものだと僕は思っています。だから、思わずうれしくなったり、にっこりしたり、安心したり、甘えてみたくなったり……。きっと「自分は愛されているんだ」とこどもたちは感じているんじゃないか、そう思っています。

―本書に収録された50 のお話はすべて書き下ろしとのことですが、どのようなことを意識して書かれましたか。

 当初は、僕がいつもこどもたちにお話している内容を文章として表現してみようと思っていました。そんな中、東日本大震災がおこって、日本中がとても大きな悲しみを抱えてみんなから笑顔が消えてしまったんですね。大人もこどもも、みんな……。しばらくして、沢山の人たちが、みんなを元気にするために今の自分にできることをはじめました。僕は、被災地のこどもたちだけでなく、日本中のこどもたちが元気になるために、今の自分に何ができるだろう、そう考えました。そこで、今回たくさんのメッセージを込めて、この50本のお話を新しく書くことにしました。この50本のお話のテーマは、「希望」であり「笑顔」です。

―園では絵本の読み聞かせもよく行われます。お話と絵本の読み聞かせの同じところ、違うところを教えて頂けるでしょうか。

 絵本もお話も、こどもたちを楽しませ、そしてワクワクさせる、「こころを育てる」という点では同じものです。でも、この二つは育てるものが少しだけ違います。大切な二つの能力の基礎です。それは「イメージ力」と「コミュニケーション力」です。絵本は、その絵とお話を通して、その世界感にふれていきます。そして、目の前のキャラクターや登場人物たちがありありと想像の世界でかけまわりはじめます。一方お話は、話し手の表情や口の動き、そして声のトーンを通して、その人の気持ちをつかむ、そうした能力を育てているんです。僕は今、小学校にも入って、学童期のこどもたちとも接していますが、そこで感じるのは、保育園や幼稚園の時期のお話や読み聞かせがこんなところで活きているんだ、ということ。そうした場面を沢山目にしています。お話と絵本の読み聞かせの効果は、きっと学童期に現われてくるんですね。

―自分でもオリジナルの物語をつくってみようという先生にアドバイスがありましたらぜひお願いします。

 人生の体験は、その人だけのもの。それぞれの人生は、「オリジナルなお話」です。是非先生方には、ご自身の経験を通して得た様々な知恵やうれしかったことを物語にして欲しいと思っています。僕も自分自身の人生の恥ずかしい話や失敗談を様々なキャラクターを通じて表現し、こどもたちに「僕のような失敗しないでね」、そんな思いを伝えています。お話を通してぜひ、先生方の素晴らしい体験やちょっと恥ずかしかったことも表現してみてはいかがですか? 先生の思いのこもった作品は、きっとこどもたちのこころに届くと思います。

―最後に、保育者の先生方へ向け、メッセージをお願いします。

 この本の50本のお話を通して先生方にお伝えしたいことがあります。それは、こどもたちは絵本やお話を読んで欲しいのではなく、先生にも一緒に楽しんで欲しい、そう思っているということです。その世界に一緒に入って、一緒に走ったり、感じたり笑ったり、その体験を共有したいのです。一緒に笑顔で楽しむこと。これがこどもたちの思いなのです。この本の50本のお話は、僕がこどもたちと一緒に遊び、暮らしている僕とこどもたちの共有できる世界です。是非、先生方には、新しい世界を作りだして欲しいと思っています。そう、先生が作り出す、こどもたちと先生だけの「お話の世界」です。きっと、こどもたちはその世界を思う存分、安心して楽しんでくれるはずです。なぜなら、それは大好きな先生が自分たちのために作ってくれた世界だからです。是非、こどもたちと一緒に、いやこどもたち以上に「お話の世界」を楽しんでみてください。

(構成:木村)
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